3
ティスタは短剣の鞘を抜き、浮気をしたウェルドの心臓めがけてそれを突き刺そうとした。
先ほどまで彼を傷付けたくないなんて健気なことを思っていたくせに、今は心の底から、『天誅』と叫ぶ自分は都合が良いと思うが、悪いとは思っていない。
─── だがしかし、推定浮気をした婚約者は残念なことに、そこそこ剣の使い手だった。
「ティスタ、危ない」
腹が立つほど冷静にそう言ったウェルドはひらりと刃を避ける。次いで、ティスタの手首を掴んだ。
「放して、浮気者!!」
「放さないし、俺は浮気もしていない」
「嘘つき!!」
人生初めてキレるという経験を現在進行形でしているティスタは、我を忘れて渾身の力で暴れる。
けれどもウェルドは、動じることなくティスタから短剣を奪いそっと抱き寄せた。
「まぁ、落ち着け。ちゃんとその件について説明するから。で、最後まで話を聞いた後、俺が浮気をしたと思ったら刺していいから。一先ず聞け。─── 聞いてくれ、頼む」
耳元で優しく囁かれて、ついでにふっと息を吹きかけられてしまったティスタは、誠に遺憾ではあるがウェルドに猶予を与えることしかできなかった。
「……聞くだけだから」
「ああ、聞くだけで良い」
ウェルドは命を差し出すことに何の躊躇もないのだから、彼が浮気をしていないのは明白だった。
しかし冷静さを欠いているティスタはそれに気付けない。
そして、この後大変後悔することになる。
***
「─── アレは今を去ること10日前のことだった。俺とイリーグと、あと同期の数名で街の酒場に行った。団長の娘さんの結婚が決まった祝い......と言えば聞こえはいいが、要は団長の愚痴を聞くために連行されたんだ」
ティスタから許可を得て、同じベンチに並んで座ることを許されたウェルドは、コホンと咳ばらいをして語り出した。
「早くに奥方を無くした団長は男手一つで娘さんを育ててきたのもあって、そりゃあ面倒臭い酒の席だった。でも相手は団長だし、団長が娘さんを溺愛しているのも知っていたし、団長のおごりだったしってことで皆、団長のことを一生懸命慰めてたんだ。……そこで、ま、事件は起こった」
一気に語ったウェルドは、ここで言葉を止めた。そして眉間を揉んだ。
その仕草は、自ら浮気の説明をしなければならないことに苦悩しているように見えてしまう。というか、ティスタにはそう見えている。そうしか見えない。
「事件って、そんなに破廉恥なことをしたの?」
「まぁ、聞け」
「……うん」
思わず口を挟んだティスタに、ウェルドは低く”待て”を命じる。
そしてティスタが素直に唇を一文字にしたのを期に、ウェルドは続きを語り出した。




