謎の彼女 3
「まぁ、いいや。ここで話すのもなんだし、家に入ってくれないか?」
「え? い、家って……あ、アンタの?」
「ああ。なんだ? そんなに口調が変わるほど焦って」
そう言われて眼鏡の女の子は慌てて俺から視線を反らした。
俺はそのまま眼鏡の女の子を通り過ぎ、玄関の扉の前に立つ。
「ああ、そうだ。アンタ、名前は?」
「え……な、名前?」
「ああ、名前くらい、あるだろ?」
俺がニヤリと笑ってみせると、眼鏡の少女は慌てているようだった。
目が泳いでいるのが丸わかりである。
その目の泳ぎ方も、どこかで見たことのあるかのような、見覚えのある泳ぎ方だった。
「わ、私の……名前は……」
「なんだ? 言いたくないのか?」
「え……ええ。あ、アナタなんかに名乗る名前はありません」
憮然とした態度でそう言うが、明らかに誤魔化しているのはばればれである。
「へぇ。じゃあ、俺が勝手に呼んでいいかな?」
「え? か、勝手に?」
「ああ、アンタ、とかじゃ呼びにくいしな。そうだなぁ……ああ、そうだ。俺の知り合いの名字でいいかな?」
「し、知り合い……?」
「ああ。犬井。うん。俺、アンタの事、犬井って呼ぶから」
「い、犬井って……あ、アンタねぇ……」
「なんだ? 犬井が嫌なら、自分の名前を名乗ったらどうだ?」
俺がそういうと、眼鏡の少女は悔しそう俺を睨む。
その目線も、既に十分すぎるほどによく見たことのある視線だった。
「ほら。家の中、入らないのか?」
「……わかったわよ。入るわ」
なぜか観念したかのように、眼鏡の少女はぶっきらぼうな感じでそう答えた。
「で、犬井って呼んでいいんだな?」
「……はいはい。勝手にすれば」
そういって、犬井(仮)は恨みがましそうな視線を向けたままで、俺の家の中に入ってきたのだった。




