魔術師養成学校
14話 魔術師養成学校
魔術師養成学校に入学してから1週間が経とうとしていた。
ハシェルとノア、レフィーナとサダルスウドは順調に授業を受けていた。その日は魔術の陣の構築の授業だった。
「今から魔法陣について教えていく!…が、その前に。」
皆が教科書から一斉に顔をあげる。
「転入生を紹介する!ええと、火星の守護を受けている、ヴェニアくんだ!入ってこーい!」
その名前にハシェルとノアは聞き間違いかと耳を疑う。
それか、たまたま同じ名前の人だろうかと。
サダルスウドは名前を覚えていないのか、不審にしている様子はない。2人はドアのほうを凝視した。
するとそこから入ってきたのは、あの、ヴェニアだった。
灰色の髪に灰色の瞳。間違いない、あの、魔女のヴェニアだ。
「ヴェニア!大丈夫だったの!?」
ノアが大きな声でヴェニアに問う。
「ハシェルとノアと知り合いか?良かったな」
先生は笑顔でヴェニアに話しかける。話しかけられているヴェニアの瞳に光が宿っていないことをふたりは知らない。
サダルスウドも思い出したらしく、慌てて氷華の剣を出そうとする。先生はそれを見て、指を指し大きな声で叱りつける。
「こら!サダルスウド危ないだろ!ヴェニアは魔女と疑われて裁判にかけられた。だが!魔女ではなく火星の守護の魔術を使っていたのを勘違いされただけとの魔女裁判の最終的な結果が出た! 」
サダルスウドは目を見開き、その内容に動転していた。
ハシェルやノアはヴェニアの魔力の色を思い出す。確かにあれは黒だった。紛うことなき魔女の色だった。
「ふざけないでください!僕はちゃんとみたんです!黒い魔力を使っているのを!」
サダルスウドは叫び、否定する。パキパキとサダルスウドの怒りでサダルスウド自身と地面が凍っていく。だが、それを否定するようにヴェニアは手を前に差し出す。赤い焔の玉が生まれ、サダルスウドを包み込む。それを見て先生は怒る。
「こらヴェニア!ダメだろう!そんなことするな!」
ヴェニアは無言で焔を消す。ヴェニアの炎でサダルスウドとサダルスウドの足元の氷は溶けていた。サダルスウドは水を滴らせながらヴェニアを睨みつける。ヴェニアはサダルスウドのその様子を気にすることもなく先生に謝る。
「先生、すみません。ただでさえ魔女と疑われても仕方ないのに。、」
ヴェニアは頭を下げ、次にハシェルとノアの方を見て言う。
「先生、ノアの隣が空いていますね。ノアの隣に座りたいです。」
ハシェルの隣のレフィーナは初めて見るその人を不思議そうな目で見ている。レフィーナはハシェルに尋ねる。
「ねぇ、あの人とどういう関係なの?お知り合いかしら」
ハシェルはひそひそとレフィーナに返す。
「魔法都市であった人でヴェニアと言います。友達です」
ヴェニアの秘密には触れないように差し障りのない言葉で返す。レフィーナは頷き前を見る。一方で先生はヴェニアのお願いに快く答える。
「うーん、そうだな。同じ火星の加護のハシェルも近くにいるし、いいだろう!仲良くな!」
「はい。」
ヴェニアは微笑む。ノアはその微笑み方がどこかで、見たことがあるような気がした。が、気の所為だろうと思い頭を振る。ヴェニアはノアの隣に来る。ノアは久しぶりに会ったヴェニアに嬉しそうだ。手をハイタッチして喜んでいた。
「久しぶりだね!魔女裁判があったの知らなかった!」
「うん。もう終わったんだ。いい人に会えて。良くしてくれて。僕は無罪放免になったんだ。」
「良かったぁ」
ノアは安堵する。ハシェルはヴェニアの様子に一先ず安心した。変わった様子はない。笑顔もあの時のような笑顔だ。
「じゃあ座れー!魔法陣のことについて話すぞー」
先生の言葉でヴェニアは席に着く。
サダルスウドはなお抗議する。
「この高尚な魔術師養成学校に魔女が入学するなんて、前代未聞ですよ!?絶対におかしい!!」
