【幕間】エミリー
「やった! やった! こんなに上手くいくなんて……!」
エミリーは全てが自分の思い通りになって歓喜していた。
「これでエドワード様は私のもの! つまり、私は王太子妃になれる……!! 国の全ては私のものよ!!」
とうとう念願の王太子妃になれると、エミリーはほくそ笑む。
フェリシアを処刑し損なったのは残念ではあるが、国内にいないとならば問題ないだろう。エミリーは自分の望みを邪魔する人がいなければそれでよかった。
王太子妃になれば、未来は約束されたも同然。
王太子妃……ゆくゆくは王妃になってエドワードを介して国を人を金を自分の思い通りにすることができると思うと、エミリーは笑いが止まらなかった。
「やっぱり私はフェリシアよりも上ってことよね。あの子より私のほうが可愛くて賢くて王太子妃に相応しいってことに違いないわ!」
フェリシアに私は勝った!
エミリーはそう確信して誇らしげな気持ちになった。
というのも、同じ男爵令嬢という地位であることや幼馴染みということもあって、昔から周りの大人たちからフェリシアと比べられていたエミリー。
エミリーは可愛い、女の子らしいとは褒めてもらえるものの、フェリシアのように賢いや優秀といったことで褒められたことがなく、両親含め周りの大人たちからはエミリーもフェリシアのように見た目だけでなく教養もあればと散々言われ続けていた。
それがエミリーにとって不満だった。
可愛ければ可愛いほうがいいじゃない、と。
別に女の子なのだし賢さなんて必要ない、だからなんて勉強しなくたっていいじゃないか、と。
勉強するのも嫌いでマナー講習も苦手なエミリーは、自分が努力するのではなく相手がそんな自分を受け入れてくれればいいのだと常々思っていた。
エミリーはフェリシアができると自分も努力しろと言われるのがわかっているため、フェリシアにはもっと自堕落になって何もしないでいてほしかった。
けれど、フェリシアはエミリーの思惑とは異なりどんどんと知識も素養も身につけていく。
それがますますエミリーには不満だった。
貴女が頑張れば頑張るほど私の評価が落ちるんだからやめてよとずっと内心思っていた。
さらに、フェリシアにだけ婚約者がいるのも不満だった。
しかも、その相手が王太子だと知って、なぜフェリシアだけズルいと思った。
理由もたまたま両親が約束していたからだなんて、そんな都合のいい話があるものかと不満で不満で仕方なかった。
(何でいつもフェリシアばっかり……!)
比較され、不満を募らしていくうちに、フェリシアに対する対抗心がエミリーの中で徐々に膨らんでいった。
(私のほうが可愛くて愛されて王太子妃には相応しいに決まっているわ!)
エミリーは許せなかった。
ただちょっと物覚えがいいだけで自分よりも劣るはずのフェリシアが王太子の婚約者になることに。
王太子妃なんてただのお飾りなのだから、可愛くて愛想さえよければいい。フェリシアみたいな頭でっかちよりも、自分のほうが王太子妃に向いているに違いないと思った。
だから、エミリーは計画した。
フェリシアではなく自分が王太子妃になるために。
そして、偶然を装ってフェリシアの幼馴染みであることを利用してエドワードに近づいた。
それから、いかにエドワードが素晴らしい人物であるか、憧れの存在であるか、エドワードを誉めて誉めて誉め殺した。
同時に、エドワードが抱いているフェリシアへの不満を感じとり、エドワードは何も悪くないとフォローを入れながらフェリシアを貶めた。
また、いかに自分のほうがエドワードをサポートできるかエドワードのために尽くすかをアピールし、エドワードのためなら自分の全てを捧げる、何でもすると口八丁でエドワードを言いくるめた。
最初こそおずおずとした様子のエドワードだったが、だんだんとエドワードはエミリーに夢中になって何でも話してくれるようになった。
そのとき、エミリーはエドワードが承認欲求が強く、また人の影響を受けやすい性格なことに気づいた。
エミリーは、これは使えると思った。
そして、早速自国で話題の占い師マリーンを利用することにした。
エミリーはすぐさま自分の全財産という大金を積んでマリーンに自分の都合のいい占いの結果をエドワードに伝えるよう、占いの改竄の指示をした。
マリーンは多額の金に目が眩んで二つ返事で了承、それを引き受けた。
エミリーは財産を失ったが、それ以上のものが得られると思うと痛くも痒くもなかった。
そして見事にエドワードを手に入れ、フェリシアを排除し、自分がエドワードの婚約者になることができた。これでもう何もかも安泰。幸せな未来が確実に待ってるのだと、エミリーは舞い上がった。
しかし、現実はそう甘くもなかった。
現国王オズワルドは、エドワードとは違って厳しい人だった。
オズワルドは帰国するなり、フェリシアのことを知って猛烈に激怒し、エドワードを責め立てた。
そして、オズワルドは何とか二人を別れさせようと秘密裏にエミリーに婚約解消するよう手回しをしてきたが、そう簡単に王太子妃の座を手放したくなかったエミリーはそのことをエドワードに告げ口し、それを聞いたエドワードは絶対に別れないとオズワルドの要求を突っぱねた。
エミリーは告げ口したことをオズワルドに怒られて不本意ではあったものの、エドワードに守られたことで安心していた。これくらいの困難、これから待ち受ける薔薇色の生活を考えたら屁でもないと。
けれど、困難はこれだけでは済まなかった。
というのも、オズワルドは二人の結婚に対してある条件をつけた。
それは、フェリシアがいなくなったことを補うこと。つまり、フェリシアと同等の王太子妃教育を受けろということである。
そこからは地獄の始まりだった。
どうにかエミリーは勉強やマナー講習を逃れようと「エドワード様ならきっとできますわ」とエドワードを唆して暗に自分はやらないように仕向けようとするも、「僕のためなら何でもしてくれるって言ってたよね?」とエドワードに言われてしまい、撃沈。
結局エミリーは王太子妃教育を受けることになるも、フェリシアに比べて遥かに物覚えが悪く、元々やる気のないエミリーの王太子妃の教育はなかなか進まなかった。
毎日毎日なかなか覚えないエミリーに対して教育係は厳しく叱責し、エドワードも「フェリシアはこれくらい一日で覚えたのに、どうしてエミリーはできないのか」と自分のことは棚にあげて詰ってくる。
(こんなに頑張っているのに、できないと誰も褒めてくれない……!)
