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旧都市編

16話 旧都市編

水球の魔術で鉄パイプの半分が消し飛んだ。

 酔っぱらい達はそれを見てたじろぐ。だがしぶとい。

 サダルスウドとハシェルになおも近づいて来る。

 サダルスウドは、ハシェルに叫んだ。

「逃げますよハシェル!」

 ハシェルは頷く。そしてふたりは一気に駆け出した。2人とも踵から水球と火球を出し、勢いをつけて男たちの間を走り抜けた。男たちはそのスピードに呆気にとられて後ろを振り返る。

 ハシェルとサダルスウドはそれも見ぬ間に男たちから距離を伸ばしてただ走る。

 しばらくふたりは走って、大きな通りを何本か通り抜け中央の通りに近づいた。 中央へ進むにつれて人通りも多くなってきた。最初ハシェルが目安をつけていたところまであと少しだ。

「サダルスウド、質問があるのですが」

「なんですか?」

 ハシェルは走るのを止め、肩で息をする。流石に20分も全力疾走は体に応える。サダルスウドは軍人だから特別な訓練でも受けているのだろうか。汗こそかいてはいるものの息は上がっていない様子だった。

「あの、僕達が戦闘をはじめてしまったら騒ぎになりませんか?それに、戦闘の二次被害があるんじゃ……」

 ちらりと周りの建物を見る。ボロボロでどこもかしこも錆び付いている。どこかが壊れてしまえば全体が崩壊してしまいそうだ。サダルスウドは立ち止まりハシェルを見る。

「軍がよく戦闘してますからね。この街の人々からすれば日常茶飯事。また戦闘か、位の気持ちでしょう。二次被害は深刻ですね。軍の戦闘でもよく建物が倒壊しています。人や建物に被害が及ばないよう、慎重に戦いましょう」

「わかりました。」

 ハシェルは頷く。その時激しい轟音が聞こえた。

「!?」

 ハシェルは驚いたがサダルスウドは驚くことなく無言で上を見上げた。

「はじまりましたね」

その言葉にハシェルはやっと気付く。誰かが魔獣との戦闘を始めたのだと。ノアやレフィーナだったら、無事でいますように。ハシェルは太陽神に祈った。

一方ノアとレフィーナは川沿いの古びたコンクリートの道を歩いていた。ふたりが歩いていると前方からゆらゆらとふらつきながら歩く男性が見えた。レフィーナは男性に気付き心配そうにかけよる。

「あの、大丈夫ですか?」

 すると男性は何かを呟く。

 ノアも駆け寄ってきて男性になにか聞こうとして、背中を見て、悲鳴をあげた。男性の背中はなにかの噛み傷でいっぱいだったのだ。男性は口の中を切っているようで、口から血を垂らし倒れる。と、男性の背後から幼い少年がやってきた。

