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「あ、逢沢君は……な、何がしたいの?」
「え? なんだって?」
思わず呆然としていた俺は、犬井の強い口調で我に返った。
「も、もうパンツもあげたし……わ、私にお願いって……何?」
「別にいいじゃないか、なんでも。それとも何か? お前はもう俺に関わって欲しくないのか?」
犬井は俺の言葉に衝撃を受けたようだった。
目を丸くして、悲しそうに顔をゆがめている。
「そ、そういうわけじゃないよ……わ、私は……」
そうして上目遣いで俺を見てくる犬井。
おかっぱ頭の座敷童子のような少女であってもそんな風な視線で見られれば大抵の男は恋というものに落ちてしまうかもしれない。
それくらいに、犬井は守ってやりたいという男の本能をそそられるような目つきで見てきたのだ。
しかし、俺は違う。俺が見たいのは犬井のそんな視線ではないのだ。俺が見たいのはもっと嗜虐心を煽るような顔、視線だ。そんな顔をされても心は動かない。
「なんだ? どうした?」
さも何もなかったかのように犬井に話しかける。
犬井は視線を反らした。おそらく多少は俺が情けをかけてくれるかもしれないと思ったのだろうが、残念ながらそんなことはない。
「とにかく、今日の放課後、お前に用があるから一緒に帰るぞ」
「……え? 一緒に……帰る?」
悲しそうな顔から一転して、犬井は意外そうな顔で俺を見た。
「ああ、そうだ。一緒に帰るんだ」
どうやら俺にまた無理難題を言われるものと思っていたらしい。
間抜けな話である。俺だってそんなに連続で無理なことを言っていてはさすがの犬井も我慢の限界となることはわかっている。
ただ、俺は犬井理香子という少女が内面に溜めこむ性格ということを知っている。
あれだけのイジメを受けても誰も当たることもなく学校に通い続けて来たのだ。
我慢強い性格ということはわかる。
だから、多少の無理はしても大丈夫だとは思うが、かといってやり過ぎはよくない。
だからこそ俺は、ここで犬井に希望を与えたのだった。
俺が犬井に無理なお願いなどしないのだという希望を。




