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魔王転生、今世は世界を血に染める  作者: 涙目
第四章 人脈作り

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第五話 密室は密談に最適な場所

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 午後の授業は、午前中の騒動が嘘だったかのように穏やかに進んだ。


 教師の説明を聞き、教科書に目を通し、必要なことをノートに書き留める。


 時折、生徒たちが質問することはあったものの、特に変わった出来事は起こらなかった。


 セレスもまた、他の生徒たちと同じように授業を受けていた。


 午前中には担任教師から難問を出され、昼食時には上級生たちとのちょっとした騒動があった。


 しかし、それも含めて学園生活はなかなか面白い。


 少なくとも、退屈することはなさそうだった。


 やがて終業を告げる鐘が鳴り、生徒たちは帰り支度を始める。


「セレス、また明日ね!」


 ステラが鞄を手に取りながら声をかけた。


「ええ、また明日」


「セレス様、今日はありがとうございました!」


 ミナも嬉しそうに頭を下げる。


「こちらこそ、楽しかったわ」


「……あの、セレス様」


 サラが遠慮がちに声をかけてきた。


「何かしら?」


「お、お菓子のお話……覚えていらっしゃいますか?」


 セレスは一瞬きょとんとした後、楽しそうに笑った。


「ふふ、もちろんよ。約束したでしょう?」


「よ、よかったです!」


「サラ、あんた本当に食べ物のことになると積極的ね」


「ち、違うわよ! セレス様とのお約束だから!」


「あら、そうなの?」


 ステラがにやりと笑う。


「そ、それもあるけど……!」


 真っ赤になって慌てるサラを見て、セレスは思わず笑みを深めた。


「それでは、近いうちに皆でお菓子を食べに行きましょうね」


「はい!」


 四人は笑顔で別れ、それぞれ帰路についた。


◇


 学園の正門を出ると、見慣れた馬車が停まっていた。


 その傍らには、いつものようにフィリスが控えている。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


「ただいま」


 フィリスが扉を開き、セレスは馬車へ乗り込んだ。


 向かいの席に執事が腰掛けると、馬車は静かに走り始める。


 窓の外には、夕暮れの王都が広がっていた。


 行き交う馬車。


 店先で客を呼び込む商人。


 仕事を終え、家路を急ぐ人々。


 セレスはしばらくその光景を眺めていたが、やがて満足そうに微笑んだ。


「収穫があったわ」


「それは何よりでございます」


 フィリスは穏やかに応じる。


「バレシア公爵家のご令嬢と接触したわ。挨拶程度……も行っていませんが」


「それはそれは、お嬢様にしてはのんびりしておりますね」


「うるさいわね。急いては事を仕損じるよ」


「流石は博識でおいでです」


「ああ言えばこう言う」


 セレスは呆れたようにため息をついた。


 フィリスは相変わらず飄々とした表情を浮かべている。


「まったく、少しは主人を立てるということを覚えなさいよ」


「もちろん、常日頃から心がけております」


「どの口が言うのかしら」


「こちらの口でございます」


 フィリスが自分の口元を指し示す。


 セレスは一瞬言葉を失い、それから吹き出した。


「あははは! 本当に貴方って!」


「お気に召していただけたようで何よりでございます」


「もう、調子が狂うわね」


 笑いながら、セレスは座席に背を預けた。


 フィリスはそんな主人の様子を眺め、静かに微笑む。


 ひとしきり笑ったところで、セレスは話を戻した。


「それで、バレシア公爵家についてだけれど」


「はい」


「今日、食堂で上級生の男子たちに声をかけられたのよ」


「ほう」


「ただの挨拶だったのだけれど、そこへ公爵令嬢が現れてね。通路を塞いでいると注意されたわ」


「それは災難でございましたね」


「ふふ、そうでもないわ」


 セレスは小さく首を傾げた。


「言っていることは正しかったもの。実際、通路を塞いでいたのは事実だし」


「ですが、お嬢様に対して好意的ではなかったのでしょう?」


「あら、よくわかったわね」


「お嬢様が収穫と仰るのであれば、そういうことでございましょう」


「ふふ、さすがね」


 セレスは満足そうに頷いた。


 バレシア公爵家。


 国内に残された三分の一の流通網を掌握する、王国でも有数の有力貴族である。


