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魔女会議

ハシェルとノアが新生活に胸を踊らせていた頃。

 一方日の差さない地下の大広間のある場所では……。

「まだ来ないね……」

「まあ、もう少ししたら来るんじゃない?」

 銀髪で襟足は黒髪と紫の髪の青年と白髪の少女はふわふわのんびり話していた。

「それにしても暁卿の弟子はすごいね、4人の魔女と対峙して」

 銀髪の青年は足でなにかを踏みつけながら何かを口に運ぶ。

「うん…そういえばこの前の彼も連れてくるのかな?」

 白髪の少女は白いまつ毛に赤い瞳で欠伸をひとつ、ゆっくり瞬きをした。

「もぐまだ抵抗してるみたいだけどやっと契約できたみたいだよもぐもぐ…」

 銀髪の青年はゆっくり咀嚼したあと嚥下した。

「それにしても……」

 その時。

「遅くなったわねぇ。」

 黒髪の女性が薔薇の吹雪と共に姿を表した。

「遅いじゃないかーエストゥルワ」

 銀髪の青年が血だらけの口で笑いかける。その瞳の奥に光はない。エストゥルワもとい支配の魔女は青年が踏んでいるものを見て含み笑う。

「また人間の赤子を踏んでいるの?タンジュも好きねえ。」

「そっちこそ、いい趣味してるじゃない」

 そして支配の魔女の手から垂れた鎖の先に繋がれている裸の灰色の髪の少年を指さした。彼はボロボロで口から黒い血を流していた。彼の名前はヴェニア。ノアと、ハシェルの友達だ。

 彼は鋭い眼差しで目の前にいる銀髪の人物を睨みつけた。

 すると銀髪の青年が血まみれの足でヴェニアを踏みつける。

「【不安】風情がイキがるなよ」

 ヴェニアは激しく咳き込みながら血を吹き出す。

「内臓を溶かす毒を飲ませたから、暫くは大人しいはずよ」

 支配の魔女はヴェニアの首に繋がれた鎖を強く引く。

「一応これでも魔女だから仲間としては見ているのだけれど」

 ため息をつきながら支配の魔女は椅子に座る。

「タンジュ、絶望の魔女と依存の魔女と渇望の魔女は?」

 すると銀髪の青年が首を振る。

「渇望の魔女、魔術師教会が殺したらしいよ。で、あとの2人は多分満月になるまで出てこないよ。こっそり太陽を食べてるみたい️」

 ヴェニアが血を拭いながら弱弱しく尋ねる。

「お前たちも……魔女……なのか……?」

 するとタンジュと呼ばれた青年が楽しそうに話しかける。

「僕とその子の性を当ててご覧」

 ヴェニアは多量出血で朦朧とした頭で考える。

 そもそもヴェニアは魔女とそれまで接点がなかったせいで魔女のことについて詳しくない。知っていることといえば魔力吐きのことと、血や涙が魔力によって黒く変化することくらいだ。ヴェニアは思い出す、あの時別れたハシェルとノアのことを。彼らには言っていない秘密がある。それは、自分が1度死んでいるということだ。父親に殴り殺され、死んだ時微かに声が聞こえ、目を覚ました時には魔女になっていた。彼らは聞いてもそうだったんだね、辛かったね、と受け止めてくれただろう。脳裏に浮かぶのは魔女裁判の記憶。スピカとサダルスウドが弁護してくれると言ったが、彼らは現れなかった。ハシェルとノアも何故か現れなかった。また会えると思っていたのに、会えなかった。それどころか一方的に責められ、有罪となり牢獄に投獄された。地下牢で意気消沈していたヴェニアの元に現れたのがエストゥルワだ。彼女は支配の魔女だと言った。そして徹底的に痛めつけられ、一方的な契約を結ばされた。

 記憶がばっと湧き出てきた頭を振り払う。

 目の前のことに集中しなければ。支配の魔女エストゥルワと一緒にいると言うことはこのふたりも魔女で間違いないだろう。銀髪の青年は何かを食べていて、白髪の少女は欠伸をしながらこちらを見ている。

 銀髪の青年の性は空腹だろうか、白髪の少女は…分からない。

「あなた……の性は、…空腹ですか?」

 ヴェニアが吐血しながら尋ねる。

 銀髪の青年は途端に嬉しそうな顔になる。

「惜しい!俺は空腹じゃない、飢餓だよ。じゃあ、あっちの子は?なんだと思う?ヒント!今からあっちの子は君になにかするよ」

 飢餓の魔女は楽しそうに何かを食べながら尋ねる。ヴェニアは戸惑う。一体何をするのだろうか。自分にされることといえばこいつらに都合のいいように使いやすいようになにかされるはず。洗脳だろうか?

