彼女への失望
その後、俺と長澤はともに教室に戻った。
長澤の言った通り、教室に戻ると皆が複雑な表情で俺を見てきた。
「ほら……だから言ったじゃない」
長澤はそう小さく俺の耳元で囁くと、そのまま自分の席に足早に戻って言った。
何が大変なのかよくわからなかったが、俺はいつもとおりに席に戻った。
「あ……逢沢君……」
と、隣から聞こえてくる声。
俺は顔を向けなかった。声だけで誰かはわかる。
俺が興味を失った女、犬井理香子である。
「あ……え、えっと……聞いている?」
俺はあくまで無視をする。別にコイツに反応してやる義理もないし、俺は今現在コイツには深く失望しているのだ。
だから俺はそのまま何も答えなかった。
犬井は困っていたが、それでも俺にまだ何か話しかけようとしているようだった。
「あ……え、えっと……長澤さんと……一緒だったの?」
来た。
俺は心の中でニヤリとほほ笑んだ。
長い時間待った末に釣り針に魚が引っ掛かった釣り人の気持ちというのはこんな感じなのだろう。
「ああ。そうだ」
俺は即座に犬井の方に顔を向け、間髪いれずに答えた。
犬井は呆然とした表情の後、困ったように俺に笑顔を向ける。
「そ、そうなんだ……ど、どこに行ってたの?」
「屋上だよ」
「屋上……い、いつも一緒にお弁当、食べている所……」
犬井は何か言いたそうにもじもじとしている。しかし、そのもじもじとした感じはかつての犬井のあのもどかしさではなかった。
暗に俺を責めているのだ。
なぜ、自分ではなく長澤と屋上に行ったのか、本当はそう俺に問いただしたいのである。
そう考えると、イライラした。
犬井のくせに、俺を責めるだなんて、生意気である。
それと同時に俺は嬉しかった。
犬井理香子は怒っている。明確に感情に変化を起こしているのだ。
犬井理香子という人間は、少しつつけば、感情を大きく変化させる少女だ。
だとすれば、俺がまた何か言えば、犬井の感情は「怒り」から他の感情に変化するかもしれない。
そう考えると、自然と俺の気持ちは高ぶり、口も勝手に言葉を吐き出していた。
「なんだ。何か言いたいこと、あるのか?」
「え……そ、そういうわけじゃ……ないけど……」
もちろん、言いたいことはあるのだろう。しかし、あくまで俺にそれを感じてほしいと犬井は思っている。
しかし、こう言われてしまっては犬井としても何も言えないのだろう。
そのまま黙って俯いてしまった。
感情の変化はここまで……つまらない。
犬井理香子という少女はつまらない存在になってしまった……俺は再び絶望した。
仕方ない……とりあえず、次の行動に出て、犬井の出方を見るとしよう。
まだ、長澤を使って犬井を動揺させる計画は考えているのだ。
そんな邪悪な考えを巡らせていると、教室に先生が入ってきた。昼休みも終わり、そのまま授業に入る。
犬井のことをチラリと見る。不満そうな視線で俺を見ていたが、構わずに俺はただ黒板にチョークで何かを書きだした先生を眺めてた。




