第十八話 そういうものなのか
レイスとの食事を終えると、レイスは仕事があると言われてダインに連れて行かれ、フェリシアはフェリシアでこちらへどうぞと侍女らしき人に連れて行かれる。
どこに行くんだろう、と不安になりながら侍女たちについていくと、ついた先はなんと大きな浴場だった。
(な、何で? 私、そんなに臭かったかしら……)
フェリシアが困惑していると、そんなのお構いなしにそこで待機していた大勢の侍女たちにわっと周りを囲まれたかと思えば、服を脱がされて髪や身体を洗われる。
そのままふかふかの柔らかいタオルで包まれて拭かれて乾かされて。その後丁寧に全身くまなくマッサージされたかと思えば、どこから持ってきたのかモルンとは違ったドレスに着替えさせられる。
その後、髪を梳かれて香油をつけられて伸びた髪を整えられて結われている間に化粧されて、気づけば全身ピカピカのつやつやで、素敵にドレスアップした状態になっていた。
(私、レイスの秘書になるんだよね……?)
はたしてこれは秘書の待遇なのかと疑問に思いつつも、その後侍女たちに連れて行かれた先は立派な部屋。
これからはここで寝泊まりしてください、と言われたのでどうやらフェリシアにあてがわれた部屋のようだが、豪奢なベッドに立派なクローゼット、大きなシャンデリアに煌びやかな化粧台と仕える人間には不相応な高待遇に、フェリシアはずっと戸惑ってばかりだった。
「何がどうなってるの……?」
下手したらモルンで王太子妃候補になっていたときよりも高待遇かもしれない、と現状に戦々恐々としていると不意にノック音が聞こえる。
しかも、なぜか入ってきた出口とは違う扉から。
フェリシアは恐る恐る音がする扉のほうに行って開けると、そこにはレイスがいた。
「え。レイス……様?」
「おいおい、フェリシア。今更、様つけなんてやめてくれよ。今まで通りレイスと呼んでくれ。敬語はなしだと言っただろう?」
「そうかもしれないけど、でもやっぱり……」
「いいから、いいから。俺がいいと言ってるんだから、今まで通りのフェリシアでいてくれ。ところで、部屋に入っても?」
「え? えぇ、いいけど……」
フェリシアが了承すると、レイスはすたすたと部屋に入るなりベッドに転がる。
そしてそのまま突っ伏してしまった。
「あー、疲れた。しんどい」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない。ダインのやつ、ここぞとばかりに大量の仕事を寄越してきやがって」
文句を言いながら、不貞腐れるようにむくれるレイス。その姿は国王というよりもただの子どものようだった。
「お疲れ様」
レイスの頭を優しく撫でる。
燃えるような赤毛は一見固そうに見えるがふわふわで、指通りがいい。さすが国王は毛並みもいいのかとぼんやり考えていると、不意にレイスと目が合う。
「どうしたの?」
「もっとフェリシアに甘やかしてもらおうと思って」
上目遣いで見つめられて、胸がドキリとする。
(なんか調子狂う)
いつのまにか国王らしい服装に着替えているレイス。小綺麗ではあったものの、今までその辺の庶民のような身軽な服装から一転して、畏まったかっちりとした服装のレイスは三割り増しにカッコよく見える。
元々カッコいいと思っていたのにさらに素敵になった上に、自分にだけ甘えてくるレイスの姿にフェリシアの心はかき乱された。
「こ、こんな感じ……?」
甘やかすというのが具体的によくわからなくて、とりあえずレイスの頭を優しく撫で回すフェリシア。
すると、レイスは満足そうに目を閉じた。
「うん。まぁ、俺としては膝枕とか添い寝とかもっとサービスしてもらいたいけど」
「それは秘書の業務じゃないでしょ。……まぁ、これも秘書業務なのかよくわからないけど」
自分のベッドで寝転がる国王の頭を撫でる秘書。
全くもって訳がわからない。
そう思うも、本人は満足しているようなので、そのまま大人しく撫で回しておく。
「いや、俺を癒すのも立派な秘書の役目さ」
「ならいいけど。というか、私レイスの秘書なのよね? あの、待遇が良すぎない? 私ただの秘書なのにこんな立派な部屋をいただいていいのかしら」
「いいんだよ。モルンではどうかは知らないけど、クローレでは他国からの来訪者には最上級のもてなしをするのが当然だからね。だから、これだって全然普通のことだから気にしないで」
(そういうものなのか)
知識は様々あれど、あくまで王太子妃教育で得た知識なため、ちょっと世間知らずなところがあるフェリシア。
さすがに各国のもてなしのことまでは教わっていないため、半信半疑ではあるものの郷に入れば郷に従え、国王であるレイスに言われたら納得せざるを得なかった。
「ところで、先程の扉は出入り口とは違っているようだけど、あの扉はどこに繋がっているの?」
「俺の部屋だよ」
「え。何で!?」
「何でって、秘書なのだからそのほうが都合がいいだろう?」
レイスのさも当たり前だろうと言わんばかりの反応に、フェリシアは困惑する。
それはその通りではあるが、それでも国王の隣の部屋が来客用の部屋だなんて聞いたことがなかった。
「都合は確かにいいかもしれないけど、普通国王の隣室って王妃用じゃ……?」
「そうなのか。まぁ、俺としてはフェリシアに王妃になってもらいたいけど、あくまで利便性を考えてだよ。それに、フェリシアはクローレには知り合いは俺一人。何かあったときに近くに頼れる人がいたほうがいいだろう?」
「それは、そうだけど……」
なんだか言いくるめられているような気もしないでもないが、クローレの常識をフェリシアは持ち合わせていないため、レイスにクローレではこうだと言われてしまうと全てそういうものかと思ってしまう。
そもそもこの待遇に関してフェリシアとしても別に嫌なわけでもなく、ちょっと気が引けるというだけだ。
そのため、フェリシアはレイスの言い分を受け入れ、それ以上何も言わなかった。




