救済への道 2
俺はその後、とりあえず犬井に制服を鞄に押し込めさせ、二人で校舎を出た。
グラウンドでは、死ぬほど練習することで有名な野球部だけが、未だに練習を続けていた。
俺と犬井はそれを尻目に校門を出た。しばらく歩いて俺は立ち止まった。犬井もそれに合わせるように立ち止まる。
「で、お前はどうしたいんだ?」
「……え?」
俺は振り返って犬井を見た。犬井はキョトンとした顔で俺を見ている。
「お前はもう嫌なんだろう。これ以上長澤と藤野のおもちゃになるのが」
犬井は黙ったまま頷く。
「だったら、どうしたいんだ?」
答えを想像するのは簡単だった。
「……もう、やめてほしいと思っている」
そして、その通りだった。
当たり前だ。犬井にとって今はこれ以上にないほどに苦しい状況。一刻も早くこの状況から抜け出したいのだろう。
「つまり、助けて欲しいってことだな」
「……うん」
「わかった。俺が助けてやる」
俺は言った。言ってしまった。
既に校門を出た辺りから、こう切り出そうと考えていたのだ。
明確に俺は、これまでの平穏な自分の生活に別れを告げた。
なぜ、そんな愚かな真似をしたのか。
俺は、あの衝撃の正体を知りたかった。
いや、もっと正確に言えば、犬井の嗜虐心を煽る顔を見たいと思ったのかも知れない。
これまでの俺の人生とは無縁なあの感覚を味わいたいと思ったのかもしれない。
だが実際のところ、わからない。そういう昂ぶりなのか、あるいはもっと別な所にあるものなのか。
少なくとも正義感から来る提案ではなかったと思いたい。それさえもあやふやなのではあるが。
「え……た、助けるって……」
「長澤と藤野からのイジメをやめさせればいいんだろう。やめさせるようにする。いや、正確には努力する。それでイジメがなくなるかどうかは保証できないが」
しかし、俺の言葉に犬井は希望を見出したようだった。
だが俺はあくまでこの時、努力すると言っただけなのだ。決してイジメを消滅させてやるなどといったわけではない。
それなのに犬井はさも、自分が救われたかのように喜んだ顔を見せる犬井を見ていると、すでに俺の中で再びなにかしらの高まりがあった。
「ほ、ホントに?」
「ああ。ホントだ。まぁ、無論条件付だがな」
そして、次の瞬間、俺の言葉で再び犬井は悲しそうな顔になった。
もちろん、俺の内面的興奮はあった。
「……じょ、条件って?」
怪訝そうな顔で訊ねる犬井。
ようやく気付いたのだろう。あまりにも優しすぎるのだ、と。
無条件で自分に優しくしてくれる人間など、いるはずがない。
だから、犬井の俺に対しての感情は安心から一気に疑心へと変わったのだ。
俺にとっては俺の予想通りの反応をしてくれる犬井は、この上なく好感が持てる存在であったが。
「ああ。お前の大事なものをくれ」
「え……大事な、もの?」
「ああ。そうだ」
俺はもう一度、はっきりと犬井にそう告げたのだった。