「げほっ!!ごっ!!ぐふっ!!」

 激しい吐血の波の後にヴェニアは尋ねた。

「洗脳……?」

 すると飢餓の魔女は惜しいというような顔をする。そしてヴェニアの前にゆっくりしゃがみヴェニアと顔を合わせる。

「あの子は病の魔女。だから、今から君の脳みそをいじくる。解離性健忘と言って記憶が消える病気があるんだ。それで一旦君の記憶を全部消す。そこに虚偽記憶の病で新しい記憶を補完する。一応仲間だから説明しておこうかなと思って」

そこまで説明すると飢餓の魔女は病の魔女の方を向いて首を縦に振る。ヴェニアは血を吐き出しながら身を捩る。

「やめろ…!」

病の魔女は静かに近づいてきて、そして、ヴェニアの前に立った。彼女は幼い顔でヴェニアを見下ろす。

「私もね、病気で死んじゃった時に人間だった頃の、こんな酷い記憶なんか消えちゃえばいいと思って、色々調べたから詳しいの。大丈夫、毒の効果は消してあげるから。」

「やめろっ!げほっ、離せっ!……ノア!ハシェル!助けて!

 ……嫌だ!ごほっ!」

 そしてゆっくりヴェニアの頭を触る。

「次に目を開けた時にはもう私たちの仲間だよ。」

「やめ…」

 ヴェニアの言葉が途中で途切れた。黒い魔力がヴェニアの頭を包んでいた。少ししてから病の魔女はふっと息を吹きかける。すると黒い魔力が煙のように消え、目を閉じたヴェニアの顔がそこにはあった。ヴェニアが目を開ける。