 セレスがこの二年間で手に入れた流通網は、国内全体の三分の二。


 残る三分の一は、バレシア公爵家の影響下にあった。


 つまり、国内の流通網を完全に掌握するためには、いずれ公爵家と向き合わなければならない。


 もちろん、セレスもフィリスも、そのことは以前から把握していた。


「私のことを、あまり好ましく思っていないようだったわ」


「なるほど」


「でも、それだけよ。今のところはね」


 セレスは窓の外へ視線を戻した。


 たった一度の接触で、相手のすべてを理解できるわけではない。


 なぜ不快感を示したのか。


 何を考えているのか。


 どのような人間関係を築いているのか。


 それらを知るには、まだ時間が必要だった。


「無理に近づく必要はないわ。向こうが私を意識しているなら、いずれまた機会もあるでしょう」


「なるほど。まずはご令嬢との関係を築くおつもりで」


「ええ。いきなり公爵家に手を出すより、ずっと面白そうでしょう?」


「お嬢様にとっては、でしょうね」


「あら、貴方だって楽しんでいるくせに」


「否定はいたしません」


「ふふ、素直でよろしい」


 セレスは満足そうに微笑んだ。


「それに、あの方がどんな人物なのか、まだ何も知らないもの。まずは仲良くならなくちゃね」


「随分と気の長いお話でございますね」


「急いては事を仕損じる、よ。……あら、これ、さっきも言ったわね」


「ええ。大変ありがたいお言葉でしたので、よく覚えております」


「絶対に馬鹿にしてるでしょう」


「滅相もございません」


 まったく悪びれない執事に、セレスは呆れたように笑った。


 フィリスは懐から小さな手帳を取り出した。


 そこには、商会の契約状況や各地の取引先について、簡潔な記録がまとめられている。


 セレスはその手帳へ視線を向けた。


 バレシア公爵家が築き上げてきた流通網は、単なる商会同士の契約だけで成り立っているわけではない。


 長年にわたって築かれた取引関係と、貴族としての影響力。


 それらが結びついている以上、正面から奪い取ろうとすれば、相応の抵抗を受けることになるだろう。


 だからこそ、まずは公爵令嬢との関係を築く。


 そこから公爵家へ入り込み、少しずつ影響力を広げていく。


 それが、セレスの考えている最初の一手だった。


 もっとも、その先の具体的な方法については、まだ決めていない。


 相手の出方を見ながら、最も効果的な方法を選べばいい。


 フィリスが手帳を閉じる。


「それでは次は」


「ええ、残り1/3の経済圏取りに行くとしましょう」


 セレスは楽しそうに微笑んだ。


「今のうちに、できることは済ませておきたいものね」


「かしこまりました。では、必要な情報を改めて整理いたします」


「お願いね」


 フィリスは恭しく頭を下げた。


 馬車は王都の大通りを抜け、貴族街へと入っていく。


 道幅は広くなり、通り沿いには立派な屋敷が並び始めた。


 その一つ一つに、家門の歴史と利害が存在している。


 誰と手を組み、誰と対立するのか。


 どの商会を利用し、どの貴族に利益を与えるのか。


 そうした積み重ねが、やがて国家全体を動かす力となる。


 セレスは窓の外を眺めながら、先ほど出会った公爵令嬢の姿を思い浮かべた。


 そして、静かに笑う。


 やがて馬車がハワード伯爵邸へと続く道に差しかかった頃、セレスはふと思い出したように口を開いた。


「将を射んと欲すればまず馬を射よね」


 フィリスが顔を上げる。


「……なるほど。そういうことでございますか」


「ふふ、わかった?」


「ええ。では、そちらも含めて準備を進めましょう」


「お願いね」


 セレスは満足そうに微笑んだ。


 やがて馬車は伯爵邸の門をくぐり、玄関前で静かに停まった。


 フィリスが先に降り、扉を開く。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


「ただいま」


 差し出された手を取り、セレスは馬車を降りた。


 今日もまた、何事もなかったかのように一日が終わる。


 学園で友人たちと笑い合い、授業を受け、昼食を楽しむ。


 そんな日常の裏側で、セレスの計画は少しずつ進んでいた。


 次に手を伸ばすのは、バレシア公爵家が掌握する国内最後の三分の一。


 そして、そのための足がかりとなる公爵令嬢。


 セレスは屋敷へと歩きながら、小さく笑った。


「ふふ、楽しみね」


お読み頂き、ありがとうございます。

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