謎じゃない彼女 1
で、俺と犬井……モドキはリビングのテーブルをはさんで向かい合って座った。
「まぁ、お茶くらしかないけど、悪いね」
「いいわよ、別に……」
落ち着かない様子で、眼鏡少女はそう言った。
「で、犬井は――」
「……ちょっと待ちなさいよ」
俺が先を続けようとすると、眼鏡少女はそれを制した。
「なんだ? まだ何も言ってないぞ」
「その……犬井っていうの、やめてほしいんだけど……」
「なんだ? どうして?」
「だ、だって……」
「だったら、名前を教えてほしいな。教えてくれないから、そう呼んでいるんだし」
そう言うと、恨めしそうな瞳で、眼鏡少女俺を睨んできた。俺はどうすることなく少女を見返す。
「で、やっぱり名前は教えられないと」
「……もう、いいわよ」
「いい? 何が?」
「だから……意地悪するの、やめてくれない?」
「へぇ、お前が意地悪をやめてほしいというかね、犬井を散々いじめてきた張本人が」
すると、眼鏡の少女はあきらめたように眼鏡を外した。
「なんだ。伊達眼鏡か?」
「……コンタクト、付けてるから」
眼鏡をはずすと、レンズの下から出てきたのは、ガラの悪い目つきだった。俺は満足そうにその目線を見ている。
眼鏡の少女……いや。元、眼鏡の少女は不機嫌そうに俺を見ている。
「で、何の用だ? 長澤」
俺がそう呼ぶと、長澤は観念したように大きくため息をついた。
「はぁ……なんでバレるのよ……」
「そりゃあそうだろう。声とその目つき。バレないと思う方がどうかしている」
「……なんだ。てっきり私なんかに興味ないと思ってたのに、そういうのだけはわかるんだ」
そういって俺を睨む長澤。興味がないと言う言葉がひっかかったがよくわからないのでスルーしておいた。
「で、何の用だ? わざわざそんなコスプレまでして」
「こ、コスプレって……! 違うわよ!」
「だって、その制服、ウチの学校のものじゃないだろう」
「こ、これは……お母さんの高校の頃のを黙って借りてきただけで……」
それを聞いて俺は思わず噴き出しそうになってしまった。
その様子を見て、長澤はさらに眉間にしわを寄せる。
「な、何よ。悪い?」
「いや……ふふっ。なんというか……わざわざそこまでするとは思わなくてな……」
「……誰のせいでこんな恰好することになっていると思ってんのよ」
長澤の口調はこの上泣く不機嫌そうだった。
それこそ、長澤自身がこんな目に会っているのは俺のせいだと言わんばかりだ。俺としては長澤がこんなことをしているのかの方がわからないのだが。
しばらく俺と長澤はにらみ合ったままだった。部屋の時計の音だけが部屋の中に妙に大きく木霊する。
長澤はトントンと机を左手の人差し指でたたきながら、右手で頬杖をついている。
まるで、俺が何かを言いだすのを待っているかのようだった。




