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魔術師養成学校

15話魔術師養成学校

ニヴとヨルムはそれを避け、さらに上へ飛ぶ。

 二ヴは氷山を一瞬にして消し、また大きな氷塊を作りリゲルの方へとばす。リゲルは投げやった箒を掴み、片手でぶら下がりながら足を思い切り蹴り上げ箒に当てる。すると光の矢が八本現れ氷塊を打ち砕く。リゲルは箒の上へ飛び乗り、たった姿勢のままで両手を伸ばし手のひらを二ヴとヨルムに向け手の甲にもう一方の手のひらを重ねる。すると瞬時に眩い太い光線がニヴとヨルムに向かって飛んでいく。ニヴとヨルムに光線が一気に当たる。じゅうと音を立てて二ヴは避け損ねて体の大部分を火傷する。

「ヨルム、龍化して」

「はい」

 選手交代のようだ。ヨルムは頭くと途端にメキメキと音を立てて体に水球を纏いながら巨大な龍の姿へと変貌する。大きな蛇のように長く魚のような鱗で、その姿は群青で吹雪の中でも圧倒的な大きさで障壁内からでも魔法の望遠鏡をしていなくても見えた。

 大きな口をがぱりと開け、リゲルを飲み込まんとする。

 リゲルはばっと箒から飛び降りヨルムの上へ降り立つ。

 ヨルムは体を捩り、口から幾つもの水の弾丸を出す。

 リゲルはそれが自分の体を撃ち抜く前に思い切り足をヨルムの体に叩きつける。ヨルムの体の半分はありそうな長さの槍が現れヨルムの身体を貫いた。ヨルムの身体からポロポロと宝石がこぼれ落ちる。リゲルはそれを見届け無いうちにヨルムの体から飛び降りる。だが水の弾丸はリゲルを追ってくる。

 リゲルは逃げながらいくつも猟銃を顕現させ弾丸に照準を合わせることなく乱射した。水球は全て撃ち抜かれる。

 ニヴはヨルムに刺さった槍を引き抜き、リゲルの方へ向かう。ヨルムも龍の姿のままで傷口を圧縮した水で塞ぎ咆哮を上げながらリゲルを窒息させようと大きな水球を出現させリゲルをその中に閉じ込める。大きな丸い水槽の出来上がりだ。

 リゲルは息ができなかったがもがくことも暴れることもせず大きな猟銃を顕現させヨルムの頭に照準を合わせる。

 ヨルムは照準を合わせられないよう蛇行しながら水球ごとリゲルを飲み込む。だが次の瞬間ヨルムのうなじが青い光で吹き飛ぶ。ヨルムは苦しみながら暴れ水球を吐き出す。水球はヨルムの集中力が切れたのか破裂し、二ヴも動揺したのか吹雪が止む。

「ヨルム、お前今日どうしたの。集中力がないじゃない」

 するとヨルムは人型の姿にもどる。

「分かりました……石を取られたから、上手く力が使えないんです。ニヴ、今日は俺たち分が悪いですよ」

「くそっ……そういうことか」

 リゲルとハシェルは合点がいった。魔力の源であり心臓である石を取られているから2人とも本来の力が出せないのだ。

 リゲルは猟銃を2丁出現させ2人の顎下に当てる。

「大人しくいうことを聞いた方がいい。」

 だがふたりは無言で抵抗する。ボロボロになった二人を見てパルは障壁を消す。アルデバランが宝石を取り出しフォーマルハウトにひとつ持たせる。そして手に持っていた水色の宝石を思い切り踏みつける。するとニヴは胸を抱えて苦しみ出した。フォーマルハウトも宝石を思い切り叩く。今度はヨルムが腹をかかえて膝から崩れ落ちた。

