【2-4】特別命令「勇者付き」
星晶院・執務の間
勇者召喚の翌日──
星晶院の奥深く、幹部のみが入れる“群星の間”で、魔導士たちが密かに会議を行っていた。
「……勇者「天野」は、性格・資質ともに理想的だ。虚栄心がなく、他者にも傲らぬ」
「よろしい。だが同時に、下手に不信を招けば“敵”として振る舞う危険もある」
「無理な御し方はせぬ。エリセリアが付いている。あの子は“人心を掴む術”を知っている」
「彼女には、あらかじめレイン・アークロウとの関係を切らせておくよう指示を出すか?」
「……それは不要。自然に、彼の方から崩れる」
誰もがその意味を理解していた。
彼女が“微笑む”だけで、信じ込む者は数知れない。
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王城前・訓練場跡
「──な、勇者様付きだって?」
レインは、報告を受けたそのとき、思わず目を見開いた。
「うん。正式には、星晶院からの要請だって。勇者様の魔力管理や王国案内、儀礼的な支援も含めて、私が担当することになったの」
制服の肩には、既に新たな魔術徽章が縫い込まれていた。
副長ではなく──“王直属勇者管理官”の印。
「……でも、私たちの関係は変わらないよ。レインは、レインだから」
そう言って、エリはやさしく笑った。
いつもの、あの笑顔で。
だが、レインは非常に心配だった。
不気味だった。
勇者という存在が──
どこの世界から来たのかもわからない強い力を持つ人物。
そんな者をこちらの都合で、片道切符の召喚術を使い、勝手に呼び寄せる。
反逆されようと文句は言えないだろう。
「……ほんと、エリは、すごいな」
レインは言葉を選びながら苦笑した。
「俺なんかは、ただの衛兵で止まったのに。エリはどこまで上に行くんだ」
「違うよ。……私がこうなれたのは、レインがいてくれたから」
その言葉が、妙に沁みた
天野 悠──異邦の視点
「彼女は、いい嘘をつく」
星晶院の応接間で、天野は呟いた。
「……ん?何か仰いましたか?」
補佐官が聞き返すと、彼は軽く首を振った。
「笑顔の使い方がね、“保険”を張る人間のものなんだ。だが、それが必要だということも……僕には、わかるよ」
エリセリアは完璧だった。
口調、仕草、言葉の選び方、空気の読み方。すべてが“相手のため”に最適化されていた。
だが──最適すぎた。
(彼女は何かを隠している。けれどそれは、悪意ではない)
そう、彼は思い込んだ。
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夕暮れ──衛兵詰所
「……お前、なんであんな偉くなった女と釣り合ってると思ってるんだ?」
レインは、かつて同僚に言われた言葉を思い出していた。
それはそうだ。ましてや今やエリは王直属勇者管理官になっている。
「所詮お前は詰所止まりの兵士だろ? 星晶院の副長が、ただの幼馴染ってだけで、そんなに甘くなると思うか?」
そんなはずはない、とレインは思っていた。
だが──
──“私たちの関係は変わらないよ。レインは、レインだから”
あの言葉が、どこか遠くに聞こえた。
彼の心に、じわじわと“違和感”が芽を出し始めていた。
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