「おーい、大丈夫?」

 ノアとレフィーナは警戒しながら尋ねる。

「あなた誰?」

「なんでここにいるの?」

 すると少年は帽子をぬぐ。赤い髪の中にひと房、青の髪が入っている。それは、授業で習った、魔獣である証だ。

 魔獣は体内の鉱石の色で髪の一部分と瞳にその色が現れる。

 ノアは大鎌を構える。

「レフィーナ、その人の治療をお願い」

「まかせて。後で加勢するから。」

 少年は名乗る。

「僕の名前はカルカンサイト。お姉さんたち肉付きはそこまでだけど甘い匂いがして美味しそう。」

 よく見ると少年の口には血がついていた。少年はベレー帽をかぶり直し祈りを捧げるように手を合わせる。

 ノアは一瞬たじろいだ。刹那、少年の背中から大きな蜘蛛の脚が八本、ノアに向かって飛んできた。ノアは4本大鎌で受け止める。が残りの4本は体に突き刺さる。

「っぐ……」

 だがおそらく体内の石で出来ている蜘蛛の足もポロポロと小さな欠片が落ちている。硬度がそこまで高くないのだろう。

「カルカンサイト……聞いたことがある」

 レフィーナは治療をしながら魔導書をめくる。

 そしてパワーストーンの一覧を広げた。

 ノアは大鎌を大きく振り回し蜘蛛の脚を砕かんとする。

 それに気づいたのかカルカンサイトは蜘蛛の脚を待避させる。ノアは呪文を唱える。レフィーナはその頁を見る。

「穿て、慈悲なき一雫」

「待ってノア!!」

レフィーナの声とノアの声が同時に響いた。

ノアは動揺して水球は大きく膨らんで真上へ放たれる。

カルカンサイトは上を見上げ水球を見た瞬間口角を上げた。

 ばしゃばしゃと4人に破裂した水球の雨が降りかかる。

 レフィーナが説明する暇もなくカルカンサイトがにやけ笑いを止めることもなく自己紹介し始めた。

「あっはは!!知ってる?僕の石は水で溶けるんだ。その時に毒も溶けだすんだ。この瞬間から僕に触れたらお姉さんたち最悪死ぬよ?」

 それを聞いてノアはふつふつと久しぶりに毒球を体のあちこちから沸き上がらせる。レフィーナは初めて見るノアの力に驚いて声も出せなかった。カルカンサイトはそれを見ても笑みを崩さない。

「君も毒持ち?僕の毒とどっちが上か比べてみようよ」

 ノアは鎌に毒をまとわりつかせる。毒の大鎌のできあがりだ。ノアは毒球をいくつも放つ。カルカンサイトは蜘蛛の足で全てを破壊する。びしゃり。カルカンサイトに毒球が当たる。

「僕の体は石でできてるからムダだよ…っう!?」

 カルカンサイトは膝から崩れ落ちる。神経毒が聞いたようだ。魔獣の身体は小さな石が寄り集まってできていて、石と石の間には実は神経が張り巡らされている。つまり、ノアの神経毒はカルカンサイトには効くのだ。カルカンサイトは焦り石でいくつもの小さな蜘蛛を作り出し、ノアやレフィーナの方に向かわせる。ノアは大鎌で凪払おうとするが如何せん数が多い。

 レフィーナも手で払うが蜘蛛は数が多すぎる。体をどんどんよじ登ってくる。

「強烈な毒をありがとう。お礼の毒の蜘蛛だよ。」

 カルカンサイトは顔を抑えながら立ち上がる。

 蜘蛛の群れにノアは埋もれてしまった。

 レフィーナと男性も埋もれ始める。レフィーナは慌てて呪文を唱える。

「沈黙の種子に芽吹きを!!」

 すると手のひらに出していた木の芽がむくむくと成長し、ノアとレフィーナ、男性を巻きこんでうえへぐんぐん木が成長し上昇する。重力に耐えかねて蜘蛛たちがバラバラと落ち始める。だが残った蜘蛛がレフィーナやノアを噛む。

「いった!!!」 

 カルカンサイトの毒が水に濡れたレフィーナやノアの肌か体内へ取り込まれる。少し間が空いて毒で動悸を引き起こす。

「はぁ、はぁ、はぁっ……」

 レフィーナとノアは息が荒くなる。魔力の巡りも良くなってくる。ノアはそれを感じて大鎌を握り直した。

「魔力が、溢れてくる。」

 ノアは考えた。ハシェルなら、どうする?

