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魔王転生、今世は世界を血に染める  作者: 涙目
第四章 人脈作り

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第四話 人心掌握は細やかな気遣いから

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 午前の授業が終わり、学園の食堂は大勢の生徒たちで賑わっていた。


 広々とした室内には長いテーブルがいくつも並び、料理の香りと楽しげな話し声が満ちている。


 セレスはミナ、サラ、ステラの三人とともに、窓際のテーブルを囲んでいた。


「それにしても、今日のセレス様は本当に素晴らしかったですわ!」


 昼食が始まって早々、ミナが興奮気味に声を上げた。


「あんな難しい問題を、あっという間に解いてしまわれるなんて!」


「ふふ、ありがとうございます。でも、あれは普段から扱っている計算ですから」


「それが凄いって言ってるのよ」


 ステラが呆れたように笑う。


「私なんて、途中から数字を追うだけで精一杯だったわ」


「私もですわ……」


 サラが小さく頷いた。


「でも、セレス様が順番に書いてくださったので、少しだけ理解できました」


「あら、それならよかったわ」


「は、はい!」


 セレスが微笑みかけると、サラは嬉しそうに頬を染めた。


 その様子を見たステラが、やれやれと肩をすくめる。


「サラってば、すっかりセレスに夢中ね」


「ち、違うわよ!」


「何が違うの?」


「そ、それは……!」


「ふふふ、仲がよろしいのね」


 セレスが楽しそうに笑うと、ミナもつられて笑みを浮かべた。


 四人の間には、すでに気兼ねのない空気が生まれ始めていた。


 話題は授業から学園生活へと移り、好きな料理や休日の過ごし方など、他愛ないものへと変わっていく。


「そういえば、セレス様は甘いものがお好きですか?」


 ミナが尋ねた。


「ええ、好きよ。特に焼き菓子は紅茶によく合うもの」


「でしたら、今度おすすめのお店をご紹介したいですわ!」


「あら、楽しみね」


「私も行きたいです!」


 サラが珍しく勢いよく手を上げた。


「もちろん、皆で行きましょう?」


「ええ、いいわね」


 ステラも賛成し、四人は楽しそうに予定を話し合った。


 セレスは食後の紅茶を口に運びながら、満足げに目を細める。


 こうした時間は嫌いではない。


 むしろ、なかなかに心地よいものだった。


 だが、その穏やかな昼食は、思いがけない来客によって中断されることになった。


◇


「失礼、少しいいかな?」


 声をかけられ、セレスたちは顔を上げた。


 そこには、数人の男子生徒が立っていた。


 制服の意匠から、上級生であることがわかる。


 その中の一人が、セレスへ向けて微笑んだ。


「君が噂のセレス・ハワードかい?」


 セレスは椅子に座ったまま、柔らかな笑みを浮かべた。


「はい、セレス・ハワードです。以後お見知りおきを」


 丁寧な言葉遣いと、愛らしい微笑み。


 それを真正面から向けられた男子生徒たちは、一瞬言葉を失った。


「…………」


「……お、おい」


「あ、ああ」


 最初に声をかけた男子生徒が、慌てて姿勢を正す。


「ご、ご丁寧にありがとう」


「それで、何か御用でしょうか?」


「い、いや、ただ挨拶がしたかったんだ」


「そうですか。それで、あなた方のお名前は?」


 セレスが小首を傾げる。


 男子生徒たちは互いに顔を見合わせた。


 まさか、名前を尋ねてもらえるとは思っていなかったらしい。


「ぼ、僕はエリオット。三年生だ」


「私はロイド。同じく三年生です」


「お、俺はマルク。よろしく」


 一人ずつ名乗る男子生徒たちに、セレスは丁寧に頷いた。


「エリオット様、ロイド様、マルク様ですね。よろしくお願いいたしますわ」


「こ、こちらこそ!」


「何か困ったことがあれば、遠慮なく声をかけてくれ」


「ありがとうございます。そのときは、ぜひ頼らせていただきますね」


 セレスが微笑むと、三人の表情がさらに緩んだ。


 その様子を、ステラは半ば呆れたように眺めていた。


「……わかりやすいわね」


 小さな呟きは、幸い男子生徒たちには届かなかった。


 ミナは興味深そうにやり取りを見守り、サラは少し落ち着かない様子でセレスの隣に座っている。


 エリオットが、さらに何かを言おうと口を開いた。


「それで、もしよかったら今度――」


「ちょっと」


 鋭い声が、その言葉を遮った。


◇


 声のした方へ視線を向けると、数人の女生徒がこちらへ歩いてきていた。


 彼女たちも上級生らしい。


 先頭に立つ少女は、整った制服を身につけ、背筋を伸ばしている。


 その姿を見たセレスは、僅かに目を細めた。


(あら、このお方は)


 見覚えがあった。


 正確には、事前に目を通した資料の中で、である。


 学園へ入学するにあたり、セレスはフィリスに有力な生徒たちの情報を調べさせていた。


 貴族の子息令嬢が集まる場所なのだから、誰がどの家に属し、どのような立場にあるのかを知っておいて損はない。


 そして、目の前の女生徒も、その資料に載っていた一人だった。


(ふふ、思いがけない出会いね)


