ある復讐者の代償【妖怪退治】
今回は戦国時代とか江戸時代辺り風です。
――この刀ならば、化け物を討つことが出来る。
異国の神、女の姿をしたその神は蠱惑的な笑みを浮かべながら鞘に入った刀を拙者に差し出す。
その刀を拙者は受け取ろうと手を伸ばす。
何故なら、それを使うことで、拙者は仇を取ることが出来るのだから……!
炎々と燃える復讐の炎、その炎を絶やしてなるものか。消してたまるものか!!
――けれど、それを手に取り、全てが終わればお前はお前でなくなる。
伸ばした手が刀に触れようとする寸前。異国の神は拙者を見ながら言う。
拙者が拙者でなくなる。その意味が理解出来ない。
もしかすると、仇討つ化け物と同じようになってしまうのかも知れない。もしくはそれ以上の地獄を見るのかも知れない。
だが、だが……!
「構うものか……! 拙者は……拙者は怨みを晴らす。仇を討つ! 今の拙者にあるのはそれだけだ!!」
――そうか、ならば我は何も言うまい。……精々仇を討つことだ。
刀を掴む拙者を見届け、異国の神は何処へと姿を消した。
そしてこの日から拙者の仇討ちの旅……、化け物退治が始まった。
◆
ぎゃりぎゃりぎゃり、と金属と金属がぶつかり合う音が響き渡り、火の花が周囲に散る。
向かうは復讐者である拙者、対するは大型の化け物……大鬼と呼ばれる存在だった。
大鬼は巨大な鉈を豪快に振り回し、拙者の体を斬り刻もうとする。
その度に拙者は刀を降り、激しい音と火の花を周囲に散らしていく。
異国の神から譲り受けた刀、それはどのような攻撃でも砕けることも折れることもない、永久不滅の存在。
だから拙者は大鬼の鉈を受けきる事が出来る。
それが大鬼にどのような影響を与えるかは分からない。けれど、苛立っているのは確かだ。
ひと降りひと振りに力がこもり、怒りが交じっている。
それを感じながら、拙者は勝負を見極める。
『クソがっ! 何時まで打ち合ってくる!! いい加減に死ねぇ!!』
怒りが頂点に達したのだろう。大鬼は鉈を振り上げ、一気に振り下ろす。
対する拙者は刀を横に構えたまま頭上に上げる。
この攻撃を受けたならば、刀は無事だろうが……拙者の体が砕け散るだろう。
――ゴガッ!
「ぐ、ぅ……!」
その証拠に振り下ろした鉈を受けた刀はビクともし無い。その代わりに全ての衝撃は拙者へと降り注ぐ。
全身が砕けるような痛みを体が感じ、拙者は膝を突きかける。
この様子を見て、大鬼は勝ちを確信したのだろう。力が強くなる。
だが、この瞬間を待っていたのだっ!!
『な――!? ぐっ、グオオオッ!?』
頭上に構えた刀を斜めに傾ける。すると、力を込めていた鉈はギャギャギャと耳障りな金属を擦る音と火の花と共に地面に向けて滑っていく。
そして――ドグシャ! と鉈は地面に減り込み、大鬼は戸惑いの表情を見せた。
「貰ったぁ!!」
その表情を見届ける間も無く素早く体を動かす。足を前に出し大地を踏み締め、大地を蹴るように脚に力を込め、刀を握り締める手に力を込め、全霊を込めて腕を振り上げ刀を振るう、……己が全てを込めた一刀を大鬼の無防備となった首へと放った。
振り上げられた刀は、銀の光を放ち大鬼の首へと吸い込まれていく。
しかし斬られてたまるかと言わんばかりに大鬼の首に力が篭る。
『ガアアアアアアッ! たかが人が、逆らうと言うのか!! この大鬼にっ!!
お前たちは、我らに滅ぼされる。それだけで十分だろう!!』
血を吐き出しながら、拙者を睨み付けながら大鬼は吼える。
大鬼の血が拙者に掛かる。それは狂気染みた風貌だろうが、今の拙者にはこれで良い。
そう思いながら、怨みごとを吐き拙者を睨み付ける大鬼を睨み返す。
「それで十分、だと……? 貴様らはそれで十分だろうが――親を、友を、愛しき者を無残に殺された者はその怨みを抱いて行き続けるのだ!!」
怨みが、怒りが体全体に広がる。殺せ、殺せ、目の前の元凶を殺せ。
そう全身が告げる。そして、その声に従うように刀はゆっくりとだが、大鬼の首を刈り取るために動く。
『ま、待て! わかった。もう我は人を襲わぬ。それで良いだろう!?』
「良いわけ、無いだろう……! 貴様は、もう滅ぼされるだけだ……!!」
助かりたい。そう思っているのだろう、大鬼は拙者に向けてそう言う。だからそれに言い返すように拙者は言う。
そして大鬼の声は徐々に弱まり、拙者は渾身の力を込めて刀を振り上げた!
