彼女を振り切って
その後も授業中、何度か犬井の視線を感じた。
どうやら俺のことを睨んでいるらしい。
おそらく「自分は怒っているんだぞ」ということを犬井は俺に伝えたいんだろう。
そのことがさらに俺を落胆させる。
なんだ、それ。
まさかとは思うが、犬井は、嫉妬、しているんだろうか。
俺が長澤と屋上に行ったから? 俺と屋上に行くのは自分だけ、とでも言いたいのだろうか。
冗談ではない。俺は犬井にそんなことを想ってほしくない。
そもそも俺は犬井には、いつでも絶望していてほしいのだ。
それなのに、そんな普通の女の子みたいな感情、持ってほしくない。
そう考えると自然とシャープペンを握る手が強くなった。
俺は怒っているのだな、と明確に感じることができた。
相変わらず授業に関しては何も聞かないままで、そのまま放課後となった。
「う~ん……授業、終わったね」
伸びをしてそれとなく話しかけてくる犬井。
ここからが計画の実行である。
以下に犬井をさえぎって、計画を実行するか、である。
俺はそのまま席を立った。
「あ……あ、逢沢君!」
そこへ犬井が声をかけてくる。
次の言葉は予想できている。
「え、えっと……い、一緒に帰ろう! ね?」
やはりそうだった。犬井は慌てた様子でそう切り出してきた。
俺は犬井の方に顔を向ける。そして、なるべく冷酷な目線で犬井を見た。
「ああ、今日は、ダメだ」
「……え?」
犬井は呆然としていた。
そりゃあ、ダメ、と言わればわけがわからないだろう。犬井はただ俺のことを見ていた。
犬井の思考がストップしている。この時がチャンスである。
そのまま俺は長澤の席に急いだ。
「おい、長澤」
「え? な、何?」
いきなりのことで長澤は驚いているようだったが、俺は構わずに先を続ける。
「帰るぞ」
「え……あ、ああ。うん」
そのまま俺は振り返らずに教室を出た。
どうせ、犬井は呆然としたまま俺と長澤を見送ったのだろう。
とりあえず、まずは計画の実行は成功だろう。
俺と長澤は何も喋らずに、そのまま校門を出るまで、足早に歩いたのだった。