 自分に使えるのは水球と毒球だけ。

 カルカンサイトは水に溶ける。神経毒も効く。

 水に溶けてしまえば魔石は消えてしまう。

 上手く蜘蛛の足だけ溶かせられないか。そこで同じく上にいるレフィーナに相談する。

 レフィーナは考えたあとあることを思いつく。

「私が植物を顕現させるからノアはカルカンサイトを武器で攻撃しながら上へやって」

 ノアは頷きバッと飛び降りる。カルカンサイトはすかさず蜘蛛の足で攻撃する。ノアは大鎌を大きく振りかぶり足を全て払い除けるとカルカンサイトの懐に飛び込む。

 そして大きく体をひねるとがんっとカルカンサイトの横腹を狙う。カルカンサイトは上へ大きく飛び退く。するとレフィーナが呪文を唱える。

「沈黙の種子に芽吹きを」

 するとカルカンサイトの真下に大きなウツボカズラが現れる。

「しまった!」

 カルカンサイトは思わず叫ぶ。ポチャリ、その中に入る直前に蜘蛛の脚を展開させ何とかギリギリで踏みとどまる。

「ノア!」

「うん!」

「やめろ!!」

 カルカンサイトが怒鳴る。ノアは呼ばれるとすぐ大鎌を持ち直し今度はウツボカズラの上へ大きくジャンプし、カルカンサイトの右脚を全て砕く。カルカンサイトはバランスを崩し、右半身だけウツボカズラの液体に浸かる。すぐに体が水に溶けだす。カルカンサイトは慌て始める。

「わかった!話し合いをしようよお姉さんたち!」

 するとウツボカズラの縁にたってノアはニヤリと言う。

「ぼく、男だから」

 カルカンサイトは口を開ける。レフィーナも驚く。

 最後にのあはカルカンサイトの左脚を1本ずつ剥がし始める。

「やめて…まって、話を……」

「人を傷つけた罰だよ」

 ノアはカルカンサイトの最後の脚を蹴り落とす。

 カルカンサイトはばチャリとウツボカズラの中へ沈んでいった。身体がぶわりと溶けだす。蜘蛛の足はもう溶けてしまった。手足も溶けてしまう。頭と体幹だけになったところでノアが合図を出すとレフィーナはウツボカズラを消す。

 中から息も絶え絶えのカルカンサイトが出てきた。

「悪いけどきみの魔石貰うよ!」

 そして大鎌でカルカンサイトの胸を壊す。

パキンと音をたててカルカンサイトは崩れる。青色の魔石がこぼれおちる。少し小さい魔石にノアとレフィーナは目を合わせあった。そして喜びを分かちあう。

「勝ったー!勝った勝った!!」

「やったねノア!」

 レフィーナは急いで毒消しの薬を飲もうと提案する。

 ノアもレフィーナも解毒薬を取り出し一気に飲み干す。

 一方ハシェル達は。

 大きな荷物を子供たちに運ばせる、この貧民街とは場違いな太ったマダムに出会っていた。サダルスウドが眉を潜めてハシェルに耳打ちする。

「あのおばさん、みえますか?」

「はい、あの大きな荷物なんでしょうね」

 サダルスウドはハシェルを小突く。

「そこじゃないです。見てください、子供たちの髪の色」

 ハシェルはよくよく子供たちの髪色を見る。4人の子供たちは皆それぞれひと房ずつ髪の色が違う。ハシェルは気付いた。

 あの子供たちは全員魔獣だ。だとすればあの太ったマダムの髪の色が何故金髪1色なのかも気になるところだ。

「あれ、どうして、あのマダムは髪が金1色なのでしょう」

 するとサダルスウドは声を潜めて耳打ちする。

「あれはおそらくウィッグですね。多分あれが親玉で、周りのは自分の子供たちか、親とはぐれた魔獣でしょう」

 ハシェルは胸が痛んだ。親代わりの魔獣を殺せば、残りの魔獣たちはどうなるのか。だが、サダルスウドは違う考えを持っているようだ。

「あんなに太っているということはかなり人を食べている可能性がある。ここからでも血の匂いがします。周りの子供たちも肉付きがいい。人を好んで食べるとは言うことはウェンディゴか吸血鬼、グールあたりでしょう。」

