【2-2】儀式の日
──神託は落ちた。それは光ではなく、裂け目だった。
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王宮・星晶院尖塔──第九術式魔導陣階
空気が張り詰めていた。
そこは王都で最も禁忌に満ちた場所、星晶院の尖塔最上部──
その中心に刻まれた九重の術式が、七十二の光脈を巡らせ、魔力を吸い上げていく。
「……高度領域、収束安定。外周に干渉なし。上澄、許容内……」
「第二相、転移対象次元座標、確定──カプラ式境界展開、開始!」
刻印魔術師たちが怒号のように詠唱を飛ばす。
足元の魔方陣が青白く輝き、空間の密度が変わる。
その中心に立つのは、ただ一人。
エリセリア=フェルグランド。
星晶院副長であり、王国でも指折りの魔導士。
その身に七系統を継ぎ、“召喚”の禁域に踏み込める唯一の若き才媛。
「……大丈夫。想定どおり。問題ない」
指先を震えぬように、心だけを張り詰める。
傍らに母の形見のペンダントが揺れていた。
「いきます──召喚式、最終段階へ」
その瞬間、空間が“鳴った”。
光があふれた。
言葉ではない。眩しさでもない。
“意味”を持ったまま、世界そのものが折れ曲がる。
魔方陣の中心が、灼熱の白に変わった。
風が逆巻き、結界がうなる。術者たちが一人、また一人と倒れる中、エリセリアだけが立っていた。
──そして。
そこに“少年”がいた。
何か綺麗な布で出来た、まっ黒い上着と黒いズボン。乱れた黒髪。
痩せた輪郭で、目には困惑の色を浮かべている。
「……っ……な、に……?」
その少年は、膝をついたまま、深く息を吐いた。
「ここ……どこだ……母さん……」
耳に届いた言語が違うはずなのに、彼の声は奇妙なほど澄んで、はっきりと理解できた。
「異界転移、成功……個体座標、完全補足……!」
側近の声が上がる。
「異世界人類体──正確には、“地球”からの召喚対象! 本物です!」
誰かが叫ぶ。誰かが崩れる。
誰もが喜び、そして恐れた。
エリセリアは、ただ静かに彼を見つめていた。
そして、ゆっくりと微笑んだ。
「──ようこそ。あなたが……勇者様ですね」
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