「うっ……」

 二ヴは元々白い顔を更に青ざめさせてアルデバランを睨んだ。アルデバランは重々しく口を開く。

「痛めつける予定はなかったんだが。そっちがその気ならこちらも手段を選ばざるを得ない。」

「いい趣味してるじゃない……っう、くそっ……」

 二ヴは苦しみながらもだえる。息も荒い。

 一方ヨルムは腹を抑えながら立ち上がり口を開く。

「……分かった。仕方ない。お前たちの言うことを聞こう。」

「……!ヨルム!」

「ニヴ、石を持たれている以上俺たちにチャンスはありません。ここは大人しく言うことを聞くのがいいでしょう。」

「……。」

 二ヴは苦い顔をしている。だが、暫くして無言で頷いた。

 その返事にアルデバランは石を踏みつけるのを辞めた。

 アルデバランはフォーマルハウトからもうひとつの石を受け取りふたつの宝石を慎重にしまう。そして先程の言葉をもう一度繰り返す。

「4大魔女の動きがある。お前たちも関係しているのか知りたい。そしてもし関与していないのなら星と太陽の味方についてもらいたい。」

 二ヴは息を整えながらゆっくり話す。

「僕たちは誇り高き魔獣だ。4大魔女なんかに手を貸すわけない。もちろんお前達にも。……と言いたいところだけど石を持たれてるし。そういう訳にも行かないね。」

 ヨルムも本当に面倒臭そうに頭を掻きながら言う。

「人間ごときに使われるのは本当に癪に触るが」

「じゃあ星と太陽の味方だと宣言して」

 リゲルが言うと2人は渋々宣言する。

「星と太陽の味方だ(だよ)」

それに満足したあと、レグルスはにこやかに言う。

「よっし!これで仲間になったわけだしここでパーティーでも……」

「それは勘弁して」

 ニヴが頭を抱える。

「用事は済んだでしょ。早く目の前から消えて」

 その言葉にパルはようやく口を開いた。

「では帰るかの。」

 その言葉に二ヴとヨルムを除いた全員が頷く。

 リゲル、フォーマルハウト、アルデバラン、レグルスは羅針盤のような魔道具の下の部分を握りしめる。すると魔道具は青く輝き1瞬で4人は転移する。それを見届けたあとパルたちもパルの力で転移した。

 やっと落ち着いた夜のこと。

 「なぜ契約をしなかったんですか?契約でしたら拘束力もあるし強制力もある。そうですよね?」

 ハシェルは不思議そうに尋ねる。するとパルはうぅむ、と首を振りながら答える。

「支配の魔女の一方的な契約を除き、契約であればお互いにお互いの望むものを代償として差し出さなければならん。今回の契約でいえば、星と太陽の味方になって欲しい、というのがこちらの要求じゃな。じゃとすればあやつらは石を返すことを要求するじゃろう。さすれば代償としてわしらは石を差し出さなければならん。」

ハシェルは続けて問いかける。

「なぜ石を返したくないんですか?石を交渉材料にすればもっといくらでもやりようはありますよね?」

 するとノアが手を上げる。

「石を持ってたらずっと恨みを買うことになるんじゃない?」

 パルは2人の意見に耳を傾け頷く。

「2人の意見は最もじゃ。しかし石は返せん。何故かと言うと、昔のこと。これはカプリコーンに聞いた話じゃ。ニヴルヘイム、ヨルムンガンド。あの二人は恐怖であの地を支配していた。歯向かうものは血縁まで全て皆殺し、あの地で2人に敵うものなどおらんかった。」

「あの二人、そんなに悪い人なの?」

「人は見かけによりませんね……」

 ふたりは口々に意見を口にする。

「そして人々は魔獣を恐れ息を殺して生きておった。

 それを見かねて討伐に出たのが西の国の聖人たちじゃ」

「聖人?魔術師協会ではなく?」

「ああ。当時、星の魔術は北の大地ではあまり浸透しておらんかった。そして北の大地の人々はその極限状態から太陽神教に入信するものが多かった。それならば、と北の大地と西の国の親交を深めるためもあり、白羽の矢が立ったのが当時最強じゃったセラフィエルじゃ。」