「サダルスウドそれ以上文句があるなら停学だぞ」
「なっ!?!?」
渋々、釈然としない様子で、サダルスウドは席につき口を噤んだ。小声で取り巻きに先生の悪口を言いばらまいている。
「で、魔法陣の話をするぞ。この世界には色々な種類の魔法陣がある、五芒星、8芒星、四角、逆五芒星。そして錬金術の火、水、土、風の魔法陣だ。全員手元の資料を見ながら描いてみろ!」
皆はいっせいに羽根ペンを取り出し用意されている紙に図形と、それを囲む円を書き写す。ハシェルはふととなりのレフィーナの手元を見る。小さいが、正確で綺麗な図形が並んでいた。逆にノアはどうなんだろうと思って横を見る。ノアのはおおよそ図形とは言えない何かが並んでいた。図形の隣には牛のようなものも書いてある。思わず小さく声をかけた。
「なんで牛書いてるんですかノア」
「これうさぎだよハシェル。上手いでしょ僕」
その声にヴェニアも反応し、ヴェニアがノアの手元を見る。ヴェニアは驚いて少し仰け反った様な姿勢をとりながら言う。
「ノア、授業中ですよ」
ノアはくしゃりと紙を丸め、レフィーナの方に投げる。
その紙はレフィーナに当たり、レフィーナも当たったその紙を見て、その情けない牛もどきのうさぎに思わずぷっと吹き出してしまった。するとサダルスウドが手を上げる。
「先生、前の席がうるさいです。ふざけているようです。」
レフィーナとノアがサダルスウドを睨みつける。
先生は仕方ない、といった様子でこちらにやってくる。ハシェルはこそこそとノアに耳打ちする。ノアは頷く。先生がやってきて、レフィーナのもっている紙をすっと取る。
「なんだこれは。8芒星と……牛?」
「せんせー!それ五芒星です!!」
ノアが元気よく手を挙げて言うと先生は目を白黒させた。衝撃で手が震えている。
「上手く書けないので周りに相談してただけです!!」
先生は頭を抱えながらノアを見てノアの肩に手を置く。
「大丈夫だ……きっと、上手くなる……お前はできる子だ……」
先生は少し泣いているようにも見える。
先生は顔を上げノアに紙を返す。ノアはえへへと持ち前の能天気さを発揮し、その場を切り抜けた。
授業が終わり、次は魔術の実技か、とサダルスウドが取り巻きと共に去り、皆が立ち上がり移動する頃、ヴェニアはあるものを万能バッグから取り出す。
「待ってハシェル。ノア。君たちに渡したいものがあるんだ。僕のことを介抱してくれた人の作ったものでね……」
そしてとん、とそれを机に置く。それは酒瓶だった。
「え。いいんですか?」
ハシェルが尋ねるとヴェニアは微笑む。
「ぜひ飲んでください。暁卿が好きなお酒だそうです」
ハシェルはそれを聞き、ひとりで納得した。
ああ、もしかしたら軍の内部にパルの知り合いがいて、ヴェニアを助けてくれたのだろう、その人はパルの好きなお酒を知っている人なのだろうと。
ハシェルはお礼を言いながらヴェニアからそれを受け取る。
ヴェニアは寂し気な自分を責めるような顔をハシェルにもノアにも見せないようにふっとしたあと、笑顔になった。
「絶対暁卿は気にいるから」
そんなことを言いながら。
「さ、授業に向かおう。」
ヴェニアはノアとハシェルを急がせる。
ハシェルは慌てて万能バッグにしまい込む。
それがパルを弱体化させる薬だとも知らずに。
「そうそう。それと2人にだけ話しておきたい秘密があって。」
ヴェニアは小さい声でハシェルとノアに耳打ちする。
「なになに?」
ノアは興味津々に楽しそうに尋ねた。
「僕が魔女だったのは内緒にしてください。惑星の力にも目覚めて、僕を介抱してくれた人が、ハシェルとノアに会えるように特別に入学を許可してくれたんです」
その言葉にハシェルとノアは合点がいった。
ヴェニアはハシェルとノアと会いたくてこっそり内緒で入学してきたのだと。と同時に嬉しかった。その秘密を打ち明けてくれたことが。それが嘘とも知らずに2人は約束をする。