 言うが早いかサダルスウドは雪の結晶の足場を作り思い切りジャンプし、太ったマダムにレイピアを突き立てようとした。

 が、子供たちに阻まれる。子供のひとりはピエロのような仮面と獅子の体に蠍の尾を持った魔獣に変化し、残りの3人はオークへと変化した。

 ハシェルはその1人の子供の変化した姿に見覚えがある。

「マンティコアです!サソリの毒に気をつけてください!」

 サダルスウドは一気に後ろへ飛んでハシェルと同じ位置へ下がる。ハシェルは火球の呪文を唱える。

「焔の理を……」

 火球が3つ現れる。段々それぞれの火球は圧縮していく。

「解き放つ。」

 その瞬間炎の弾丸が3つ、オークになった3人の子供たちの額を撃ち抜いた。オークになった子供たちはバタリと倒れる。

 サダルスウドはレイピアを構えながら言う。

「やりますねハシェル。あの太ったおばさんは僕が。」

 ハシェルは無言で頷く。マンティコアの弱点は火と斬撃だ。

 だからこそ、ハシェルに任せたのだろう。ハシェルは大剣を構える。ハシェルは魔導書の呪文を思い出し言う。

「我が身に滾りし魂をつかえ。熾火よ、この大剣に点火せよ」

 すると剣先に向かいグルグルと炎が点火していく。

 ハシェルはマンティコアに刃を向ける。マンティコアは威嚇し唸り声をあげる。錬金術を使おうとしてハシェルは辞めた。何時もの錬金術に頼りたいところだが錬金術は魔法陣を書く必要がある。この速さが命取りになる戦いでそれは向いていない。それに、マンティコアに錬金術や火以外の魔法は効かない。ハシェルは踵に火球を漲らせ思い切りマンティコアの後ろへ飛ぶ。マンティコアは上を向きハシェルを噛もうとした。

 ハシェルは顔を思い切り足で踏みつけマンティコアの顔面に炎の剣を突き立てる。マンティコアの仮面が割れかける。

 マンティコアは後ろ足で思い切りハシェルを蹴り上げた。

 ハシェルは腹を防御した姿勢でサダルスウドの後ろまで飛ばされる。サダルスウドはレイピアを構えたまま言う。

「ハシェル。敵が意識していない所を突くんです。」

 ハシェルはけほけほと飛ばされた勢いにむせながら頷く。

「……分かってます。でも、ありがとうございます。」

 サダルスウドはしばらくマダムと睨み合っていたがマダムが突進してきたことで戦闘は開始された。マダムの皮膚は灰色へと変わり、大きな角も生えてきた。サダルスウドはレイピアでマダムを脳天から突き刺そうとした。が、マダムは軽い身のこなしで避け、その際にサダルスウドに赤く光り輝く氷柱を突き刺そうとした。サダルスウドもそれを宙返りして避け、氷柱を思い切り蹴りあげる。するとマダムはバランスを崩す。サダルスウドは瞬時に唱える。

「我が権能に答えよ、水瓶!」

 するとサダルスウドの手に青く光り輝く水瓶が現れる。

「凍てつく早朝の霜」

 サダルスウドがマダムに向けて水瓶の中身をぶちまける。

 マダムは顔や背中に水瓶の中の水を浴びる。

 その瞬間身体が一瞬にして凍りつく。マダムの動きが鈍くなる。だが、マダムはまだ進化を残していた。キュルキュルと音を立てて身体が引き締まる…というよりガリガリにやせ細って行く。擬態を解いたのだ。その姿は怪物そのものだった。

「やはりウェンディゴ……僕もおまえも氷属性…厄介だな」

 サダルスウドは芳しくない状況に思わず口調が崩れる。

 マダムは凍てついた身体をパキパキ言わせながら口を開く。

「ぉぉ、お、おまえ、顔がいい。私の、コレクションにしてやろう」

 そして子供たちが運んでいた大きなキャリーバッグを開く。

 そこにはずらりと剥ぎ取られた顔面が並んでいた。

 サダルスウドは顔を顰めながらマダムをにらむ。

「なんて悪趣味な……いいでしょう、こちらこそ僕のレイピアの土徳にしてさしあげますよ……」

サダルスウドはレイピアを構え、まだ動きの鈍いマダムの顔面を狙う。するとマダムは大きく、人ではありえないほど口を開き、レイピアをがしんと歯と歯で捉えた。

 サダルスウドは慌てて引き抜こうとする。だがマダムは引き抜かせない。右腕を思い切りサダルスウドの腹にぶち込む。

 だがサダルスウドはレイピアを離すまいと必死に柄を掴んでいる。マダムは間髪入れず両手でサダルスウドの頭を握り潰そうとする。爪が食い込む。サダルスウドの頭が傷つき血が流れる。サダルスウドは舌でペロリと流れてきた血を舐める。

