救済への道 1
まるで雷に打たれたかのような感覚だった。
とにかく、とんでもない衝撃が、俺を襲った。
「わ、わかんないよ……」
俺の動揺を他所に犬井は悲しそうにそう言った。
「じゃあ、お前は理由もなくアイツ等にイジメられているんだな」
俺も、冷静さを装いながらそう返す。
しかし、今のはなんだ。今までにない感覚だぞ。
もしかして、俺は今出会ってしまったのかもしれない。
通常つまらないはずの人間の人生において、偶然にも出会う「イベント」というヤツに。
俺の内面的興奮を知るはずもない犬井は、ジャージの袖先で目をこすって俺を見た。
「……そうかもしれないね」
「そうかも? じゃあ、お前は自分がイジメられている理由を知らないってことか」
「……知らない」
犬井は不機嫌そうだった。
「つまり、お前は、自分がわけもわからずにイジメを受けていて、それでいいと思っているのか。不思議なヤツだな」
すると、犬井はいきなり立ち上がった。
そして、俺のことを睨みつけている。
「そ、そんなの……知らないよ! だ、大体、何? 逢沢君に何がわかるの!?」
その口調は普段のオドオドした犬井とは比べ物にならないほどのものだったので、思わず俺は驚く。
しかし、それは不快な驚きではなかった。むしろ、犬井理香子という少女にも、感情の爆発というものがあるということを知れたことに対しての喜びさえ、俺の感情の中にはあった。
「さぁ? わからないね。お前のことなんか」
俺がそういうとますます悔しそうな顔で犬井は俺を睨みつける。
「だったら……黙っていてよ……」
「へぇ。お前はそれでいいのか? 誰もお前に救いの手を差し伸べず、黙ったままで、お前の惨めな姿を感傷している。それでいいのか」
犬井は目から涙をボロボロと零し始めた。
犬井にとってはある意味俺と話している今この瞬間は、長澤や藤野にイジメられているときより理不尽である。
俺という謎の存在がいきなり話しかけてきたと思ったら、自分がいかに惨めであるかを延々と自覚させられ続けるのである。泣き出す理由もよくわかる。
「もう……嫌、だよ……」
「なんだ? 俺と話すことが嫌なのか?」
犬井は首を左右に振る。
「耐えられないよ……私……」
そのまま床に座り込んだかと思うと、膝を抱えて泣き出した。
教室には悲痛な泣き声が響く。俺は時計を見た。
六時十五分。そろそろ完全下校時刻だ。いい加減に帰らないと警備のおっさんにどやされる。
ましてや、目の前に泣いている女の子がいたら益々面倒なことになる。
「おい、犬井。帰るぞ」
「……帰っていいよ。もう」
「お前も帰るんだ。来い」
俺はそういうと犬井の手を掴んだ。
犬井は目を丸くしていた。俺自身も驚いていた。
具体的に行動が示してしまっていた。これは紛れも無い救済への第一歩である。
「で、でも制服が……」
「ジャージで大丈夫だ。誰もお前のことなんて見てない」
それはどうか知らないがとにかく俺は帰りたかった。この教室にこれ以上いても仕方ないと思ったのだ。