「絶対内緒にします」
「分かったよヴェニア!これからよろしくね!」
2人の裏のない笑顔がヴェニアには眩しかった。と同時にやはりふたりと自分では住む世界が違うのだと落胆した。
次の授業は魔術の実技試験だった。
火星グループ、水星グループ、木星グループ、土星グループに別れる。それぞれ5人ずつくらいだろうか。
レフィーナは木星グループ、ノアとサダルスウドは水星グループ、ヴェニアとハシェルは火星グループだった。
「木星グループは花の芽を発芽させること!土星グループは土壁を作ること!水星グループは水球を的に当てること、火星グループは火球を的に当てること!では初め!」
先生の合図で全員がそれぞれの惑星の記号の描かれた手袋を手に取り、嵌めたあと、力を込め始める。
「自分の中にある提供魔力の循環を感じろ!そしてそれを手に集めるように意識するんだ!そしてそれをパッと放つ!」
ハシェルは目を閉じる。自分の息遣い、心臓の音、風の音、他の生徒の息遣いが聞こえる。もっと集中する。血液の流れを感じて、その中にある魔力の流れを感じる。魔力が全身を巡るのを意識する。それを、手の中に、集中させる。少し目を開いてみると、手の中に小さな炎が浮かんでいた。と、ここで歓声が上がる。隣を見るとヴェニアが焔の弾丸で的を撃ち抜いていた。
火星グループの皆が拍手している。
ハシェルは火の消し方が分からず拍手できなかった。
と同時に木星グループからも歓声が上がった。
レフィーナが花の芽を発芽させていた。どころか、花が咲いていた。レフィーナは貴族であるからか魔術に教養があるようだ。ノアの方を見ると、いつもの毒球のように体のあちこちから水球をふつふつと沸き上がらせていた。先生がノアに声をかける。
「ノアー!全身じゃなくて手だぞ手!!」
するとノアは情けないような声を出す。
「せんせー!分かってるんだけど出来なーーーい!!!」
サダルスウドの方を見ると大きな水球が出来ていた。
あとは打つだけだ。だが一向にサダルスウドは打たない。
それどころか水球は段々大きくなっていっている。サダルスウドの手はプルプルと震えている。魔力の止め方が分からないようだ。と、サダルスウドは思い切り水球をぶん投げる。すると水球はサダルスウドの手を離れて的にばしゃりと当たった。先生はそれを見て苦笑しながらサダルスウドに声を掛ける。
「荒業だが、出来てるな。サダルスウドとレフィーナは単位をやろう。あとの皆も引き続き頑張って単位を取ってくれ!」
ハシェルはその言葉に更に手のひらに力を込める。
今は向かい風、焔は弱い火力では的に着く前に消えてしまう。もっと高火力に。もっと強大に。
手のひらの炎はその思いに答えるようにぼぼっと、勢いを増す。両手のひらでは収まりきれないくらい大きくなった時、ハシェルは勢いよく的に当たる炎を思い描く。その時炎は目にも止まらぬ速さで的に思い切り当たる。真ん中からは外れてしまったが的の中だ。初めて錬金術以外の、しかも魔術が使えてハシェルは興奮する。先生も思わずハシェルを褒める。
「初めてにしては上出来だ!」
ハシェルは嬉しくなって、レフィーナの方を見た。
レフィーナは凄いと拍手で答えてくれた。サダルスウドはと言うと……まだ練習を続けているようだ。向上心がすごい。
ヴェニアにも出来たね、と声を掛けてもらった。
ハシェルは火星グループを抜けてノアの方に向かう。
それを見て、ヴェニアとレフィーナもノアの方に向かった。
絶対座学では単位が取れないのを見越してここで単位を取らせておきたい。ハシェルは心の中で思った。
ノアは悪戦苦闘している。
「ノア、目を閉じて。」
ハシェルがそう言うと、ノアは恐る恐る目を閉じる。
「手のひらだけに魔力を集めて」
ノアは深呼吸をしながら一生懸命力む。すると、小さな水滴たちが手のひらに集まってきた。
「その調子です。それをもっと強くイメージしてください」
