第603話・愛楊葉児、会稽の恥ってほどじゃないけどさぁ(レムリアーナ冒険譚・その11)
ソファーにどっかりと腰掛け、堂々とカナン魔導商会の画面を開く。
尚、登録者及び登録者が許可した者にしか画面は見えないので、拡大して見ようと監視カメラに撮られていようと全く問題なし。
そもそも、認識出来るのが選ばれた者のみだから。
「さて、それじゃあ探してみますか」
現在必要なものは、脳活動が停止している瀬川21の蘇生方法。
世界が彼女のことを『死亡したもの』として認識し魂が離れてしまった場合、それは『魂の救済レベル』の蘇生なので俺としてもお手上げ状態。
だが、まだ魂が肉体から離れていないとすれば、それは『魂の救済レベル』ではなく『肉体の再生処置』となる。
事実、瀬川21の肉体についてはどこも損傷していなかった。
という事は、彼女の中のシステムが生命維持に干渉しているんじゃないかなぁと判断。それなら、まだ彼女を救う可能性だって存在する。
「ここで問題なのは、彼女の状態がどっちなのかっていうことだよなぁ」
現在は空間収納の中で時間停止処理を施しているため、彼女は肉体の死後そのままの状態で保存されている。
そして彼女を調べるという事は、今一度彼女を『時間経過の存在する世界』へと引っ張り出さないとならんわけで、その瞬間に『世界が彼女の死を確定する』という可能性だって否めないという事。
「だから、俺としてはどっちもクリアする手段を探さないとならないという事でね」
カナン魔導商会のメニュー欄をくまなく探し、一般の商品ではなく魔導関連商品を取り扱っているページを開き、そこに網羅されている商品を隅々まで検索。
「まあ、いつものダイエット薬とか回復薬については常時99本の在庫があるのはうれしいんだけれど。今はこれじゃないんだよなぁ」
そう思って調べてみても、やはり時間停止状態の存在を治療するための薬や魔導具なんて存在しない。
このまま放置するっていう手もあるのだけれど、それじゃあより詳細な情報を得ることなんてできやしない。
「かといって、カナン魔導商会でもお手上げとなるとねぇ……と、待てよ?」
確か、カナン魔導商会のメニュー欄には、『神威商品』っていうものも存在する。
今調べてたところ、そういったページがなかったのだけれど、ひょっとしたらそこには現在の問題点を解決する糸口になりそうな商品があるかもしれない。
ということで、駄目元でトップページの『サポートセンター』という欄をタッチ。
探して分からなければ、聞けばいい。
ということで押してみたのだが。
「そもそも、レムリアーナから繋がるのか? いくらカナン魔導商会が不思議ネット通販システムとはいえ、夢の中まで連絡が届くことはありえないか」
そう思いつつ、もう一度画面の隅から隅まで探してみるのだが。
やはり目的のものは見つけることができなかった。
――ピッ
見つけることはできなかったが、画面の上に『新着メッセージ』と記された小窓が開く。
「まじか。いや、流石はカナン魔導商会っていうところか」
そう思って新着メッセージの部分に触れてみると、画面が大きく切り替わった。
………
……
…
いつもお世話になっています。
乙葉浩介さまが現在探していると思われる『時間停止状態での死者蘇生およびそれらに付随する効果を持つ商品』ですが、そういったご都合主義的な物品については『現在は取り扱っておりません』ので。
また、万が一にもそれに近い商品を入荷し購入されたとしても、対象者には効果がない事を予めご説明させていただきます。
なお、反魂香やそれらに近しい物品でも、効果は発揮されませんのであらかじめご了承ください。
カナン魔導商会・乙葉浩介様担当・カルラ・テンセイ
………
……
…
「あ~、なんで俺の探しているものが判るのかっていうツッコミをしたいところだけれど。それを知っているという事も踏まえた上で、カナン魔導商会が取り扱いのない商品であり入荷予定もないっていうことは理解できた。そして、反魂香でも駄目……っていうことは、つまりそういう事なんだろうなぁ」
カナン魔導商会担当のカルラ・テンセイさん、とんでもないヒントをありがとうございます。
反魂香でも駄目っていう事は、裏を返せば『死んでいない』っていうこと。
でも、彼女の生命活動は停止しているのと、頭部生体脳が活動を停止していたっていうことを踏まえると。