 そこまでいうとパルはお酒を飲もうとした。

 ハシェルはあっと思い出し、万能バッグから酒瓶を出す。

「これは?」

 パルが尋ねるとノアが嬉しそうに言う。

「あのね、友達がくれたの!パルが好きなお酒だろうって!」

「わしの知り合いかの…?」

 パルは不思議そうにしながら酒瓶を受け取りコルクを開ける。ここまで甘いいい匂いがしてきた。パルは甘いお酒が好きなのできっと好きだろう。パルはコップに次ぐ。

「では、有難く頂くかの。」

 そして口をつける。ごくごく、と小気味よい音が響く。

「うまい!これはうまいの!なんという酒じゃろうか!」

 パルは嬉しそうに酒瓶を見つめる。ハシェルは微笑んだ。


 1週間後旧都市へ行く事前準備として座学で丁度魔獣のことについて学んだ。先生が教科書を読み上げる。

「えー。有名な4大貴石を読み上げるぞ。ヘルヘイム、ニーズヘッグ、ニヴルヘイム、ヨルムンガンド。ニヴルヘイムとヨルムンガンドは北の大地に住んでいる。ニーズヘッグとヘルヘイムは旧都市から続く南のスラム街に住んでいる。」

 ハシェルはニヴとヨルムを思い出した。彼らは石を奪われたことで力が出せなくなっていた、だがしかし、4大魔女がそれを知り、アルデバランから石を奪って彼らに渡したとしたら、どうなるだろうか。きっと彼らはパルやリゲルを襲うに違いない。勝手に想像して、身震いをした。

「せんせーー!名前が難しいですー!」

 ノアが手を挙げて先生に抗議する。

「ノア!これは必修科目だから絶対暗記だぞー」

 そして先生は黒板を出現させ、名前を書いたあと、その下に地名を書き記す。

「旧都市から南のスラム街にかけては魔獣コミュニティが盛んだ。人間も沢山住んでいるが、魔獣も同数程度住んでいる。中には人を食らうものもいる。魔獣の弱点は魔力切れか心臓の石を奪うか、粉々になるまで壊すかだ。だがまた集まれば再生する。そこで必要になるのが星の粉だ。これはキュアルラネウスという貴重な花から取れる花粉からできた粉だ。これを振りかければ再生することなく魔石だけを手に入れられる。」

 それを聞き、ハシェルはあの妖精の庭の夜にだけ咲く青く輝く花を思い出した。

「キュアルラネウスは別名星の花という。夜にだけ咲く青く光り輝く花弁が特徴だ。俺も本物は1度しか見たことがない。皆、教科書の花の図を触れ。」

 教科書の花の図に皆が触れるとぼうっと青く輝く花の幻影が現れた。

「次に大事なことを話す。教科書を置くように。」

 先生のその言葉に生徒たちは不思議がりながら教科書を閉じる。

「いいか。俺は初歩的な呪文は教えたが、まだ複雑な呪文は教えていない。何故かと言うと咄嗟の時、思い出すのは簡単な呪文だからだ。命が関わる授業で余計な知識は命取りだ」

 確かに、難しい呪文よりも簡単な呪文の方が頭に残りやすく覚えている。ハシェルはひとりで納得した。

「考え方も変えてもらう。火球を例にあげよう。まず、火球で全てを焼き尽くす必要はない。目に火花を散らせばその隙に逃げられるし、急所も狙いやすいだろう!」

ハシェルはその考え方に戦場の厳しさを感じ身震いをした。

「また魔獣は石の魔力を使う。石は自然の畏れを具現化させる能力を持つ。例えば、マグマ、雨、雹、毒だ。その魔力は提供魔力ではなく自らが生み出すものであるから、攻撃の前に特定のゆらぎが見られる。その攻撃のいわゆる【ため】を見分ければ、自らの身を守ることが可能だ。」

