第604話・南無三宝、細き流れも大河となる(レムリアーナ冒険譚・その12)
瀬川21の死。
それが偽装なのか真実なのか分からないまま、それを調べる術もなく時間は過ぎていった。
といっても、もう八方塞がりなので気分一新、飛行艇の艦内を散策しつつあちこちのビュッフェや屋台を食べ歩き。
そのまま一旦仮眠を取り、地球に戻れるかと試してみたものの、どうにも目が覚めても飛行艇の中。
「……これって、地球で眠っている俺の体。結構やばくね?」
『怪我や病気によるものではなく、純粋に神威枯渇状態での意識混濁状態が続いているとなると、そうそう眠りから覚めることはあるまい。ちなみにだが、過去に神威枯渇で意識を失ったことは?』
「何度もある。それこそ長時間眠りっぱなしっていうのもザラだけれど?」
そう返事をすると、ヘルメスさんが沈黙。
え、これってかなりやばいの?
『そうさなぁ。まず大前提として、生身の人間には神威など存在しない。乙葉は一度亜神となっているので、その恩恵で神威を体内で生み出すことが可能になっている。というか、魂のレベルは以前と同じく亜神のままなのでな。つまり、人間の肉体に亜神の魂が宿っているという状態なので、自然回復にも時間がかかって当然』
『それでなくとも、君は体に無茶な負荷を掛け続けている。それを陰から支えているのが我々、魔皇であることを少しは感謝したまえ』
「あ、はい。いつもありがとうございます」
確かに、初めて魔術に覚醒した時から考えると、ここ半年は睡眠時間が伸びているように感じる。
それにだ、俺を取り巻く環境といい、出会った人々といい、とにかく摩訶不思議な出来事が3年間に起こり過ぎ!!
それこそ、最近の一番大きな出来事が『神との交信』という時点で、もうね、俺は戻ることができない場所に到達しつつあるんじゃないかなぁって思えて仕方ない。
それならば、ここから先は大きな出来事にはあまり触れないようにしつつ、人としての生活を取り戻したいと思っていたんだけれどねぇ。
『ま、無理じゃな』
『ここにいる時点で、それは不可能でしょう。先駆者としての立場がある事をお忘れなく……と、そろそろ時間のようですね』
「え、時間?」
それってどういう意味かと思っていたら、館内放送が。
――ピンポンパンポーン
『まもなく、停泊地ソートフォビアに到着します。滞在期間は24時間、次の出航までソートフォビア観光をお楽しみください』
「へ? 停泊地?」
それってなんじゃと思い、室内にあるモニターでスケジュールなどを確認。
この飛行艇は目的地に到着するまで、合計18回の寄港地を辿る必要があるらしい。
というのも、飛行艇の燃料を始め、乗客の食料や日用物資等の補給が必要であり、その為に丸々24時間近く掛かるとか。
逆に考えると、この24時間はあのエスパー乙葉達に奇襲される可能性が十分にあり得るっていう事。あの戦いの最中に奴らの魔力波長を調べておけばよかったと、今更ながらに後悔しているよ。
「まさかとは思うけれどさ……ヘルメスさんと鉄幹さん、あのエスパー乙葉の魔力波長を調べていたっていう事はないよね?」
『わしは無理じゃなぁ。ヘルメスはどうじゃね?』
『そこまでの事はしていませんね。もっとも、敵性感知を常時展開しておけば、万が一の時には奇襲を受けずに済みます。ということで、乙葉くんが発動してくれれば、それの維持はこちらで引き受けるがどうだね?』
え、それはすっごく助かるんだけれど。
そもそもこのレムリアーナには、肉体を伴って転移してきているのではないからね。
精神と魂の力により、かりそめの肉体をこの世界に構築している……っていう感じだったような気がするんだけれど。そこんとこ、調べるとキリがないんだよなぁ。
だってさ、俺がこの世界に初めて来たときは、虚無空間から脱出してたどり着いた感じだったから。
その時は肉体を持っていたのだけれど、今は肉体は仮初めのものじゃないかと。
『はっはっはっ。そこは深く考えない方がいい。肉体というものは、おおざっぱに纏めてしまうと【魂の器】でしかない。そのオリジナルを持ったままやって来たのか、こっちに魂だけ辿り着いて肉体を再構成したのか、その程度だとおもう』
「成程ねぇ……って、ちょいと待って、ということはエスパー乙葉や瀬川21だって、元の世界に肉体を持っているっていう事じゃないか。そして、こっちの世界で死んだ瀬川21は、死して魂が肉体に戻ったという事にもつながらない?」
『可能性は十分にありえる。が、今はそれを論議している場合ではないという事だ。まずは、自身の目的をしっかりと遂行することが大切では?』
いや、まったくその通りで。
まずは俺たちの世界の再生計画……もとい、封印大陸の再生計画を進めなくてはならないっていうことか。
そう考えて宝楼嶺魔から受け取った石板を引っ張り出してみると。
――ピーン、ピーン
うん、石板に創世のオーブを示す反応が二つ。
ひとつは石板の端っこ、そしてもう一つはこの飛行船の少し手前。
こんなの前回見たときは存在していなかったのだけれど、今は反応が発生している。
「ヘルメスさん、これって創世のオーブですかね?」
『可能性は小さいが、オーブもしくはそれの力を受けたものがこの先にいるという事だろう。そして距離的な感覚から推測すると、そのオーブの波動はこの先の停泊地に存在するということであり』
「それをエスパー乙葉達が奪いに来る可能性もあるということか。でも、それについては奴らが情報を得る事は出来ないと思うので、襲撃にくる可能性はないんじゃね?」
そう思ったけれど、何事にも慎重に対応したほうがいいというヘルメスさんの言葉に従い、まずは敵性感知の術式を発動。その制御と維持をヘルメスさんに託したところで、飛行艇が大きく揺れる。
――グラッ
『停泊地ソートフォビアに到着しました。それでは船外への移動を希望される方は、右舷ゲートにて手続きを行ってください』
おっと、今の揺れは接舷したということね。
それじゃあ、石板に導かれて移動するとしますかねぇ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




