これからの変態の話をしよう 4
「お前が犬井をイジメている理由はわかった。それが俺の考えていた理由と全く違ったということもな」
「考えていたって……何? アンタ、私が犬井のことどういう理由で虐めているって思ってたの?」
ようやく落ち着きを取り戻した長澤は目を擦ってから俺の方をまた怪訝そうな目つきで見る。とりあえず泣くのをやめてくれて俺は一安心した。
「え? そりゃあ、犬井が嗜虐心を煽る表情をするからだろ?」
俺がそういうと、長澤はさらに要領を得ないという顔で俺を見た。
「な、何言ってんの? アンタ」
「だから、犬井ってイジメたくなる顔、するじゃないか」
「え? そ、そうなの?」
「はぁ? お前……イジメの当事者だっていうのに、そんな大事な所に気付いてなかったのか? 泣きそうな犬井の顔とか見てみろ。こう……心の底から何か湧き上がって来るんだよ。口では表せない興奮っていうか、そういうものがさ」
俺は別に恥ずかしげも泣くそう言った。そもそも、恥ずかしい話という認識がなかったし、長澤には、俺が犬井に対してどう思っているかの本音を知ってもらわねばならなかったからである。
しかし、長澤の方を見ると、彼女は俺のことを引きつった顔で見ていた。
「なんだ? 俺、何か変なこと言ったか?」
「あ、アンタ……ホントに変態だったのね」
「ああ、そうだな」
俺の反応が意外だったのか、長澤は納得いかなそうな顔で俺を見ていた。
「……わかったわ。で、それが何? 犬井のそういう表情に興奮する変態のアンタの大事な話ってなんなのよ?」
「ああ。つまりだな。俺はもっと犬井にそんな表情をしてもらいたいんだ。イジメられているくらいで見せる泣きそうな顔じゃない。心底絶望して二度と立ち上がれなくなるような、そんな表情が見たい……そのためにお前に協力してもらいたいんだよ」
長澤は完全に俺のことを人間を見る目つきではない、むしろ宇宙人にでも会ったかのような目つきで見ていた。しかし、俺にはそんな視線を別段問題にはならない。
「そういうことだから、協力してくれるよな?」
「協力って……そのためにどうして私が犬井に謝らなくちゃいけないわけ? アンタ、犬井が悲しんだり、絶望したりする表情が見たいんでしょ? それなのに、イジメている私にそれをやめて、しかも、犬井に謝れっていうの? ちょっと可笑しくない?」
長澤の言葉は、大体予想できた。反応も予想通りだった。
そして、それはまさに俺にとって何の障害にもならないことだった。
「別に。俺の中ではおかしくない」
俺ははっきりとそう言った。もちろん、長澤にはどういうことやら理解することはできていないようであったが。