 ハシェルはふと疑問に感じ質問をする。

「揺らぎを見分けるにはどうしたらいいですか?」

「揺らぎを見分けるには、自分の中を巡る魔力を感じたように相手の魔力を感じなければならない。」

「死ぬ時にも揺らぎのようなものは有りますか?」

 続けて質問をすると先生は首を縦に振る。

「ああ。死の直前にも、揺らぎはある。また、魔獣は死ぬ直前、死の咆哮や命の毒撒きを行うことがある。いわゆる、最後の悪あがきだ。よくあることであるから、最後まで気を抜かないように。」

「分かりました。ありがとうございます」

 ハシェルは頭を下げる。それを見て、先生も話を続ける。

「魔獣は人型のものも多いが、獣型になったら注意だ。攻撃は単調になるが、耐久力と機動力が上がる。」

 サダルスウドも手を挙げる。

「なんだ、サダルスウド」

「具体的にはどれくらい上がることが予測されますか?」

「うぅむ、そうだな、通常の2倍から3倍だ。」

 サダルスウドは手を下げる。

「また戦闘になればパニックに陥るものもいるだろう。パニックでよく見られる動悸や過呼吸は血の巡りをよくする。血流が上がれば魔力量も自然と上がる。一時的には魔力が暴走し魔力吐きのような状態になることもある。だがそれを逆手に取れば実は魔力総量をあげた状態で魔力を使用することができる。いつもは使えない高度な呪文も使うことができる。ただし先程言ったように窮地で思い出すのは簡単な呪文だ!それを忘れないように。」

「「はい」」

 皆が先生に対し返事をする。

「また、魔力量が全体の15パーセントを切った時について説明する。攻撃は全て捨てて撤退用のステップに全て回すようにしろ!」

 そして先生は羅針盤のような魔導具を配る。

「これは1回限り、魔術師養成学校に転移できる。どうしても使わなければならなくなった時これを使うように。1組5体の魔獣を倒す、それが目標だ。だがこれを使ったものは単位は取れない。一応だが、遺書も書いてもらう。」

教室は一気にざわついた。

「ああそうそう。これは実力の試験であるから、なんでも使っていい。星の加護、惑星の加護、錬金術、武器、何でもだ」

 サダルスウドはふんと鼻を鳴らす。

「それなら簡単ですよ。簡単すぎて授業にならない」

 すると取り巻きが歓声を上げる。

「流石サダルスウド様!」

 そしてサダルスウドは尋ねる。

「遺書は絶対ですか?書く必要性が見当たらないのですが」

 先生は机から白い紙を50枚ほど取り出す。

「これは覚悟を試す意味と、緊張感を高めるためにある。敢えて書かないものや書けなかったものはそれでいいが、書けるものは極力書くように!」

サダルスウドは面倒くさそうに言う。

「軍人魔術師入隊試験でもやったのに……」

ハシェルは配られてきた紙を手にした途端震えが止まらなかった。魔女と死闘を繰り広げてきたハシェルだったが本当の死の気配を身近に感じたことはなかった。

 だが、あらためて遺書が配られたことで自分が死と隣り合わせにあることをひしひしと感じた。

 ノアはと言うと不思議そうに紙を見つめていた。

「相談には何時でも乗るから何時でも声をかけるように」

 先生はそう言い残した。

 その夜。パルの展望台にて。

ノアは羽根ペンを眺めながら絨毯の上で寝っ転がった。

 ふと横を見るとハシェルは少し考えたあとさらさらと文字を書き始める。ノアはハシェルの遺書をのぞき込む。

 綺麗な時で、今まで会った人々への感謝が書かれていた。

ハシェルはその遺書を折りたたみ万能バッグへしまう。

 そして優しいそよ風がふく波打ち際へ一人でやってきた。

 そしてもう一度遺書を出し、ぐしゃり、丸めて海へ放る。

 もう1枚新しい紙をだす。ハシェルは死にたくない、という感情とアイに会えるのならそれでもいいという感情で埋め尽くされる。死にたくないのはなぜだった、?そうだ、アイの仇を取るためだ。アイを殺したあの魔女を、殺すため。

もし自分がここで死んだら、魔女を撃つことは出来ない。

 それは、それは、それは、いやだ!

「アイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイ アイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイ」

 一心不乱にその名を書く。ピンクのペンで50回。

 秘密の、おまじない。それを白い封筒に入れ万能バッグの中にしまう。そして、もうひとつ紙を取り出し、アイを殺した魔女の特徴を詳しく書き出す。銀髪の髪、襟足は黒と紫。

 軍服のような服装で、軍帽を被っていた。身長は175cmくらい、痩せ型で…。そして特徴を書き記した下に遺書を残す。

「僕が死んだら僕の代わりにこの魔女を殺してください」

 そしてその出来に満足しハシェルはそれを折りたたんで丁寧にバッグに入れた。

 一方ノアはまだ悩んでいた。

 パルに悩みを打ち明けるように声をかける。

「ねぇ……バル、僕遺書書きたくないよ」

 火に照らされたノアの顔は酷く幼く見えた。寝る前のトイレに親に着いてくるのを強請るように、ノアは訴える。

「僕、もう死にたくないよぉ」

 えーんとのあは泣き声をあげた。パルはよしよしとその背中をさする。ふとパルは自分の手が老いていることに気付く。

「こんなものを書かせおって実習も大袈裟じゃなあ。

 なに。万一がないよう万全を期しておるがそれでも心配なのじゃろう。どれ、わしも一緒に考えてやるからの」

「なにがいいかな。みんな幸せに?」

「遺書を送る相手も重要じゃな」

「僕、パルに送る」

「ソナタがおらんようになったらわしも消えてしまうぞ」

「それでもいいの。すぐには消えるわけじゃないでしょ?」

「……まぁ、そうじゃな。1年ほどならいれるじゃろう」

「じゃあお願い」

「ん?」

「僕が死んだらこの白い紙を鳥にしてとばして」

 ノアは思い出していた。鉄格子の隙間から見た青い空を、その空を自由に飛ぶ白い鳥を。

 生まれ変わったらあの白い鳥になりたいと思ったことを。

 パルはわかった、とうなずくと遺書を受け取る。

 暫くしてハシェルも帰ってきた。

「おかえりー」

 ふたりが言うとハシェルは微笑みながら言う。

「ただいま」

 そしてパルの方へ向かい万能バッグから遺書を取り出す。

「パル、受け取ってください」

「2人から遺書を貰うと重いのう」

 パルは大事そうに二通の遺書をしまう。

 遺書を預けた翌日。

 旧都市に入る門の前でそれぞれ準備をしていた。

 鼻が利く魔獣に紛れるよう、人間の匂いを消し、魔石で石の魔力の匂いをつけるもの、魔導具の充填は十分か、地図を用意しておいて退路や袋小路を確認するものなど、様々だった。ハシェルは大剣を取りだし、ノアは大鎌を取りだし、手入れして、磨いていた。サダルスウドのレイピアは1回の召喚ごとに新品になるようでサダルスウドはレイピアを構えては突き技を練習していた。ヴェ二アは静かに魔導書を読んでいた。

 ハシェルはそれを見ながら大剣を磨き終わると今度は音響弾と発煙筒を錬成した。目と耳がいい魔獣の事だ、音響弾と発煙筒は効くだろう。ハシェルはその後地図を取りだした。東の高い壁で囲まれたエリアはレグルスが統括する自治区で、人に害を与えない弱い魔獣が住んでいるとの事だった。ここは攻撃してはならない。との指示だった。ここを攻撃してしまうと単位は取れない。西に川が二本、東から西へ1本川がある。この川沿いに退路があるから分かりやすい。ふと隣を見るとレフィーナがノアに解毒剤や止血剤を渡していた。