「タンジュ。エストゥルワ。アリス。」

 ヴェニアが3人の名前を呼ぶ。すると支配の魔女は首輪を外し、服を渡した。ヴェニアは不安げな顔をする。

「僕、父さんに殴られて死んだんだ。」

 誰にも言わなかった言わなかった秘密を打ち明ける。

 するとタンジュはよしよしと頭を撫でる。

「俺もボロ雑巾みたいに犯されて蹴られて殴られて捨てられて死んだよ。辛かったね」

「うん、上手くいったみたい」

 アリスはヴェニアの様子を見ながらそう口にする。

「僕を救ってくれてありがとう。」

 不安そうな顔をしながらヴェニアは微笑んだ。

「お礼に僕は何をすればいい?」

 すると支配の魔女がヴェニアに契約書を見せる。

「私と結んだ契約、覚えてるかしら。」

 ヴェニアはそれをみて嬉しそうに言う。

「僕が仲間になった時の契約書ですね、覚えてます!」

 支配の魔女はヴェニアに服を着せ、立たせる。それは魔術師養成学校の制服だった。

「この契約書にある通り、あなたが見たり聞いたりした情報は全て私たちに話すこと。」

「わかりました」

 病の魔女が指に髪を巻き付かせながら遊ぶ。

「あぁ、そう。そういえば」

 病の魔女は何かを察したように言う。

「渇望の魔女を倒したのは赤毛と白毛と暁卿だったらしいよ」

 飢餓の魔女がにこやかに言う。

「じゃあ赤毛と白毛が暁卿の弟子ってことだね」

「この子の記憶を消した時、仄かに赤毛と白毛が見えたの」

 病の魔女が黒い魔力をふよふよ浮かせながら近寄る。

「この記憶は使えるかも」

 そしてもう一度ヴェニアに黒い魔力をまとわりつかせる。

「赤毛と白毛の記憶だけ植え付けるの?」

 支配の魔女が椅子にもたれかかりながら問う。

「うん。上手く行けば話してくれるかも」

 そして黒い魔力がゆっくりヴェニアの体に染み込んでいく。

「さあさ、答えなさいヴェニア。お前の知ってる赤毛と白毛は暁卿の弟子?それとも違う者たち?」

 ヴェニアの瞳に光はない。ヴェニアは不安げに答える。

「しり…ません、僕が知ってるのは、ハシェルとノアです」

 飢餓の魔女は宙に浮き、ひっくり返ってヴェニアを見る。

「その名前、さっきも言ってたね」

「はい、友達です」

 ヴェニアはそう言ったあと、友達?と言葉を反芻した。

 何か、心に引っかかったが、大切のような言葉のような気がしたが、今のヴェニアにはあまりにも遠くて、届かない言葉だった。飢餓の魔女はふぅんとヴェニアを見る。

「やっぱり知り合いです、友達では無いと思います。」

 ヴェニアは先程の言葉を否定した。

 支配の魔女は魔術師養成学校の制服を着たヴェニアに満足しながら話を進める。

「……ヴェニア、あなたには魔術師養成学校に潜入して情報を集めてもらうわ。魔術師協会のことを知りたいし、私を追い詰めてきた軍人の子達もいるみたいだし。」

 飢餓の魔女は驚いたような顔をする。

「エストゥルワを追い詰めた?なにそれ詳しく」

 支配の魔女は嫌な顔をした。

「思い出したくもないあの浄化の光……ぞっとするわ、私の境界内だったから油断してたわ」

 飢餓の魔女はすごく楽しそうだ。

 だがその時、支配の魔女は何かを思い出す。

「そういえば、あの時私を追い詰めたのも赤毛と白毛でハシェルとノアだった。名前を呼びあっていたもの。思い出した、あの時暁卿と一緒にいたわ!」

 支配の魔女はそういうとニヤリと優雅に微笑む。

「ヴェニアと知り合いなのは暁卿の弟子のハシェルとノア。これはなにかに使えそうね。」

ハシェルとノアは、なぜ自分に暁卿と繋がりがあることを言ってくれなかったのか。信じて、なかった?やっぱり、友達ではなかったんだ。友達だったら、きっと言ってくれたはずだから。ふつふつとヴェニアの心の中に疑念が広がる。

