勝ち得たモノ 1
未だに現実に戻れて居ない犬井であったが、俺の言葉で覚醒し、恐怖し始めたらしい。
このままだと、自分の下着を目の前にいる俺に渡さなければいけないという事実に対して。
「まさか、今更無理、なんて言わないよな?」
俺はわざとらしく確認するように犬井にそう言った。犬井は俺から顔を背け、下を向く。
「え、で、でも……」
「まぁ、とりあえず教室から出よう」
俺はそのまま教室を出た。
しかし、犬井はいまだに椅子に座ったままで深刻そうな顔をしている。これからどうしようと不安でたまらないような顔だ。
素晴らしい。この顔だ。俺が見たかったのは。
後もう少しできっとさらに犬井は良い「表情」をしてくれる。俺は興奮するのを抑えながら犬井の方ニ顔を向ける。
「犬井!」
教室の外からそう呼ぶと、犬井はビクンと反応して立ちあがった。そして、俺の方にゆっくりと顔を向ける。
「来い」
俺がそう言い放つと、犬井はそのままトコトコと犬井が子犬のようにこちらにやってきた。
「よし。まぁ、俺も鬼じゃない。せめて人目のない場所で俺に対する報酬の受け渡しを行おうじゃないか」
「ほ、報酬って……」
「なんだ? もしかして、俺が何もしてないって言いたいのか? ああ、いや、別にそれは構わないんだが、本当に俺が何もしてないって言いいたいのか?」
俺がそう言うと犬井は首を横に振った。無論、犬井がそんなことを言えるほど度胸のある人間ではないことは十分承知している。
「あ……逢沢君の……おかげだと思う……」
先ほどの長澤の声よりもさらに小さい声で犬井はそう言った。
「そうか。じゃあ、ちゃんと約束守らないとな」
犬井は今にも泣き出しそうな顔で俯いていた。俺は俺で、思わずニヤニヤと笑みが零れそうになるのを必死で耐えていた。
「そうだな。人目のない場所っていうと……やはり、校舎裏しかないよな?」
俺の言葉に犬井は否定しなかった。ただ、絶望した表情で俯いているだけである。
この表情を見るために俺はここまで面倒なことを仕掛けてきたのだ。俺はそんな犬井の顔を見ているだけで幸せだった。
「行くぞ。犬井」
すると、犬井は何か言いたそうに顔を上げたが、俺はそれを無視して、そのまま校舎裏に向かったのであった。