「魔獣はどんな毒や細菌を持っているか分からないわ。特にノアは危ないからこれ、持っておいて!別行動になってもこれなら安心!」

「ありがとー」

 ノアは死地に赴くというのにのほほんとしていた。そんなノアを見ながらレフィーナを見た。ハシェルはレフィーナが大事そうにペンダントを開いているのを見た。

「それはどなたですか?」

 ハシェルが尋ねるとレフィーナは微笑む。

「祖父よ。とても仲が良かったの。もう2年も前に亡くなってしまったけれど。大臣でね、王家派筆頭だったの。とても立派な最後だったわ。以来私のお守り。」

 そんなことを話しているうちに先生が前に立った。

「属性が違うもの同士でペアを組んでもらう!……魔獣を倒した証拠は魔石で判断する!しっかり持ち帰るように!では紙を配る、その紙に書いてあるものとペアを組むように!」

 ハシェル、サダルスウド、ノア、レフィーナ、ヴェ二アに紙が回ってきた。結果は。ハシェルはサダルスウドと、レフィーナはノアと組むことになった。火と水、水と木同士で組まれているのだろう。ヴェ二アは木属性の子とペアになったようだ。とにかく、ノアがレフィーナと一緒になったのなら安心だ。

 問題はサダルスウドだ。何故かいつも敵対視されている気がする。サダルスウドがこちらへ来た。

 だがいつもの小馬鹿にした感じではなく真剣な顔だった。

 所謂仕事モードと言うやつだろうか。

「ハシェル。よろしくお願しますよ。」

「ええ。よろしくお願いします」

 ハシェルは思わず立ち上がってサダルスウドを見た。

 レフィーナとノアを見る。2人とも緊張していてお互いに手を繋いでいる。他の生徒達も青ざめているもの、緊張で嘔吐くもの、様々だった。愈々門が開く。

 門が開かれるとそこは初めて見る世界だった。

 幾つものプラント配管にたくさんのタンク、壊れたプラスチックのトタン屋根、錆びきった鉄パイプや、鉄の手すり。天まで届くほどのそれはおおよそ魔術とは正反対の大昔栄えた化学の世界の産物だった。

 人々がそこを行き交っている。先生が大きな声で指導する。

「絶対に人に攻撃しないように。かすり傷でも減点だからな」

 みなは姿勢を正す。それを見て先生は号令をかけた。

「初め!!」

 そして皆は一斉に散る。恐らく魔獣の出る地域の目安をつけているのだろう。ハシェルはサダルスウドに尋ねる。

「中心に近いここ、入り組んだ袋小路ですけど大量の人に擬態した魔獣がいると思われます。行きますか?」

 サダルスウドはレイピアをクルクルと回し微笑んだ。

「勿論。」

 ふたりは錆びた鉄板でできた階段を駆け上がる。

 中心へ行くに連れて看板も増えてきた。足場は悪い。

 たくさんの資材が落ちたり、崩れたりしている。

 人々は中心へ向かって掛けていく二人を見て不思議そうにしながら通行していた。裏路地に入るとさらに景色は悪くなる。

 多くの人が路上で酒を飲んだりタバコを吸ったりしていて、

 倒れている人や寝転んでいる人大人数で盛り上がっている人などが居た。ハシェルは思わず絶句する。

「見るな」

 思いがけず、サダルスウドがハシェルに忠告する。

「見れば、迷ってしまう」

 その言葉の本意が測れず、ハシェルは戸惑った。

 迷ってしまう、とはどういうことなのだろうか。

「それって、どういう……」

「今にわかる」

 すると酔っぱらい達がサダルスウド達に話しかけてきた。

「にいちゃん達可愛い顔してるねぇ一緒に飲もうよ」

「いまなら薬もタダで譲ってやるぜえ?」

 そして鉄パイプを握りしためた太った者も現れた。

「へへへ。痛くないからこっちおいでぇ」

 こんな人たちを助ける為に。戦うのか。

 ハシェルは図らずしもサダルスウドの言葉の意味がわかった。ハシェルは迷う。どうやってこの状況を切り抜けよう。

 だが、サダルスウドの判断は早かった。

「穿て、慈悲なき一雫。」

 水球の魔術の呪文が聞こえた。

 それは!

 ハシェルは青くなった。

 人を傷つければ減点だ。ましてや命を奪ってしまえば……。

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