救済への道 4
「わかった。じゃあ、俺が態度で示せばお前は信じてくれるか?」
「え……?」
「だから、長澤と藤野からのイジメを止めるように努力すれば下着を貰えるか、と言っているんだ」
犬井は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
そもそも、俺に長澤と藤野のイジメを止める力があるのかと聞かれれば相当怪しいものである。あくまで努力するだけだ。先程も言ったように、それが成功する保証はまるでない。
「……わ、わかったよ」
しかし、犬井はあっさり了承した。むしろその呆気なさに俺の方が拍子抜けした形であった。
「そうか。わかった。じゃあ明日から俺、頑張るよ」
「う、うん……ありがとう」
犬井も納得できていないようだった。俺が明日、本当に自分のために働いてくれるのかどうか、信用できるわけもないのだ。
だが、それでも犬井が了承したのは、それくらいに犬井が追い詰められているからなのだろう。
冷静に考えれば犬井だってそんなこと、可笑しいことだってことくらいわかっているはずだ。
俺自身、そんな追い詰められた犬井にそんなえげつない要求をしたことは、自分自身を自己嫌悪するには充分な程に後悔できる事実だった。
「じゃあ、俺帰り道、こっちだから」
「あ……うん。じゃあね」
俺と犬井はそのまま別れた。
そして、一人になった俺は考える。
明日、どうするのか、と。
正直、犬井のパンツやブラジャーがそこまで欲しいわけじゃない。
むしろ、俺が見たいのは、俺に困惑した表情で下着を手渡してくるであろう犬井の姿である。
そのためには態度で示さねばならない。俺が犬井を助けようとしているのだという態度を。
つまり、それは正義を示す態度だ。明確に目立ってしまう。
俺は自分の人生のポリシーを捻じ曲げることになる。
それでいいのだろうか。
いや、既に答えは出ている。
救済を申し出た時点で、俺はそれまでの自分の人生のポリシーと一旦決別したのだ。
何のために決別したのか。それは無論、犬井のためである。
正確には、俺の心を昂ぶらせたあの犬井の表情。それをもう一度見るためだった。
正義の態度を示すはずなのに、その本心は正義とは間逆にあるのだということを、俺派既に自覚していた。
自然と自虐的な笑いが込み上げて来る。だが気分は悪くなかった。むしろ、これまでの人生でもっとも最高な気分なのであった。