 支配の魔女はヴェニアに、優しく声をかける。

「ヴェニア。入学したらハシェルとノアに近づきなさい。

 入学の手続きはこちらでしておくわ」

「はい、わかりました、エストゥルワ」

「そうそう。私たちのことは他言無用。それと私たち以外の魔女のことは性の名前で呼ぶこと。いいわね?」

「それはなにか理由が?」

「私たちの仲間はひっそり人に紛れて暮らしてる、名前も同じものを使っているからバレたらまずい。おわかり?」

 ヴェニアは頷く。

「聖人と魔術師は鼻がいいの。最近は特に。」

 病の魔女はそういうと背伸びをする。

「聖人たちの聖歌で、私たちの境界や闇のサバトも毒されつつるわ。何とかしないとね。」

「前の飢餓の魔女の残した穢れた土地で暮らせてるから俺はなんともないけどね。でも少しずつ太陽神の天使の加護者は増えてるよね。何とかしないと」

 飢餓の魔女も欠伸をひとつした後、嗚咽を漏らし始めた。

 そして勢いよく黒い魔力を吐き出した。

「その魂を食べて魔力を吐く癖、何とかならないの?」

 支配の魔女は足を組み直す。

「ごめんごめん。もう食べないよ」

 飢餓の魔女は軽く謝る。支配の魔女は飛び散った魔力を蒸発させ、一瞬で周りを綺麗にする。

「でも悪魔の力、強くなってるみたい。そんな気がする。」

 病の魔女は気にも止めず言葉を紡ぐ。

「悪魔?」

 ヴェニアは尋ねる。すると飢餓の魔女が笑い出す。

「お前、何から俺たちが力を貰ってると思ってんの?」

 支配の魔女も思わず失笑する。

「聖人たちは天使から力を貰っている。魔女は悪魔から力を貰うの。代償は命と未来と魂。だから私たちは死んだ時に初めて力を手にする。」

「俺はベルゼブブ。」

「私はベルフェゴール」

 飢餓の魔女と病の魔女はそれぞれの悪魔の名前を口にする。

「君は不安だから……多分アザゼルだね」

 飢餓の魔女はひっくり返ったままヴェニアを指さす。

病の魔女は退屈そうにクッションを出し、抱きしめ始めた。

「まぁとにかく、私たちは悪魔に力を貰ってる……それが最近強まってる。……月の力も太陽の400倍くらいになってる」

「いい事だね」

 飢餓の魔女は口角を上げる。

「ああ、早く愛しの月にあいたいわ。早く扉を見つけてふさわしい生贄と身体を用意しなければ。」

 ヴェニアは首を傾げる。

「月……ですか?」

 飢餓の魔女は宙に浮いたままぐるんと宙返りして降り立つ。

「この世界には月と太陽が居る。太陽神と月神ね。俺たちの目的は月神のこの世界での権限。俺たちにとっては血と阿鼻叫喚に塗れた楽園になるよ。」

「この世界を……地獄にする…ということですか?」

「分かりやすく言えばそういうこと」

 飢餓の魔女は月に想いを馳せる。

「俺たちは力が強くなり支配や戦争や飢餓、病が蔓延する」

 ヴェニアは死の間際の声を思い出し、月に会いたくなった。

「僕も月に、あってみたいです」

 飢餓の魔女はうんと頷く。

「君もそう言ってくれるだろうと思ってた」

「生贄と身体を用意すると言っていましたが、具体的にはどう言うことですか?」

 ヴェニアが尋ねると支配の魔女が頷き説明を始める。

「あなたは知らないかもしれないわね。昔偽善の魔女っていたのよ。本当はその子の信者たちを生贄にしようと思っていたのだけれど。人数も十分だったし。でも、今の私たちじゃ用意しきれない。そこで聖人の登場というわけ」

 飢餓の魔女が椅子に座り、説明を補う。

「俺たち魔女は黒魔術を使える。聖人たちの魂を喰って境界内にストックしておくことができるのさ。勿論ただの魂だから反抗することも逃げることもない。ただふよふよ浮いているだけ。太陽の魔力を帯びた無垢な子羊である聖人の魂は月にとっては最高の生贄になるって訳だよ。いうなれば量より質って所かな。それで、今魔女たちに魂を集めさせているんだ」

