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海に棄てられた者は貝を削ぎ落す【大神の生贄】  作者: アルフライラ


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第2話 捨てられ者は大神の生贄に

 次の朝、タブラはいつもより早く起きた。背中に伝う嫌な予感。

 冷ややかな朝。


 大きな身体でそわそわしながら、自室を出る。


「……あれ?」


 ベネは家にいる時はいつも、リビングの一角でタバコを吹かしている。

 それなのに、今日はいない。


「……」

 ベネの自室の前に行き、桃色の扉に耳を当てるが気配がない。


 強く、二回ノックする。

 反応なし。


「父さん、失礼します」

 声をかけ、入るともぬけの殻。

 今日は仕事が無いはずだ。



「え? 父さん?」

 タブラは慌てて、机や棚を漁る。


 金目の物や、いつも「これぁ聖剣なんだ!」と自慢げに見せていた短剣、衣服が何もなかった。

 

「え、失踪? え? ……え? どうしよう……」


 タブラは慌てて母アンヌを探した。



 アンヌはリビングに座し、疲れた顔で茶を飲んでいた。


 頬には、線の跡。


「あ、母さん! 父さんが……」


「知っているわ。それから、ごめんなさい。タブラ」


 アンヌは嘆息混じりに告げた。


「ん?」

 タブラは困惑し、眉を寄せた。


「入っていいですよ」

 アンヌが玄関に向かって声をかけた。

 衛兵が四人入ってくる。


「失礼いたします。さあ、タブラ君だったかな? 私たちと来てもらおうか」

 衛兵の一人、精悍な顔立ちの男が告げた。


「え、どこへ? どうしてですか?」


 タブラは訳が飲み込めず、衛兵と母を交互に見る。

 母の顔は沈み込み、衛兵は口を一文字にしていた。


「訳は馬車で話す。来てもらおうか」

 衛兵は腰の剣に手を軽く置いた。

 タブラはそれをチラリと見ると、目を泳がせる。


「ごめんね、タブラ……」

 母の消えゆく声を背に、衛兵に囲まれながら馬車に乗り込んだ。



 馬車には、馬が四頭繋がれており、くたびれた顔の御者が手を擦り合わせ、白い息を吐き、手を温めて待っていた。


 タブラは桃色の屋根を見上げ、馬車に乗り込んだ。


---


 馬車には衛兵二人が乗り込み、残り二人は馬で並走していた。


 タブラを挟み込む様に衛兵は乗っている。タブラは頬を掻き、衛兵の左隣の衛兵に話しかけた。


「えっと、あのー……」

「なんだ?」


「……あ、えっと、自分はこれからどうなるのでしょうか?」

 タブラはおずおずと尋ねた。


「美味いものを食って生贄になる。若いのに……同情するよ」

 衛兵は少しだけ姿勢を正し、眉を下げて声を発する。


「は、え? い、生贄?」


「領の安寧と恵みのためだ。大いなる神の御許へ旅立って欲しい」


 タブラは茶色の瞳を点にした。

 衛兵はほんの少しだけ身構える。


「え、それって彼方の国への旅になりますよね? 嫌、です……」


「俺だって嫌さ。君みたいな若者へこんな仕打ち……しかし、天啓は降りたのだ」


「天啓?」


「『蒼生なる若き生命を捧げよ』とな。それに……いや、なんでもない」


 衛兵は口を抑え、言葉を飲み込んだ。


 馬車は大きな石を踏み締めた様で、ガタンと揺れた。タブラは小さく跳ね、衛兵達の装備が金属音を立てる。



「……それに? なんですか、教えてください!」


「……言えぬ。すまない」


「お前の母ちゃんが、領主様にお前を売ったんだ。金目当てでな」

 右隣の衛兵が身を乗り出して話した。


「……は?」

 タブラは言葉が理解できず、衛兵の顔を見つめた。


「ランス!」

 左隣の衛兵が怒る。


「ゲイル。こいつはどうせ死ぬんだ。疑問はねぇ方が良い。俺ならその方が嬉しい」

 右隣の衛兵ランスはキッパリと言い切った。彼なりの誠意。



 その言葉を聞き、タブラは生命の危機を実感した。また、母に売られたことも。

 背筋が凍り、目の前が水で濡れた。



「……あ」

 立ちあがろうとしたが、力が入らない。

 衛兵を破り、逃げたところで、居場所は、ない。


 父は失踪しており、母は敵対。

 領内では追手が来る。

 傷ついた心でどこへ行く?


 居場所は、ない。




「……暴れないのだな」

 左隣の衛兵ゲイルは剣に手をかけようとしたがやめ、悲しそうな声。



「……自分は、もう」



 馬車内に沈黙が響き渡る。


 雪が降り始めた。

 馬車から望める寒海に白い点が落ちては消えゆく。


「おいでけェの、お前は何が好物なんだ?」

 衛兵ランスはタブラの顔を見つめる。


「……イノリヒツジのソテー」

 死を悟ると、祈る様に天を仰ぐ黒い羊。

 最後の晩餐にふさわしい。


「わかった」



 馬車はそれから、しばらく厳寒なる街道をひたすら進む。


 シャクシャクと雪を踏み締め、若者を彼方へ送る旅へ。




 目的地傍の宿場町に着いた。

 衛兵と共に、イノリヒツジのソテーを食べた。

 

 衛兵達は酒を飲まず、タブラからは片時も目を離さなかった。

衛兵なりの義理人情

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