頑張ってるのに、誰も褒めてもくれなきゃ認めてもくれない。むしろもっと頑張れ、結果を出せと常に責め立てられる。
こんなはずじゃなかった。こんな苦痛を受けるためにエドワードをたぶらかしたわけじゃないと、エミリーは同じことの繰り返すつまらない生活に飽き飽きしていた。
どうにかこの生活を脱したいと、エミリーは両親に泣きつくも、そもそも国王の怒りを買っていることを知っているエミリーの両親は王太子妃になるのならできて当然、それくらいしっかりやりなさいと彼女を甘やかさず、突き放した。
(おかしい! 王太子の婚約者ならもっとキラキラした生活が待っていると思ったのに! 毎日こんな苦しい生活が待っているだなんて聞いてないわ!)
王太子妃としてフェリシアがこんなことを毎日やってるなんて気づかなかったと、今更ながら後悔するエミリー。
だんだんと、王太子妃になることがこんなにもつらくて苦しいなら、王太子妃になんてなりたくないと思うようになっていった。
(王太子妃もエドワードも全部どうでもいい。これ以上何もしたくない。もう、楽な生活に戻りたい……!)
エミリーはいよいよ我慢ならないと、エドワードに直談判した。
「私には王太子妃は向いてないようです。エドワード様には申し訳ありませんが、他にどなたか王太子妃に相応しい相手がいるはずです」
これでいい。
王太子妃になれないのは残念だけど、また新たに自分を甘やかしてくれる人を見つけてその人と結婚すればいいとエミリーは甘く考えていた。
けれど、それすらもそう簡単にはいかなかった。
「ダメだよ、エミリー。マリーンから僕たちが結ばれたら国は発展するって言われただろう? だから、僕たちは結ばれなきゃいけないんだ」
「で、ですが、私には無理です。フェリシアのようにはできません。きっと、エドワード様の王太子妃にはもっと相応しい方がいらっしゃるはずですわ」
「何を言ってるんだ。エミリーがもっと努力すればいい。やればできるはずだ。キミは僕のために全て捧げると言っただろう?」
「それ、は……! あの、それは……その場の勢いと言いますか……本心ではなくて、ですね……」
「そうか。……ということはつまり、僕に嘘をついたということか?」
憎悪を含んだ冷ややかな視線で睨まれ、思わずエミリーが「ひぃ」と悲鳴をあげる。
「マリーンに言われただろう? 僕たちは相性抜群だって。キミと一緒ならこの国は安泰だって」
「そ、れは……そうかもしれませんが……」
「もうフェリシアはいない。僕にはエミリー、キミしかいないんだ。僕には! キミしか! いないんだよ!!」
異様な雰囲気のエドワードに肩を強く掴まれながら目の前で大声で怒鳴られ、エミリーは立ち竦む。
その目からはぼろぼろと涙を溢れさせていた。
「エドワード様……ご、ご、ご、ごめんなさい。私……」
「今更何を言ってるんだ、エミリー。……絶対に逃さないよ。キミは僕と共にこの国の安寧、発展のために最期まで尽くすんだよ。キミの意志は関係ない」
「そ、そんな……っ! いや! エドワード様! やだ……っ、嫌です! 私にはもう無理ですっ! エドワード様ぁぁぁぁ!!」
エミリーが叫べども泣けども許してはもらえず。
エミリーは逃げようとするがすぐさまエドワードに腕を掴まれ、抵抗するもそのまま力任せに引きずられていった。
その後、エミリーはエドワードによって幽閉され、そこで王太子妃として果てのない教育を受けさせられ、一生自由のない日々を過ごすことになるのだった。