「凍てつく寒夜の氷柱」

 するとサダルスウドの頭から放射線状に血液が青く光り輝く氷柱となってマダムに突き刺さる。

「ぎゃああああ!!!!」

 マダムは思わず口を開き絶叫する。その隙にサダルスウドはレイピアを喉の奥まで突き刺し、串刺しにする。

 マダムはサダルスウドの腕をかみちぎろうとしサダルスウドはそれを瞬時に察知し後ろへ大きく飛びレイピアを引き抜く。

 マダムは絶叫しながら宝石をパラパラと落とす。

 そのときマダムのサングラスがポロリと落ちる。

 マダムの瞳は赤く輝いていた。

「太陽と月が対となるならば、石と星もまた対になります。大人しく魔石となって授業の単位になってくださいね。」

 サダルスウドは今度は心臓を狙って駆け出した。

 マダムも赤く輝く氷柱を何個も出現させサダルスウドの体を突き刺そうとしてくる。サダルスウドはそれをマダムの方へ走り抜けながらいくつも避けていく。サダルスウドはマダムの胸に向けてレイピアを突き立てようとする。が、マダムは爪の先から鋭い氷柱を出現させサダルスウドのみぞおちに突き刺した。

「うっ……!」

 サダルスウドの動きが一瞬止まる。

 その隙にまだむは右手で大きな氷柱を出現させサダルスウドに突き刺す。肋骨の下、右脇に氷柱が突き刺さる。サダルスウドはなんとか痛みに耐え、身を捩り氷柱を抜き取り、マダムから距離をとった。

「いっ…た……強いですね……流石、何人も食ってるだけある」

 サダルスウドは痛みに息を切らしながら両手をマダムに突き出し呪文を唱え始める。

「我が深い魂の呼び掛けに答え、我が権能に答えよ……水の水瓶!」

 するとマダムの周辺に水滴が現れ、一気に連結してマダムを水の水瓶が閉じ込める。つついても水瓶は割れることはないし弾けることもない。強力な水の結界だ。

 サダルスウドは肩で息をしながらハシェルを見た。

 マンティコアにいくつも傷をつけている。

 マンティコアが倒れるのも時間の問題だろう。

 サダルスウドは安心しながらマダムの方を見る。

 マダムは水中でもがいている。

「水瓶の上から氷柱で串刺しにしてあげます。本当はこの水瓶、体力が削られるから使いたくはなかったんですけど。それに大きな氷柱で串刺しにしたら魔石がバラバラになってしまうから嫌だったんですけど。傷を負った以上選べませんね。致し方ない」