ノアの手は緊張で震えている。ノアの手のひらのしずくは大きくなり水球となる。
「目を開けてみて」
レフィーナが声を掛けるとノアは恐る恐るゆっくり目を開く。
そして手のひらに大きな水球ができているのを見て喜ぶ。
「やった!やった!皆!できたよ!」
「まだです!」
ハシェルは鋭くその喜びを静止する。
「あの的に水球を当てる感じで、手から放すようにイメージしてみてください!」
ノアは水を放つ構えを取り、力み始める。水球はうねり始め、一気に凝縮した後、的へ勢いよく当たる。
「やったー!!」
ノアは両手を天へ突き上げぴょんぴょん跳ねる。
レフィーナはノアを抱きしめノアも抱きしめ返す。
サダルスウドはふん、まあまあですね。などとほざいている。ヴェニアは嬉しそうに拍手して声をかけた。
「やりましたね、ノア。」
ハシェルもノアを微笑ましく見つめる。
「ノア、凄い!的のど真ん中に命中してるっ!」
「あはは!ハシェル、敬語抜け落ちてる!びっくりしすぎだってば!!」
ハシェルは興奮のあまり敬語が抜け落ちていた。
ハシェルも自分の興奮に驚きつつもノアと一緒に笑った。
魔女と戦う時にはこんな笑顔をする暇なんて無かった。
先生も気づいたようでこちらに近づきながら大声を出す。
「よくやったぞ!ノア!!俺は信じてたぞ!」
先生はガシガシと乱暴にノアの頭を撫でる。ふと周りを見ると悪戦苦闘している生徒たちの姿が見えた。結局のところその授業では16人の生徒が単位を得ることができた。
「よし!今ので何を教えたかったかと言うと、詠唱無しで魔術を使うのはとても難しいと言うことだ!詠唱はイメージが出来やすい。だから普通は詠唱を使って魔術を使う!今使ってもらった魔術は全て初歩的な詠唱で使えるものだ!魔導書を開け!」
皆は魔導書を開く。するとそこには、こう乗っていた。
【火球…焔の理を解き放つ。
水球…穿て、慈悲なき一雫。
土壁…磐石の防壁を築け。
発芽…沈黙の種子に芽吹きを。】
「それぞれの惑星にも沢山詠唱がある。
全て覚えること!いいな!」
先生は大きな声で生徒たちに声をかける。
微妙な顔をするもの、楽しそうな顔をするもの、さまざまだった。ノアはと言うと……放心状態だった。
短い詠唱で神々の言葉でもなかった。
だが、ノアには難しかったらしい。
授業の終わりを告げる鐘がなり、皆が帰り出す。
ハシェル達は教室に帰りながら来週の授業を見ていた。
1週間かけて、旧都市での魔獣討伐の実技があるようだ。
楽しみだな、と思いながらハシェルはその掲示板を後にした。
夕方になり、授業が終わり、それぞれ帰路へ着く。
ハシェルとノアはパルから貰った魔道具でパルの展望台へ転移する。夜空が綺麗で、今日は流れ星も見える。ふと、かつてアイと見た呪いの本の内容を思い出す。
「ノア、流れ星が落ちる前に3回お願いごとを言えたら願いが叶うらしいですよ」
「えっ!何それ!初めて聞いた!」
ノアは必死に流れ星を探す。
「あっ!見えた!えーと、えーと、願い事……あっ、消えちゃった、…………」
ノアは流れ星を見つけてはそんなことを繰り返している。
ノアには願い事がないようだ。やっとノアもそれに気づいたのか空を見上げるのを辞め、ハシェルを見る。
「ハシェルー、僕、願いごとないみたい」
そして少ししょんぼりする。ハシェルは声をかける。
「今が幸せってことじゃないですか?」
するとノアは目をきらきらさせうん!と強く頭を縦に振った。2人は展望台の中に入る。すると、パルとレグルスとリゲルとあと2人、見知らぬ人間がいた。パルは口を開く。
「おぉ2人とも遅かったのお。早速じゃが、北の大地に行くぞ」
「え?」
2人は同じタイミングで聞き返す。その前に処理しなければならない情報が多すぎる。見知らぬふたりは誰なのだろう。いや、茶髪の男性とはどこかであった気がする。何処で…?