「ここまでの情報から精査すると。彼女のあの体は義体、つまり予備が幾つも存在するものであり、魂は本体に存在するオリジナルの生体パーツ、つまり本物の脳に宿っている。そして彼女自身は目的を達したので、死を偽装したという事か。それじゃあ、目的はなんだ? 彼女の言葉が全て本当の事であると考えると、目的は俺と同じ、創世のオーブという事になるのだが」
でも、それを探す為の石板が奪われた訳ではない。
という事は、何らかの手段でその情報を手に入れたのか。
そして手に入れた情報は本体に送り届ければいい、それは念話というか同じ個体としての情報共有ネットワークがあると考えていいだろう。
「いや、まさかだろ?」
急ぎ両手で術式を構築し、室内全てを魔力により探査する。
俺と新山さんが居なかった時間帯、その間にこの部屋に監視装置もしくはそれに付随するものを設置していたという可能性は十分に考えられる。
もしくは、この飛行艇の保安システムに干渉してこの部屋を監視する手段を見つけたとか、とにかく未知の技術を使われていたとなるとちょっと厄介すぎる代物だ。
「乙葉浩介が請う、我が魔力糸よ、この室内の全てに触れて解析せよ。天啓眼、全周囲走査開始っ!」
――キィィィィィィィィィィン
俺の全身から光が放たれる。
これはすべて魔力糸の集合体であり、これに触れたものは瞬時に天啓眼により解析が行われる。
普段の『有視界内』だけではなく、物陰に隠れていようと収納されているものであろうと、魔力糸の入り込む隙間さえあればそこから内部に侵入し、隅々まで調べることができる。
なお、この魔術にはちょいと問題点があってねぇ。
一瞬でいくつもの情報が脳内に投影されるため、常人なら発狂しかねないということ。
それを俺は、並列思考と魔皇・ヘルメスさんと魔皇・鉄幹さんに助力してもらい負荷を軽減している。
「とはいえ……やっぱり人間のすることじゃないよなぁ」
気が付くと目の前が真っ赤に染まり、鼻から血が流れ始めている。
情報処理能力が肉体の限界点を越えた可能性がある、っていうか越えている。
瀬川先輩の深淵の書庫と連結していれば、すべてのデータを神技的超解析で処理できるのだろうけれど、俺の脳では無理。
『近年は、オルガノイド・インテリジェンスというシステムが研究されていると聞くが。先ほど回収した小娘は、それに疑似魂もしくは精神体を移植あるいはトレースしていたのではないかと推測できるな』
「オルガ……ってなんですか?」
いきなり専門的なことを語りかけるヘルメスさん。
そしてかみ砕いて教えてもらった事は、『オルガノイド・インテリジェンスとはすなわち、人間の幹細胞から培養された脳組織【脳オルガノイド】をコンピュータと結合させ、生物学的な処理能力を計算に活用しようとする新しい科学・技術分野である』ということ。
クローン脳にバイオチップを組み込んでコンピューターのようにしたっていうことなんだろうねぇ。
それを組み込んだのが瀬川21であるということね、了解。
「そして、室内からは監視カメラ、盗撮装置の類は【合法的なもの】以外は存在していないっていう事ね。まあ、保安設備としての室内監視用カメラはあるけれど、それはモニターオンしていないと稼働しないのか……つまり、この部屋にはなにも仕掛けられていないと」
『その上での可能性となると、先の瀬川21とやらには人の思考を読み取ることができるシステムが組み込まれている可能性があるという事だな。それを感づかれないようにするために、【自らの死】を偽装した。死者の蘇生などという【あり得ないこと】が行われない限りは、証拠は何一つ残らない』
そして、俺が死者を冒涜するような性格ではない事を理解していると。
彼女は自らの死により、それらの情報収集能力を全て消滅させた。
俺が、死者の肉体を調査するという外道な行為をしないことを理解して……っていうところか。
「やられた。もしもそうなら、彼女はどこかで生きているっていうことじゃないか」
『可能性は否定できないな。それこそ、現時点で彼らの持つ科学技術は、君の住む地球よりもかなり先のものであろうと予測ができる。つまり、解析するにしても時間が掛かり過ぎるということだ』
「そして、それができそうなメンツは限られているけれど、今はそれに費やすだけの時間はない……くっそ、ヘルメスさんの予測が正しいとしたら、どれだけ俺の事を理解しているんだよ」
いや、考えているとどんどんドツボにはまっていきそうで怖いわ。
ほんと、一か八かで瀬川先輩の深淵の書庫で解析してもらった方が、より正確な情報を入手できるっていうことだろうなぁ。
ほんと、頭が痛くなって来たわ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