ゴキリ、と硬い感触が刀を伝い腕へと走る。
ああ、骨を斬ったのだ。そう思いながら振り上げた刀、崩れ落ちる大鬼の体と地面を転がる首。
鉄砲水のように首から噴出す血を浴びながら、地面に落ちる首を拙者は見つめる。
「…………ああ、終わった。終わったのだ……」
仇を、仇を取ったぞ……。
そう死んでしまった彼らに拙者は心から告げる。
終わった。そう思った瞬間、体全体に痛みが走りぬける。
「――――っぐ!? ぐあああああああああっ!!?」
全身を走り抜ける痛み。その痛みに耐えきれず、拙者はのた打ち回る。
これが、異国の神が言っていた代償。拙者が拙者でなくなると言う代償。
ビキビキ、メキメキと体中から音がする。その痛みに耐えるように、刀の柄を握り締める。
仇を討ち、全てを終えた。そんな拙者はいったい、なにになると言うのだ……?
そう思いながら、拙者の意識は闇へと落ちていった……。
◆
そして、どれだけ時間が過ぎたのかは分からないが……拙者は目覚めた。
同時に拙者の体は今までのものでは無いことも理解出来た……。
「せっしゃは……、どう、なったのだ……?」
ポツリと呟きながら、ふらふらと水場を目指し歩く……。あった。
見つけた水場の縁へとしゃがむと、拙者は顔を洗い水を飲む。
甘露、そう言えるほどに渇いた喉が水を求め、喉を鳴らしていく。
「は、ぁ…………」
水が全身を潤うのを感じ……強張っていた体が解れるように息を吐き、緊張が解ける。
そしてようやく拙者は水に映る己が姿に気が付いた。
女体、そう……女体だ。
化け物を殺すために鍛えた傷だらけの男の体。
拙者の体はそうだったのに、そこに映るのは紛れもなく女体。
遊郭に行き大金を摘まなければ味わうことが出来ないであろう程の美貌を持つ女子の姿だった。
「だが、これは……。はははははっ、これが……これが己が仇討ちの果てと言うことか……!」
美しい女子の顔は歪み、頬から涙が零れる。
何故ならその額には、自分が刈り取った化け物たちと同じ角が生えていたのだから……!
ああ、滑稽だ。滑稽だ! 仇を討ったその結果、同じような化け物に自分はなってしまった。
そう思うと拙者の心はグチャグチャとなっていく。
「拙者は、これから……どうすれば良いのだ……誰か、答えてくれ」
誰も居るはずが無い。そんな中で拙者は問いかける。
けれど誰も答えるはずが無い、化け物となった自分に声をかける者など――――っ!!
「悲鳴? 向こうからか……」
声が聞こえ、拙者はふらふらと立ち上がり、声がしたほうへと歩く。
すると、童が化け物に追われているのが見えた。
誰も居るはずが無い、それなのに「助けて、助けて」と必死に声をあげる。
そんな童を面白がりながら化け物は着かず離れずの距離で追いかける。
「…………ああ、そうか。仇は取った。けれど、化け物はまだ居る……居るのだ」
呟きながら拙者は何時の間にか手にあった刀を握り締める。
そして、拙者は駆け出す。
童を助け、化け物を殺すために。
・拙者の女体化外見:
服装:ボロボロの着物→鬼姫の着物
髪形:姫カット系
体型:170センチほどの美乳
口調:拙者
・その後:
助けた童は彼の化け物退治の旅へと同行し、甲斐甲斐しく世話をするようになる。
そんな童をどう扱うべきかと困りつつも、人の温かさに餓えていたために突き放すことが出来ずにいた。
化け物退治の旅は、初めは化け物が化け物を殺す。と恐怖されていたのだが、段々と人々は化け物を殺す鬼の噂を耳にしていく。
そして何時しか化け物と同じ扱いをされていた彼女は『鬼姫』と呼ばれ、化け物に襲われる者たちの希望となっていた。
そんな鬼姫の側には、一人の青年がいたとか居ないとか……。