 そして唱え始めた。

「凍てつく寒夜の氷柱、大」

 すると大きな氷柱がマダムを串刺しにした。マダムの体は一瞬にして薄い青の宝石が心臓辺りからパキパキとわれて欠片となってばらばらと落ちた。

「おっと。」

 サダルスウドは宝石の欠片を両手で慌てて受け止める。

 そして宝石の欠片を寄せ集めてギュッと両手で握る。

 すると宝石はひとつになり大きな結晶となった。

「いった…」

 ずきり。みぞおちと右の脇腹が痛む。見ると多量に出血をしていた。肋骨は折れてはいないようだが、内臓が損傷している。サダルスウドは一先ず氷で止血することにした。

 集中して損傷した血管にパキパキと霜を降りさせて、氷結させる。傷口がパキパキと音を立てて凍っていく。

 恐らくハシェルなら止血剤や回復薬を持っているだろう。

 ずきずきとした痛みに耐えながらサダルスウドは膝を着いた。まさか、自分がここまで、しかも初戦でやられるとは思わなかった。くらり。目眩がする。

「出血多量……ださすぎますね……姉上なら、こんなことになることは無かったでしょう……所詮僕も未熟者ですか……」

いつの間にかサダルスウドの周りも凍り出す。血液とともに大量の魔力が流れ出したようだ。制御できない。

 一方でハシェルも異変に気付いた。周りの温度が下がっている。吐く息も薄く白く見える。ふと前を見るとサダルスウドが膝をつき肩で息をしていた。早く倒さねば。

 ハシェルはマンティコアに切りかかる。

 マンティコアはサソリの尾をハシェルに突き刺そうとしてくる。ハシェルはそれを蹴り倒す。その勢いでサソリの尾にヒビが入る。マンティコアは前へ踊り出た。サダルスウドを食う気だ。ハシェルは直感的に分かり、マンティコアの前へ走り横から大剣を振るいその背で叩き飛ばす。マンティコアは横へ飛ばされる。冷気で動きが鈍くなっている。避けられなかったことがその証拠だ。だがそれはハシェルも同じ。筋肉が収縮していくのを感じる。

 血管内を流れる魔力に力を込める。熱くなれ、鼓動を早くしろ。この冷気に負けないくらいの熱をもて。自分を鼓舞しながらマンティコアに対し剣を構える。もうサダルスウドは決着をつけている。だが深手だ。自分の回復薬を使わなければ命に関わるだろう。あのマダムが親玉なら、きっとマンティコアより強いはずだ。一人で勝利したのはすごいことだ。