その胸の内の問いに答えるようにレグルスが紹介する。
「ハシェルとノアは会うの初めてだよな!紹介する!フォーマルハウトとアルデバランだ!王家の星のメンバーだぜ!
あと、今回は護衛でリゲルにも来てもらった!流石にリゲルには面識あるだろ?あとのふたりは知らないかもな!」
すると白髪の少女がぺこりと頭を下げ、軍服茶髪の髪を結んだ男性が胸の勲章を見せながら言う。
「アルデバランだ。ハシェルとノアとは少し面識がある」
「ああっ!軍のパレードの時と、魔術師養成学校の入学式でお会いしましたね!」
「そうだ。」
「えと……いい?」
白髪の少女、フォーマルハウトが手を挙げた。
「北の大地……行くのは…、4大貴石で……4大魔獣の……2人と会うため…だから、この子達……連れてくのは……危険」
少しおっとりとして間の長いような独特な喋り方だ。とハシェルは思った。言葉の選び方も穏やかだった。レグルスの喋り方は西の国なまりが強い。アルデバランは軍人らしく固い表現の言葉が多かった。王家の星の3人はキャラが強い。あれ?
「あの、なぜ3人なんですか?王家の星は4人なのでは?」
するとフォーマルハウトが首を振る。
「残り1人は……まだ…」
「見つかっていないんですか?」
ハシェルが続けて質問するとフォーマルハウトはこくんと頷く。アルデバランはこほんと軽く咳払いをして続ける。
「これは内緒にして欲しい事柄なのだが」
そしてこん、と紫の両手のひらくらいの宝石と人の頭くらいの宝石を置く。ノアは目を輝かせてそれを見ている。
「綺麗ー」
「これは?」
「昔セラフィエルが取ってきた例の4大魔獣の石だよ」
リゲルはにこやかに答える。
パルがその言葉を補うように話し出す。
「魔獣は石の力が強ければ強いほど宝石もとい魔石も大きい。そしてその魔獣の宝石の一部を持つことで石の所有者、もとい魔獣の所有者になれるのじゃ。」
「でもそれって反抗する者もいるんじゃ……きっと宝石を取る時って力ずくですよね?」
するとアルデバランとフォーマルハウトが頷く。
「4大貴石は昔暴れていて北の大地を恐怖で支配していた。だがセラフィエルが4大貴石の1人の石を従えるために手に入れた。その仲間の4大貴石から返り討ちにあったが、その返り討ちにしてきた4大貴石の石も力ずくで奪ったらしい。」
フォーマルハウトは口を開く。彼女の口元は見えないが。
「だから……多分……4大貴石は……自分たちの心臓の……石を持ってる私たちを憎んでるはず……」
「そうだね。多分行ったら襲ってくると思うよ」
故にフォーマルハウトは連れていくことを躊躇したのだろう。リゲルもうんと同調した。ハシェルとノアはそれを察して新しく習った魔術を見せる。惑星の力の、火球と水球だ。
「大丈夫!僕達強くなってるし!4大魔女の時と比べたら!」
「ですです!いざとなれば鎌と大剣で戦えます!」
2人は意気込む。
するとリゲルがフォーマルハウトに声を掛けた。
「まぁいい経験になるんじゃない。俺もアルデバランも行くんだし、心配いらないと思うよ。いざとなれば暁卿の転移魔術もあるんだし。」
フォーマルハウトは渋々と言った感じで了承した。
パルが早速杖を取り出す。