 内心ではほくそ笑みながらも、セレスはそんな感情を一切表に出さなかった。


「はい」


 穏やかに返事をすると、女生徒は眉を寄せた。


「貴方達、こんなところで集まっていたら、他の皆様のご迷惑になるでしょう? 場所をわきまえなさい」


 その指摘自体は、間違っていなかった。


 男子生徒たちはセレスの席の周囲に立ち、通路の一部を塞いでいた。


 食堂には多くの生徒がおり、料理を運ぶ者や席を探す者もいる。


 確かに、他の生徒たちの迷惑になりかねない状況だった。


 ただし、女生徒の視線は、男子生徒たちではなくセレスへ向けられていた。


 その表情には、明らかな不快感が浮かんでいる。


「いや、僕たちはただ挨拶を……」


 エリオットが弁明しようとする。


 しかし、女生徒はそれを遮った。


「挨拶なら、他の場所でもできるでしょう?」


「それは、そうだけど……」


 男子生徒たちは気まずそうに口を閉じた。


 ステラは、そのやり取りを見て眉をひそめる。


 通路を塞いでいたのは男子生徒たちだ。


 それなのに、なぜかセレスが責められているように見える。


「ちょっ……っ!」


 思わず声を上げかけたステラを、セレスがそっと制した。


 そして、静かに立ち上がる。


「申し訳ございません。私はすぐにこの場を去りますので、御容赦頂ければと思います」


 深々と頭を下げるセレス。


 その所作は、あまりにも丁寧だった。


 女生徒たちは一瞬、言葉を失う。


「……え?」


 セレスは顔を上げ、柔らかな微笑みを浮かべた。


「ご指摘いただき、ありがとうございます。確かに、皆様のご迷惑になってしまいますものね」


「そ、それは……」


「以後、気をつけますわ」


 女生徒たちは顔を見合わせた。


 注意された相手が反発するなら、さらに言葉を重ねることもできただろう。


 しかし、セレスは素直に非を認め、丁寧に謝罪している。


 しかも、その態度には嫌味らしいものが一切ない。


 これ以上責めれば、今度は自分たちが理不尽に見えてしまう。


「……わかればいいのよ」


 先頭の女生徒は、ようやくそれだけを口にした。


 セレスはもう一度、丁寧に頭を下げる。


「ありがとうございます」


 そして、友人たちへ振り返った。


「それでは、皆様。参りましょうか」


「わ、私も」


 ミナが慌てて立ち上がる。


「行くわよ、サラ」


 ステラも席を立ち、サラの腕を取った。


「え、まだデザートがー……」


 サラは名残惜しそうに、皿の上に残された焼き菓子を見つめる。


「また食べればいいでしょ」


「でも、あと一口だったのに……」


「はいはい、行くわよ」


「うぅ……」


 そんな二人のやり取りに、セレスは小さく笑った。


「ふふ、今度はゆっくりいただきましょうね」


「……はい」


 サラは残念そうに頷いた。


 セレスは男子生徒たちへ向き直る。


「皆様、本日はお声がけいただき、ありがとうございました。またお会いできることを楽しみにしておりますわ」


「あ、ああ!」


「こちらこそ、すまなかったね」


「いえ、お気になさらず」


 最後まで微笑みを崩さず、セレスは友人たちとともに歩き出した。


 四人は連れ立って食堂を後にする。


 その背中を、男子生徒たちは申し訳なさそうに見送っていた。


 一方、女生徒たちは何とも言えない表情で立ち尽くしている。


 食堂に残された生徒たちの間では、早くも小さな囁きが交わされ始めていた。


 しかし、セレスは振り返らなかった。


 廊下へ出ると、ステラが我慢できないとばかりに口を開く。


「ねえ、セレス。さっきの、ちょっとおかしくない?」


「あら、何がかしら?」


「だって、貴女は何も悪くないじゃない。勝手に男子たちが集まってきただけでしょ?」


「ふふ、でも、結果として通路を塞いでしまったのは事実でしょう?」


「それはそうだけど!」


「なら、謝っておけばいいのよ。別に損をするわけでもないもの」


「……貴女って、本当に変わってるわね」


 ステラは呆れたように息を吐いた。


 ミナも不満そうに頷く。


「ですが、あの方たちの態度は少々失礼だったと思いますわ」


「そうね。でも、私たちも食事は終わっていたでしょう?」


「……サラ以外はね」


 ステラが付け加える。


「うぅ、私のデザート……」


 サラはまだ落ち込んでいた。


 その姿に、セレスは思わず吹き出す。


「あははは! もう、サラったら!」


「だ、だって……!」


「ふふ、ごめんなさい。そうね、今度私が美味しいお菓子をご馳走するわ」


「ほ、本当ですか!?」


「ええ、もちろんよ」


 途端に明るくなったサラの表情を見て、ステラが額に手を当てる。


「……単純すぎない?」


「いいじゃない。可愛いもの」


 セレスが笑うと、サラはまた頬を赤くした。


 四人の笑い声が、廊下に響く。


 セレスはその輪の中で、楽しそうに微笑んでいた。


 ただ、その胸中では、先ほどの女生徒の姿を思い返していた。


(ふふ、思ったより早くお会いできたわね)


 学園には、様々な家の子息令嬢が集まっている。


 そして、その関係は決して単純なものではない。


 誰が誰を慕い、誰が誰を嫌い、どの家がどの家と結びついているのか。


 その一つ一つが、いずれ大きな意味を持つことになる。


(さて、どうなるかしら)


 セレスは隣を歩くサラへ視線を向けた。


 少女は、次に食べるお菓子の話をミナと楽しそうにしている。


 ステラはそんな二人に呆れながらも、会話に加わっていた。


 その光景を見て、セレスは柔らかく微笑む。


 今はまだ、楽しい学園生活の真っ最中。


 急ぐ必要はない。


 人の心は、焦って動かすものではないのだから。


 セレスは三人とともに、午後の教室へ向かって歩いていった。


お読み頂き、ありがとうございます。

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