妹のせいで妹にされた兄の話・中編【現代】
ピッと目覚まし時計のアラームが鳴ろうとした瞬間、パシっとスイッチを押して停止させる。
毎朝の行為を終えると、わたしはゆっくりとベッドから体を起こす。
「んん~~……、良く寝た~~」
そう言いながら両手を挙げて背を伸ばして、強張った上半身を解す。
そして今度は膝を曲げて伸ばすを繰り返して、下半身の強張りを解す。
……うん、これでよし!
ベッドから起き上がり、先に洗面台で顔を洗って、トイレをしてから制服へと着替えて髪を整える。
「うん、今日もばっちり♪」
姿見に映る自分の姿を見ながら、わたしは満足気に頷く。
……同時に、俺としては何時ものように複雑な気持ちとなってしまった。
俺がまひるの妹にさせられてから10年が経ち、俺は小学生から高校生になった。
小柄だった背も少しだけ伸びて、体格も女の子らしく育った。
少し着飾って街中を歩けばアイドルにならないかっていう位の愛らしさがあると自負してしまうくらいに。
正直俺が俺だったときに出会ったりしてたら、一発で恋に落ちるくらいだろうな。
「…………これがもう、当たり前なんだよね」
つっ……と姿見に映る自分の姿を指でなぞりながら、呟く。
もう戻られない、元々の俺の姿が残る写真もまひるに処分させられて……今では上手く思い出すことができない。
俺は、俺だったことを忘れたくないのに……。
かつて諦めてしまいかけた想い、それが再燃したのは……
「っ! い、いけないいけない。速く朝ご飯の準備をしないと!」
弱気になった自分を振り払い、俺は姿見から視線を外してカバン片手にリビングに向かう。
リビングから台所に入ると昨日の夜、寝る前に予約したご飯を軽く混ぜてからササッとおかずを作る。
とりあえず、卵焼きと……キュウリのお漬物かな。
「あとは……昨日の残りをレンジで温め直して出せば良いよね」
呟きながら朝食を準備して行くと、ガチャリと扉が開いて欠伸をしながらまひるおねえちゃんが中へと入ってきた。
25歳、研究者。それが今のまひる……おねえちゃんの肩書きだった。
「ふぁ~ああ、おはようまやひゃ~ん♪」
「ひゃあ!? お、おねえちゃん。料理作ってる最中だから、抱きつかないでぇ!!」
「う~ん、良い香り~。やっぱりまやちゃんはあたしの癒しだ~♪」
そう言いながらまひるおねえちゃんはスンスンとわたしの臭いを嗅ぐ。
……正直変態にしか見えない。
わたしとしては臭いを嗅がれていることが恥かしくて顔が赤くなるし、俺としては情けない妹の姿に呆れてしまう。
……が、においを嗅いでいたまひるおねえちゃんの動きがピクリと止まった。
「……真夜ちゃん、あたしじゃないにおいがするんだけど?」
「っ!? き、気のせい……じゃないかな?」
「そうかなぁ? 10年振りにかいだいやなにおいなんだけどさぁ?」
ドクン、と胸が跳ねたけれど……その感情を表に出さないようにわたしは誤魔化す。
そんなわたしを目を見開いた状態で、まひるおねえちゃんはジッと見つめる。
その威圧に耐えつつも……俺は必死に耐える。
耐えていると……焦げたにおいが漂ってきた。って、焦げたにおい?
「わっ!? こ、焦げてるぅ!! お、おねえちゃん退いて! 席に座っててよもーーっ!!」
「あ、あはは、ごめんごめん~。…………でも、真夜ちゃんが嘘つくのもいやだな~」
軽く笑いながらまひるおねえちゃんは台所から去って行くのだけど、去り際にポツリと呟いていった。
その言葉に、わたしだおねえちゃんに嫌われちゃうという恐怖感を覚える。
だけど、震える体を抑えて……俺は必死に耐えつつ、焦げた卵焼きの代わりを焼き始めた。
●
チャイムが鳴り、授業が終わる。
勉強机に向かっていたため疲れた体を伸ばして整えると、カバンを手に駆け出す。
「真夜ちゃんまたねー」
「また明日ー!」
「今度遊びに行こうよ♪」
クラスメイトたちと会話を交わして教室を出て、更衣室へと向かう。
更衣室に到着し、自分のロッカーを開けると運動服に着替える。
着替え終えてグラウンドに向かうと、部活の部員たちが楽しそうに談笑をしてた。
「お待たせみんな! 準備は良い?」
「あ、真夜部長! 柔軟まだです!」
「それもそっか。来たばかりだしね。それじゃあ、軽く柔軟体操をしてから……校庭の外周を3周!」
「「はーい!」」
部員たちは楽しそうに返事を返して、思い思いに柔軟を行う。
それを終えると、部員全員で外周を走り始める。だが外周といっても侮るなかれ、1周300m近くあるので一キロ走っているようなものなのだ。
先頭を走るわたしは先に到着し、全員が走り終えるのを見届け……それぞれの今日の部活メニューを聞いていく。
筋肉をつけるためのトレーニング、クラウチングスタートの練習、長距離走での持久力を上げるために走る。
メニューを聞き終え、顧問を探す。……が、姿が見えない。
「……また寝てるんだろうな」
呆れながら溜息を吐きつつも、わたしは顧問がいると思う場所へと向かう。
多分、あいつならこの辺りで寝てるだろうな。
そう考えながら向かうと……いた。
「ぐぉ~~……すぴゅ~~……ふがが……」
「……10年経っても変わらないな。このいびきは……」
小さく、口の中で呟くように言いながら俺は木陰に大の字で寝転がっている顧問を見る。
懐かしい気持ちを抱きつつも、それを知っているのはわたしじゃなくて俺だから……気持ちを隠しながら顧問の肩を揺すった。
「先生、起きてください先生。部活動が始まっていますよ」
「ぐがっ? すぴゅるる~~……。まだねむらせろよぉ……マサァ……」
「っっ!! わ、わたしは……真夜ですよ。だから起きてください、……あきらおにいちゃん」
寝惚けている。そしてこいつを起こすのは基本的に俺だった。
だからクセで俺の名前を口に出しているのだろう。
それは分かる……分かるのに、ドクンと心臓が高鳴り……わたしの中の俺を刺激する。
だけど今の俺は真朝じゃない……、真夜だ。まひるの妹の、真夜なんだ……。
そう自分に言い聞かせながら顧問の、あきらおにいちゃんに呼び掛ける。
「ん、ふぁあぁ……。おー、真夜ちゃん。おはよう」
「おはようございます。でも放課後なのでおはようではありませんよ。それと速く校庭に向かいますよ!」
「わかったわかった。せっかちだなあ真夜ちゃんは」
「あきらおにいちゃん――じゃなかった、あきら先生が暢気なんです! 熱血教師っぽいことしてるのに変なところだけズボラなんですから」
悪い悪いと頭を掻きながら謝るあきらおにいちゃんと並んで歩きながら、わたしは校庭に向かって並んで歩く。
……並んで歩くと改めて気づくけれど、俺とあきらおにいちゃんの身長差は大きく違う。
もし、もしも、女の子にならなかったら、俺もこれだけの身長になれてただろうか?
そんなことを思いながら、俺はあきらおにいちゃんを見つめる。
そして最悪なことに、この姿を遠くから見つめる存在が居たことに俺は気づかなかった。
「真夜ちゃん、うそ……ついてたんだね。そんな嘘をつく子は…………じゃないよ」
と見つめる存在が呟いていたが……俺は気づくことはまったくなかった。
ちょっと3000文字辺りで区切りたかったので次に回します。