「わしの転移魔術は10人までなら同時に移動できるんじゃ。さ、皆わしの周りに立つんじゃ。」
フォーマルハウト、レグルス、アルデバラン、リゲル、ハシェル、ノアがパルの周りを囲うように立つ。パルは身長差で右半身がすっぽり隠れてしまっていたが左脇に立っているフォーマルハウトの身長が低いせいで左側だけ見える。ちょっと面白いなとハシェルは思ってしまった。
「ではゆくぞ」
五芒星が足元に現れ、瞬時に7人はパルの展望台から姿を消した。次の瞬間ノアの叫び声が聞こえた。
「さっむーーい!!!」
きゃあきゃあとノアが身震いしながら飛び跳ねている。
パルは杖を取り出し、体を守る呪文をみなにかける。
すると途端に寒さが和らいだ。皆安堵している。
北の山脈の麓に7人はいた。
北の大地にパル一行は降り立った。北の大地は極寒で風が吹き荒れている。その北の大地の山の頂上でパル達が来たことを感じたものたちがいた。
「ヨルム」
「ええ、ニヴ」
短い会話の中で彼らは意思疎通した。
1人はマフラーを首に巻き銀髪で毛先が紫だが、水色の毛が1束。目は水色で遠くを見据えている。
1人は濃い青の髪の中に紫の毛が1束。瞳の色は紫だ。
彼らの1束の毛と瞳の色は彼らの心臓である宝石の色を示している。ニヴは凡そ2000歳、ヨルムは凡そ1000歳だ。
彼らはじぶんたちの心臓の一部が帰ってきたのを感じた。
「どうします?」
「従順なフリして取り返す。今回はあいついないみたいだし」
「龍化は?」
「なしでいくよ」
2人は山頂から宙へ躍り出た。がががががと音を立てて前傾姿勢で雪の上を滑り降りる。目標へ向けて。
パル達は北の大地のどこに彼らがいるか、今からどこへ行こうかと相談をしていた。
その時雪崩のような轟音が聞こえる。ハシェルが魔法の望遠鏡を持って斜め上を見上げると目の前の、山脈の頂上から誰かが滑り降りるのが見えた。
「来たね」
「わしらが探さなくともあちらから来てくれるようじゃぞ」
「そのようです」
宝石を持っているアルデバランも気を引きしめる。
ハシェルは万能バッグから大剣と大鎌を取り出し、ノアに渡す。ハシェルとノアはそれぞれの武器を手に構えた。
人影が麓に降り立ち、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。よく見ると2人いるようだ。
雪のような銀髪と、深い海のような群青の髪。彼らはパルたちから少し距離を取って佇んでいる。暫しの沈黙、彼らの瞳と7人の視線が交差したあとアルデバランが口を開いた。
「ニヴルヘイム!ヨルムンガンド!あなたがたと話がしたい」
すると銀髪の青年が静かに白い息を吐き出した。
「へえ。僕たちの心臓、返しに来てくれたのかと思った」
群青髪の青年は銀髪の青年に囁く。
「今日はえらく人が多いですね。」
こきこきと群青髪の青年は首を鳴らす。
ノアは物怖じせず銀髪の青年と群青髪の青年に尋ねた。
「ねえ、2人のどっちがニヴルヘイムでどっちがヨルムンガンド?」
すると群青髪の青年が怠そうにしながら銀髪の青年を指さす。
「こっちがニヴルヘイム、俺がヨルムンガンド。面倒くさいんで、ニヴとヨルムでいい。白い人間。」
