同盟の破綻 1
「げっ……」
リビングに入ってきた長澤は、俺の姿を見るなり嫌そうな顔をした。
「どうした? 自分の家に帰ってきて早々」
「……その自分の家によくわかんないヤツが入ってきているから、こんな顔をしているんでしょ」
長澤は心底嫌そうな顔をしながら、テーブルを挟んで俺の正面に座った。
「で、何よ。また、人の家に上がり込んで」
「上がり込んだんじゃない。お前のお母さんがいれてくれたんだよ」
「だからお母さんは何か勘違いしてて……はぁ。もういいわ。さっさと要件を言って」
「ああ。お前に協力してほしいんだ」
俺がそういうと、長澤はつまらなそうな顔で俺を見た。
「なんだ。その顔は」
「へぇ。何? まだ私が協力するようなこと、あったんだ」
「ああ。もちろんだ。俺の計画はまだ続いているからな」
「計画? はっ。そうなんだ。てっきり、ダメ犬と付き合うことがアンタの計画の最終段階だと思っていたわ」
呆れた様子で長澤はそう言った。
俺は何も言わずに、出されていたお茶を口に含んだ。
「アンタ。知らないわけ? 完全にクラス中の噂になっているわよ?」
「何が?」
「アンタと駄犬が付き合っている、っていう噂。ま、そりゃ、当たり前よね。私みたいなイジメッ子からかわいそうな犬井さんを助けた英雄ですもの。犬井が惚れるのも当然なわけね」
長澤は完全に茶化すように俺にそう言った。
コイツとは一応協力という形で協定を結んでいる。それなのに、どうにもコイツは俺の人間性というものをまったく理解していないようである。
「違う」
「何が違うの? アンタは結局私を利用したんでしょ? それで、体よく犬井の信用を得たわけ。それ以上に何を望むのよ。で、今日来たのだって、本当は協力を解消してほしいとかそういう要件なんでしょ? お生憎様。絶対に解消なんてしてやらないわ。この先の学園生活ずっと脅え続けているといいわ。いつ私が、犬井に本当のことをバラすかどうかを心配しつづけるのね。いい気味だわ!」
捲くし立てるような調子で、長澤は俺にそう言った。
俺には不思議に思えた。別に俺は仮に、計画が全て終わった後なら、犬井に、実は俺と長澤が裏で通じていたことをバラされようがまったく問題ない。
それなのに、なぜ長澤は妙にそのことを強調したがるんだ?
まるで、俺が長澤の支配化に居続けるのだとでも言わんばかりじゃないか。
なんとも、不思議な奴である。




