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そして、それから三週間が経った。
犬井に対する長澤と藤野のイジメはなくなった。犬井は訪れた平和に戸惑いながらも普通に学校生活を送っている。
俺にとってもこの三週間は耐える三週間だった。
何もないことがわかりきっていたからである。
しかし、そろそろ行動を開始してもいい頃である。
俺はその日の放課後に自分の計画を実行することを決めた。
そう考えるとそれまでの退屈な三週間も、ようやく報われる気がする。
俺はにわかに幸せな気分になった。
「直人」
そんな折に、誰かが声をかけてきた。
声の主はやはり栄介だった。
「栄介か。どうした?」
「あ、いや……どうしたのかなぁ、って」
「どうした? 別に。何もしてないが」
「え? あ、ああ。そう……いや。なんかこの三週間は直人、普段通りだったのに今また変な顔してたよ?」
「変な顔?」
「あ、うん……その……ほら、もうなくなったけどさ。ちょっと前まで長澤さんたちが犬井さんをイジメめていたでしょ? その時に直人、長澤さんにその……なんていうか……突っかかって行ったじゃない?」
「なんだ。何が言いたい? 栄介」
栄介は何か言いにくそうにしながら俺から視線を反らした。
「その時さぁ……僕見たんだけど、なんだか直人、すごく邪悪な顔をしていたんだ。あ、いや、でもさぁ、あの時は僕、あんなこと言っちゃったけど、結果として直人のやったことってすごく格好良かったと思うんだよね。それに長澤さんも最近は犬井さんのことをイジメたくなったし……あ。もしかして、これって直人のおかげだったりするの?」
栄介は何か誤魔化すかのようにいつもより多く喋った。
そうか。俺、変な顔をしていたのか。
どうやら栄介に分かるレベルで俺は邪悪な表情をしていたらしい。
今度からは気をつけねばなるまい。
俺は特に反応を示すことなく栄介を見る。
「そうか。邪悪な顔……ねぇ」
「あ、う、うん……いや、変なこと言っちゃってごめんね」
「まったくだ。そもそも俺のおかげで犬井に対するイジメが無くなったって? お前、本気でそう思っているのか?」
「え? あ……あ、あはは! そ、そうだよね。そんなの直人の柄じゃないよね」
栄介は引きつった笑顔でそう言った。
俺がそんなことをするはずがないのは、仮にも俺と一年「友達」として付き合っている栄介ならすぐにわかることだ。
だからこそこんな反応なんだろう。
俺はそんな反応をする栄介が面白かったし、何より事実がその間逆であるということが面白可笑しくて仕方なかった。
「ごめんね。変なこと言っちゃってさ」
「ああ。構わないさ」
「じゃあ、僕、席に戻るよ」
栄介は席に戻った。