 マンティコアは魔法を使えないのだろうか?だとしたら好都合だ。ハシェルは大剣を振る。マンティコアは警戒しながらハシェルに襲いかかってくる。その隙をつく。

「前、それも剣だけしか見てない。」

 ハシェルは確信し片手で剣を振りながら片手で火球を作り出す。そしてマンティコアに上から剣を振り下ろそうとする。

 マンティコアは口で剣を噛み砕かんとする。

 その隙に腹に左手を添えた。

「炎の理を解き放つ!!爆裂せよ!!」

 その瞬間火球が左手の上、マンティコアの腹の下で爆裂する。マンティコアの腹が粉々に割れる。

 マンティコアの体は粉々になり割れ砕ける。

 赤い宝石が一面に散乱する。

 ハシェルは息を切らしながら勝利を味わった。そして息を整えたあとバラバラになった宝石の欠片の中からいちばん大きな欠片を手に取り、万能バッグにしまう。

 その後倒した子供たちの魔石も拾う。

 ハシェルはその後、サダルスウドの元へ向かう。

 目を閉じていたが、ハシェルの気配に気づいたのかサダルウドは薄目を開ける。横目でチラリとハシェルを見ると問う。

「宝石は?」

 ハシェルは万能バッグから回復薬を取り出しながら言う。

「拾いました。サダルスウドは?」

 サダルスウドを深く息を吸って吐いたあと右手に握られている宝石を見せる。ハシェルは無言で頷き膝を着いているサダルスウド同様片足を着き傷口を見る。

 大きく深い傷跡で、身体を何かが貫いたようだ。

 ハシェルはヴェリティから貰っていた特製の回復薬をかける。サダルスウドが眉をしかめる。

「痛……優しくしてください、怪我人なんですよ」

「痛いのは我慢してください。ぼくも少し前妖精の庭にいた魔女にやられてあちこちに火傷をおったことがあります。その時にこれが効いたんですよ」

 サダルスウドの苦しそうな荒い息が聞こえる。

 ハシェルはふと、4大貴石の4大魔獣の2体を思い出した。

 石が取られているとはいえ、すごい力だった。

 今の自分たちでは到底太刀打ち出来ないほど。それを楽々と平伏させて見せたリゲルさんはどれほど強いのだろうかと。

 この話をすればサダルスウドも少しは元気になるんじゃないだろうか。

「そういえばこの前ノアとパルと、じゃないな……えっと、暁卿と、王家の星の方々と、リゲルさんとで4大魔獣の2人に話をしに行ったんですけど」

「え!?リゲルさんが!?羨ましすぎますねそれは」

 サダルスウドの意気が傷口から逸れる。

 顔色は悪いままだが。

「リゲルさんが一人で2人ともねじ伏せてしまったんです。凄いですよね。」

 サダルスウドの顔が得意げな顔になる。

「それはその通りです。リゲルさんはすごいんです。」

 サダルスウドは痛みも忘れてぺらぺらとリゲルさんのことを話し出した。これは長くなりそうだ。

 その頃ノアとレフィーナは南の垂直スラム街の辺りに来ていた。太陽を塞ぐようなそのスラム街は中央当たりとは違って人通りは少ない。

あちこちで何やらすごい音がする。

 色々な場所で人だかりもちょこちょこできていた。よく見るとどこも魔獣と生徒が戦っているようだった。

「皆頑張ってるみたいだね。」

「そうみたいですわね。」

 ふたりは呑気に話をしながら先程の男性を安全なところまで2人がかりで運んでいた。回復薬も使ったため窮地は脱しただろう。すると裏通りから声をかけられる。

「お姉さんたちも難儀やねぇ。それ、うちで預かろか?」

 少し訛りのある甘ったるい声にノアとレフィーナは振り向いた。黒髪に所々緑の髪の毛が混じったような髪で、1束緑の髪を纏めて結っていた。ノアとレフィーナは警戒した。ノアは大鎌を構える。それは、魔獣の特徴だからだ。

「あーー。お姉さんらちょっと待ちい、誤解しとるで。」

「何が誤解かしら。あなた魔獣でしょ」

「確かに俺は魔獣やけど普段は悪い魔獣ちゃうで。首輪付きの魔獣やから心配せぇへんでええで。」

 そう言うと服を捲り上げ胸を見せる。そこには、穴がぽっかり空いていて、本来あるはずの心臓である宝石がなかった。

「どういうこと?人に飼われてるの?」

 ノアが尋ねるとその男性は首を振る。

「ちゃうねん。ここのトップになる戦いに負けて心臓奪われてもうてん。今はそいつの言いなりや。まあお姉さんらがそいつやっつけてくれるんやったら話はちゃうねんけど。」

 そしてノアを見る。瞳孔は縦で猫のようだ。

「ノア。怪しいですわ。この男、信用すべきではないでしょう」

「うーん。信用出来ない」

 そうノアとレフィーナがそう告げると男性は首を振りながら悲しげに答える。

「俺がお姉さんらを襲ってないことが証明なんやない?」

 それを言われると、確かにそうだ。ノアとレフィーナは顔を見合わせる。男性はそれに、と付け加える。

「それ、重そうやし。」

 ノアとレフィーナが持っている男性を指さし言う。

「うちやったらそん人運べるベッドもあるし、お姉さんらが休める場所も寝泊まりする場所もあるで。お姉さんら、魔術師養成学校の生徒さんらやろ。しょっちゅう来るもんで覚えたわ」

「そうなの?」

ノアはだいぶ絆されてきたようだ。

「アレやったらお友達さんも呼んだらええ。」

 ノアはついに心を許した。

「わかった!じゃあハシェルも呼ぶ!ね、レフィーナそれでいいよね??」

 レフィーナはうーんと唸る。が、やっと頷く。

「わかった……連絡用の水晶があるからそれで通話しましょう」

  そしてレフィーナはバッグから小さい指輪に水晶が付いているアクセサリーを取り出す。

「ハシェルだったら、持っているとおもうけれど……」

 そして指輪を指につける。すると水晶が赤く光り輝く。

 男性は緑の瞳でその水晶を見る。ゆら、と瞳が揺れ動いた。

水晶が少ししてから映像を映し出す。

 ハシェルとサダルスウドが映る。ハシェルはサダルスウドの肩を持っていてサダルスウドは青い顔でペラペラと何かをハシェルに熱心に喋っている。

「今、大丈夫?」

 レフィーナが問うとハシェルは口を開く。

「今サダルスウドが怪我をしていて……連絡用の水晶を持っていたんですか?」

「こっちは一体倒したよー。親切な人にあったからハシェルも来ない?泊めてくれるって」

 ノアが言うとハシェルはサダルスウドの肩を担ぎ直す。

「どこですか?そっちに向かいます。」

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