 病の魔女はクッションを抱えたままゴロンと転がる。

「たまに星の魔術師が混ざるのが面倒だよね」

「アリスはまだ若いから見分けるのが難しいんだね」

 飢餓の魔女はアリスをよしよしと撫でる。

「やめてタンジュ」

 アリスは手を優しく払い除ける。よく見るとアリスのその手は痩せていて体が骨ばっていた。病の魔女だからだろうか。

「魔女って何歳から大人なんですか?」

ヴェニアがそんなことを尋ねると飢餓の魔女はうーんと考えた。

「60年も経てば大人かな。ってそんなこと言ったらエストゥルワはおばあちゃんだよねえ」

 すると支配の魔女は鋭い視線を飛ばす。触れてはいけない話題のようで、ヴェニアは話をそらす。

「アリスは幾つなんですか?」

 アリスは白い睫毛を瞬きさせながら答える。

「10歳の時に魔女になったから…まだ魔女になって2年かな」

 そして思い出したように呟く。

「ちょうど3ヶ月前、聖人を逃がしちゃったんだよね。あれはうっかりしてた。病にかけたからもう死んだとは思うけど」

 すると飢餓の魔女はチッチッチと舌を鳴らす。

「分かってないなぁ、聖人たちのなかに治癒魔術を使えるものがいるから、それで多分治ってるよ。」

「そっか。残念。」

 病の魔女はふわぁと欠伸をした。人の生死が関わっているのにあまり重大な事柄だと思っていないようだ。殺伐とした会話だが生ぬるい和やかな雰囲気の異様な空気が流れる。

「それで、月の身体の話ね。月が受肉するには器が必要よ。」

 支配の魔女は話の路線を戻す。

「器は最低でも4大魔女か四大聖人のものでないと。」

 飢餓の魔女は椅子にもたれかかって言う。

「俺は四大聖人を使うのもありだと思うけど、あいつだったら月も喜ぶんじゃないかなと思うよ」

「あいつ……?」

 ヴェニアが尋ねると飢餓の魔女はゆっくり口角を上げた。

「これはとっておきの秘密。」

 そして耳元に口を寄せその言葉を口にした。

「四大聖人と4大魔女の子供がいるんだよ」

 ヴェニアは驚いた。四大聖人と4大魔女?敵対し合うふたつがどうやって結ばれたのだろうか。飢餓の魔女はひそひそと続きを話す。

「俺の前の飢餓の魔女は、四大聖人で聖歌隊にいたラフェットってやつにご執心でね。」

 支配の魔女は聞こえていたらしく口を挟む。

「そもそも四大聖人や4大魔女は月や太陽からの提供魔力が強すぎて子を作ることはできないはずなの。でも彼女はいくつもの禁忌魔術を使って直接悪魔と取引をして妊娠することに成功したわ。」

 ヴェニア自身誰かと結ばれたいと思ったことはない。

 魔女になってからは魔女だから誰かと結ばれることはないと思っていた。だが違った。魔女であっても誰かと結ばれることは出来る。強く望めば。

「そうそう。彼女はラフェットが死んだ翌日魔力吐きして、自分の国を壊して死んだんだよね。」

 飢餓の魔女はそういうと黒い魔力の塊を作り4つのワイングラスとワインを取り出し始めた。コルクを開けてワインを注ぐとワインは血のように赤かった。

「これは……?」

 ヴェニアが問うと飢餓の魔女は嬉しそうに言う。

「君が仲間になってくれた記念だよ。そこら辺にいる聖人の血で作ったんだ。成人は階級が上がると血が出ないから貴重だよ。ちょっと魔力でピリピリして美味しいよ。」

「血が出ない……?どういうことですか?」

「言葉通りの意味だよ。四大聖人クラスになると血はシャボン玉や羽や綿や花びらになるんだ。」

 飢餓の魔女はつぎ終わるとコルクを締める。

「さあ手に持って。乾杯しよう。」

 ヴェニアはワイングラスを持つ。

支配の魔女や病の魔女もワイングラスを持って掲げる。

 ちん、といい音が鳴り響いた。

 病の魔女、支配の魔女、飢餓の魔女は一気にワイングラスの中身を飲み干す。ヴェニアは恐る恐るワインに口をつけた。

 少し舌先が痺れるような感じがあり、少し鉄臭い。

 一気に飲み干すと、拍手をされた。

「すごいね。最初はなかなか飲めないんだよ。」

 病の魔女はそう口にしながら口元を手で拭う。

「よし。四大聖人と暁卿の対策をしなきゃいけないわね。

 それと新しい魔女の勧誘もしないと」

 支配の魔女はそんなことを口にしながら立ち上がり、両手から黒い魔力を出す。

「ここからは私の境界内で話しましょう。その方が寛げるわ」

 病の魔女と飢餓の魔女が立ち上がる。すると次の瞬間景色が一変し、赤と黒の世界へと変貌する。

 赤い世界の中でチェス盤のような床に黒いイスと黒いテーブル。赤い空には目玉がいくつも並んでいてこちらを見ていた。

 飢餓の魔女は黒い魔力を生み出す。黒い魔力は分散して4つのステーキを出す。ご馳走だ、とヴェニアは思った。

 早速4人は席につき、先程のワインがまた配られる。

「さあ食べて食べて。下っ端聖人だけど美味しいよ」

 その言葉にヴェニアは躊躇した。

「聖人の死体ですよね…?」

「そうよ。精がつくわ。食べなさい。」

 支配の魔女も久々のご馳走に嬉しそうな顔をする。

 病の魔女は丁寧に切り分けている。

「タンジュの持ってくる聖人は美味しいの。」

 飢餓の魔女は軍人のような格好で、ポケットから煙草を取り出し黒い焔で火をつけて吸い始める。もわもわとヴェニアのところまで煙草の匂いがする。それを見て支配の魔女は煙管を出し、優雅にタバコを吸い始める。ここにいる半分は喫煙者らしい。それもおそらく魔女歴が長いふたりが吸うものだから匂いに文句は言えなかった。2人は煙草を吸いながらステーキに手をつける。

