犬との出会い 4
そんなことを聞いてどうするのかと、聞いている俺自身でさえ思うような質問だった。
嫌なのは、当たり前ではないか。嫌だからこそ、犬井は、こんな嗜虐心を煽るような情けない表情をして小さく背中を丸めているのだ。
そんな俺の質問に対して、犬井は困ったように顔をしかめる。
「い……嫌……だよ……」
喉から押し出すような声で犬井は言った。
「そうか。嫌なのか」
「でも……仕方ないよ……」
「仕方ない? なんでだ?」
「だって……長澤さんと藤野さんには……逆らえないよ……」
泣きそうなな笑顔を浮かべて、犬井は呟くようにそう言った。
逆らえない。確かにそうだろう。転校生の犬井にしてみれば、クラスで恐れられている不良女子コンビの長澤と藤野に対抗するというのは、それこそ、アリが象に戦いを挑むようなものである。
最初から負けは見えている。いや。既に負けているのだ。だとしたら、敗北した者は勝者の言うことを聞かなければならない。
「そうか。逆らえないか」
犬井はコクリと頷いた。
「なんで逆らえないんだ?」
俺はそう聞いた。既に自分の中でその理由ははっきりしているというのに。
犬井も俺の質問に驚いたようだった。
「だ、だって……な、長澤さんと藤野さんは……こ、怖いし……」
「怖いと逆らえないのか?」
「……そ、それに、私……転校生だし……」
「転校してくるとイジメられるのか?」
俺の質問に犬井は答えられないよくなったようだった。俯いたまま指先をモジモジとさせている。
「なぁ、犬井。それは、おかしくないか?」
俺は言った。おかしい。それはおかしいと思ったからだ。
転校してくるとイジメられるというのは間違いなく可笑しい。理由になっていないではないか。
「で、でも……」
「でも、なんだよ? お前、自分がどうしてイジメられているか、分かっているのか?」
俺がそういうと犬井は俺の顔を見上げた。
犬井の瞳には、確かに涙がうっすらと溜まっていた。涙を湛えた瞳のままで、俺のことを見てきたのである。
その時、俺の精神に、何かとてつもない衝撃が走ったのだった。