ニヴ以外には敬語を使わないようだ。もしくは、人間には敬語を使わないのか。いずれにせよ、敵意はなさそうだった。
「今日はなんの用事で来たの?」
ニヴは冷気を纏いながら尋ねる。
宝石を持っているアルデバランが警戒しながら口を開く。
「4大魔女の動きがある。お前たちも関係しているのか知りたい。そしてもし関与していないのなら星と太陽の味方についてもらいたい。」
すると銀髪の青年はからりと言う。
「いいよ」
一気にその場の緊張が緩む。
たが次の言葉で状況は一気に瓦解する事となる。
「僕らの石を返してくれるならね」
途端に一気に場の緊張が高まった。アルデバランの言葉を待つようにニヴとヨルムは静かに黙っている。こちらも皆黙っている。その沈黙に思わずハシェルとノアは息が上手く吸えなかった。
「それは無理だ」
厳しい沈黙の中アルデバランはきっぱりと断った。
また沈黙が流れた。皆黙って口を閉じている。あのレグルスさえもが笑顔を消して真顔で2人の魔獣を見ていた。
次の瞬間。
激しい吹雪と大きな氷塊が7つ、7人を襲う。
パルが杖を構え、神々の言葉で祝詞を唱えた。
「懸けまくも畏き太陽神よ、優しき光の檻、我らの生命を守り給え。汚れなき境界にて、世界を隔てよ!」
すると黄金の光り輝くドーム型の鳥籠のような8本の傘の骨のような枠組みが現れ、その間を網目状に白銀の障壁が現れた。障壁は吹雪と氷塊を全て弾き返す。攻撃されたのだ、とリゲルは瞬時に理解し、障壁の外へ飛び出していった。
「アルデバラン、しっかり石を守れ」
リゲルの声が障壁内にまで届く。アルデバランは上の服を脱ぎ始める。アルデバランの背中の雄牛の紋章が露になる。
五芒星が輝き、青く光り輝く雄牛が1頭アルデバランの後ろに現れる。レグルスも仮面をとり、顔にある紋章を顕にすると青く光り輝く小さな獅子がレグルスの前に現れる。
パルは一生懸命杖を構えて障壁を保っている。
ハシェルは魔法の望遠鏡を再度構える。吹雪の中でもリゲルの姿がくっきりと確認できる。ニヴとヨルムの姿も。
「ひとりで大丈夫なんでしょうか……」
ハシェルのその呟きにリゲルの同期のアルデバランが答える。
「リゲルは歴代軍人の中でも最強だ。……それこそ、王家の星でも勝てないくらいには。」
ハシェルはもう一度望遠鏡をのぞき込む。
同じ魔術師軍人のアルデバランが言うのだから間違いないのだろう。ハシェルはレグルスが護衛と言っていたのを思い出す。
リゲルは二ヴとヨルムの前で腰の大剣を引き抜く。
「俺たち、争うつもりは無いんだけど」
物腰柔らかにリゲルがそういうがニヴは吐き捨てる。
「石は僕たちのものだ、返せ」
そして上空へニヴは飛び立ち、雹をリゲルに次々と飛ばす。それを見てヨルムも後を追うように飛ぶ。リゲルも地面をけって錬金術で生み出した箒に乗り、空へと飛び立つ。
ニヴが氷山を次々と生成し、リゲルはその頂点を箒を投げやり飄々と飛ぶ。リゲルが右足で一回り大きな氷山を踏むと五芒星が現れ槍が現れる。槍を振り回し、ニヴが放った雹を全て弾き飛ばす。ニヴは顔を顰めながらヨルムの後ろへ飛ぶ。
リゲルが手を突き出しその場で半周させると矢が10本現れ二ヴとヨルムに向かっていく。