 飢餓の魔女は少し食べ方が汚らしかった。おそらく育ちが悪いのだろう。音を立てて食べていた。一方支配の魔女は優雅にひと口ひと口味わって食べていた。

 ヴェニアも意を決してステーキを味見する。柔らかくて食べやすい。ヴェニアはどこの部位なのか気になった。

「あのこれってどこの……」

「あー。おしりだよ。まだ若い聖人だったから柔らかくて食べやすいでしょ。俺、食には貪欲だから。」

 聞かなければよかったと思った。途端に手が付けられない。

 だが、3人はヴェニアのその様子に気づくこともなく話を進める。

「四大聖人の対策だよね……」

 病の魔女は食べながらそう話す。

「俺は四大聖人と戦ったことあるけどまあまあの強さだったよ。名前は確か……ハミカ」

 支配の魔女はワインで口直しをしながら言う。

「私は今の四大聖人と戦ったことはないけれど、昔の四大聖人と、その上の、名前は忘れたけどそいつとも戦ったわ。総じて評価するに、浄化の光が厄介なのよね。ほかのは避ければいいけど、浄化の光は足元から上に向かって放たれるの。逃げたって無駄。逃げたところに浄化の光が出現するから」

「暁卿も浄化の光を使うんでしょ。厄介」

 病の魔女は眉を顰める。

「でも面白いことが分かってね」

 飢餓の魔女は指先を舐めながら言う。

「暁卿の契約してる星はルキフェル。彼の契約している天使は確かに天使長だけど、なんと!堕天して悪魔になってる。つまり暁卿が悪魔の力に目覚めるのも時間の問題…ってわけだよ。」

 すると支配の魔女と病の魔女が目を丸くする。

「情報の根拠はどこ?本当でしょうね?」

「なら、暁卿が私たちの仲間として引き入れられるのも時間の問題だね」

「そうとなれば暁卿を月の力に目覚めさせないと。どうやって調理すべきかしら。」

 ヴェニアはそこでふと疑問を口にする。

「でも月の力は1度死なないと覚醒しませんよね?」

「そこよ。暁卿は太陽の力で自己再生する。そこを弱らせて1度殺す必要がある。悪夢に見るほど強烈な残酷な状況で殺す必要がある。性を背負わせる必要があるからね。」

飢餓の魔女はまた黒い魔力を出し、ワインボトルを引き出す。

「と、ここで病の魔女であるアリスちゃんの協力がいる。」

 病の魔女は頷く。

「月の力を暁卿が普段飲むお酒に混ぜるの。免疫力と提供魔力耐性をだんだん弱らせる病気があるからその呪いを付与する。4大魔女の呪いだからきっと暁卿にも効くはず。」

「ええ。境界内の私の支配の力も暁卿にはきいていたわ。

 きっとアリスの呪いも聞くはずよ。一ヶ月後には暁卿も一般人並みの魔力耐性になってるはず」

「これを、一体どうやって暁卿に……?」

 ヴェニアがそう問うと飢餓の魔女はにっこり笑う。

「そんな分かりきったことを聞くのかい。」

「え?」

 ヴェニアが心からの疑問符を口にする。すると支配の魔女がヴェニアの髪を優しく撫でる。

「あなたの友達?知り合い?まあどうでもいいけどそのハシェルとノアって子に暁卿宛に渡すのよ。顔見知りから渡されたものなら警戒なんてしないはず。まあ、あなたが失敗しても他の方法は考えてあるから心配しないで。」

