救済への道 3
それは、適当だった。
何も考えずにそういってしまったのだ。だから俺は言った直後から考えていた。
一体何をもらえばいい? 俺が何を要求すれば、犬井は俺に、またあの感覚を与えてくれるような表情をしてくれるのか、と。
「な……何をあげればいいの?」
俺は黙ったままだった。その方が凄みが出ると思ったからだ。
実際考え込んでいた。何を要求すればいいか考えていた。
できるならば絶対に不可能なものがいい。こんな特殊な状況下でなければもらえないような特殊なもの――
「あ」
そして、俺は思いつき、思わず声を出していた。
犬井はおっかなびっくり俺を見ている。
「そうだ……下着」
「……へ?」
「下着だよ。お前の下着」
「……は?」
犬井は信じられないと言う風で俺を見ている。
しかし、俺はお構いなしで先を続ける。
「だから、お前の下着だ。ダメなのか?」
あくまで冷静な態度で俺は言った。
意味がわからないといった顔で犬井は俺を見ている。
俺自身もこの結論に至った経緯がよくわからない。思いつきのような気もするし、もしかすると俺の根源的な部分、つまり、性欲がその要求を思いつかせたのかもしれない。
ただ、俺としては犬井が絶対に応えられないようなものを要求するつもりだった。
だとするとそれはなんだろうか。俺は犬井のことを知らない。犬井が女の子であるということしか俺は知らないのである。
女の子が要求されてもっともはい、いいですよと言って渡してきそうにないものは、間違いなく下着だろう。
もちろん、他にもあるだろうが、そもそも女の子の下着なんて犯罪まがいのことをしない限り手に入らないものであろう。
よって、俺はこれを要求するという結論にたどり着いた。
事実、犬井はあり得ないと言わんばかりに俺を見ている。
「え、えっと……し、下着って……」
「ああ。パンツでもブラジャーでもいいぞ」
「そ、そういうことじゃなくて……」
犬井は相当困っているようだった。しかし、俺はあくまで態度を崩さない。
「じゃあ、交渉は決裂だな」
俺は犬井に背を向けた。
「あ、ま、待って……」
すると犬井は慌てて俺を呼びとめた。俺は振り返らずに立ち止まる。
「なんだ?」
「あ、え、えっと……だ、だって、も、もし……逢沢君にパンツとかブラジャーをあげても、ほ、ホントに私のことを助けてくれるか……わ、わからないんだよ?」
なるほど。確かにそうだ。
言われて初めて俺も納得した。犬井にとってみれば俺なんていうのは他人も同然である。
そんな他人がいきなり自分の救済を申し出てきて、その上で下着を要求してきても、信用できないのは当然である。
俺は振り返って犬井を見た。