 ヴェニアは返事をすることができなかった。

 過去の自分がそれだけはダメだ!と言っているような気がして。だが、ヴェニアはその代わり頷いてしまった。

「いい返事だよ」

 ヴェニアは不安になる。

「あの、魔術師養成学校に潜入するということなんですが、自分が月の魔力を使ったらバレるんじゃ……」

 すると支配の魔女が赤く光り輝くブローチを取り出す。

「それは心配いらないわ。この魔獣の石を使えば、自然の力を使うことができる。星の魔術師には石の力とバレないよう呪いをかけてある。支配の魔女の一級品よ。」

 飢餓の魔女は口角を上げてヴェニアを見る。

「あとは浄化の光対策ですね……」

 ヴェニアは顔を逸らし、話題を変えた。

「そうねぇ。私もうひとついいものを作ったの。」

 支配の魔女はゆっくりと黒い魔力をだす。

 そしてそこから金色の虫のサナギのようなものをバラバラとだす。

「これは…?」

「魔獣の石と私の魔力で作った対浄化の光用の呪いのサナギ」

 支配の魔女はひとつ手に取ると下に投げつける。

 すると大量の黒い蛾が支配の魔女を守るように生まれ、支配の魔女は蛾の大群の中に姿を消す。蛾の群れが飛び立ち支配の魔女が再び顔を出す。

「この翅は絶対に浄化の光を通さない」

 飢餓の魔女がテーブルに肘をつき口を開く。

「見た感じ浄化の光を光を通さない蛾の量で抑えてる感じだね。いいね。魔女たちにばらまこう。」

 すると病の魔女はそれをみた途端、支配の魔女に強請る。

「ねえ、エストゥルワ……私の白髪を黒く染める魔道具も作ってよ……白だと聖人とか王家みたいでしょ」

 ヴェニアは髪の色のことについて言及する病の魔女を不思議に思った。白といえば、ノアがその色だった。聖人や王家だったのだろうか?ヴェニアは尋ねる。

「あの、白い髪の色って聖人や、王家だけなんですか?

 黒い髪にもなにか意味はありますか?」

 すると病の魔女は思い出すように話し出す。

「えっとね。私の髪の色が白なのは、病気でそうなったから。ほかにも、魔女じゃなくても黒髪の人はいたりするけど…。普通は黒い髪なら月神直系の魔女、白い髪なら太陽神直系の王族。それぞれ帯びる魔力の色で髪の色が変わると言われてるよ。確かタンジュかエストゥルワから教えてもらったんだよね。」

 支配の魔女は自分を指さす。

「あぁエストゥルワか」

 病の魔女はそう言ったあと、言葉を続ける。

「新しい魔女の勧誘もしないと……やっぱり主になるのは闇のサバトかお遊戯会(ルーデウス)かな」

 病の魔女はそう呟き、飢餓の魔女が頷く。

 ヴェニアは聞きなれない言葉に聞き返す。

「闇のサバト?お遊戯会(ルーデウス)……?なんですか?」飢餓の魔女はその言葉にいけない秘密を打ち明ける様に話す。

「どっちも軍の上部や、1部の貴族の中でも上流階級が属している組織でね。違いはね闇のサバトは、月神を信仰するもの達で集まっていることだよ。禁忌魔術の研究なんかをしててね。毎月新鮮な生贄を捧げるんだ。そして魔女の味方だよ。俺たちにも捧げ物をしてくれる。サバトに関係のない無垢なものや純粋なものをわざわざ連れてきてその命を捧げる。お遊戯会(ルーデウス)は孤児やさらってきた子供なんかを寄ってたかっていたぶるんだ。悪趣味だよねえ。魔女より人間の方が魔女らしいよ。あはは」

 けらけらと笑いながら言う飢餓の魔女にヴェニアは吐き気を覚え、思わず顔を顰めそうになった。支配の魔女は、何故か分からないが頬を染める。

「あの子と初めて会ったのも、お遊戯会(ルーデウス)だったわね……」

 話が脱線しそうな雰囲気だった為ヴェニアは尋ねる。

「とにかくそういう組織の場所を増やせば、魔女も増えるんですよね?」

「そうそう。お遊戯会(ルーデウス)で生まれた魔女も3人くらいいるし。闇のサバトはエストゥルワが管理して、魔女になりそうな子を見つけては呪いをかけて管理してるし。」

 飢餓の魔女は上機嫌にそう話し、病の魔女は何かを取り出す。

「これ、エストゥルワから言われた通りに作った悪魔の卵と悪魔の種。やっと生成することに成功したの。どちらかこれを口から入れて植え付ければ、理不尽な死が訪れた時魔女が誕生する。」

「これって、僕たちにもあるんですか?」

「そうよ。聖人は逆に天使の卵や天使の種を持っている。わたしたち魔女も育つ過程で心の歪からいつの間にか生成される。これがあれば魔女をもっと増やせるわ。早速ばら撒きましょう。今日はいい会議ができたわ」

 支配の魔女は美しく微笑んだ。

 

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