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魔王転生、今世は世界を血に染める  作者: 涙目
第四章 人脈作り

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第一話 新しい生活を楽しみながら

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 春の柔らかな日差しが、王都の街並みを照らしていた。


 貴族学園の正門前には、色とりどりの馬車が次々と到着している。


 今日から新たな学園生活を始める子息令嬢たちは、期待と緊張を胸に、門をくぐっていった。


 その中に、一台の馬車が静かに停まった。


「お嬢様、到着いたしました」


「ありがとう、フィリス」


 執事が開いた扉から、一人の少女が姿を現す。


 艶やかな金髪に、整った愛らしい顔立ち。上品に仕立てられた制服を身にまとい、柔らかな微笑みを浮かべている。


 セレス・ハワード。


 十歳にしてハワード伯爵家の当主を務める少女である。


「それでは、行ってくるわね」


「はい。どうぞ、学園生活をお楽しみくださいませ」


「ふふ、もちろんよ」


 フィリスに手を振り、セレスは正門へと歩き出した。


 その姿に気づいた生徒たちが、ひそひそと囁き始める。


「あれがハワード家当主の……」


「お美しいわ」


「虐待されても、なお、自身の才覚で家を取り戻した才女ですって」


「お友達になれるかしら」


「噂では、商会も営んでいるらしいぜ」


「えっ、凄すぎない? ハワード様……」


「同性趣向だといいな」


「は? そういうのじゃないんだけど、何で男子ってすぐそういう方向にいくの?」


 最後のやり取りに、周囲から小さな笑い声が漏れた。


 セレスは聞こえてくる噂話に、思わず口元を緩める。


 どうやら、この二年間の成果は十分に広まっているらしい。


 八歳で屋敷を取り戻してから、セレスはフィリスとともに様々な準備を進めてきた。


 その一つが商会の設立である。


 もちろん、目的は単に金銭を稼ぐことではない。


 人を動かすには、まず人々の生活を支える仕組みを押さえる必要がある。


 そのための準備は、着実に進んでいた。


(ふふ、随分と好意的なのね)


 セレスは周囲に向けて、にこりと微笑んだ。


 それだけで、何人かの生徒が頬を赤らめる。


(可愛い子たち。学園生活も退屈せずに済みそうだわ)


 そんなことを考えながら、セレスは入学式の会場へ向かった。


◇


 入学式を終えた新入生たちは、それぞれ指定された教室へと移動していた。


 セレスが自分の席を確認していると、一人の少女が恐る恐る近づいてきた。


「あの、ハワード様」


「何かしら?」


 振り返ると、少女は緊張した様子で背筋を伸ばした。


「ハワード様はすでに伯爵家の当主ですのよね?」


「ええ、書類上は。ですが、この国では貴族と認められる条件が学園卒業ですので、微妙な立場ですわね」


 セレスは苦笑する。


 ハワード家の当主となったこと自体は、正式な手続きを経て認められている。


 しかし、当主であることと、国家から貴族として正式に認められることは別の話だった。


 この国では、貴族としての正式な承認を受けるために、学園の卒業が求められる。


 そのため、セレスは伯爵家を率いる立場にありながら、制度上はまだ一人前の貴族とは認められていない。


「それでも凄いですわ! 家紋を背負いながら、商会も営んでらっしゃるのでしょう? 素晴らしいですわ」


 少女は目を輝かせていた。


 その純粋な称賛に、セレスは嬉しそうに微笑む。


「ふふふ、ありがとう。私のことはセレスと呼んでくださいね」


「セレス様……私、ミナと言います」


「よろしくね、ミナ」


「はい!」


 ミナは満面の笑みを浮かべた。


 その反応が可愛らしくて、セレスも自然と笑みを深める。


 これから何年も通う学園なのだ。


 どうせなら、楽しい時間を過ごしたい。


 そんなことを考えていると、教室の扉が勢いよく開いた。


◇


「全員、席に着け」


 入ってきたのは、険しい表情をした男性教師だった。


 生徒たちが慌てて席に着く。


 教師は教壇に立つと、教室を見渡した。


「私はハロルド。このクラスの担任を務める」


 簡潔な自己紹介を終え、ハロルドは学園生活について説明を始めた。


「この学園では、身分による特別扱いは認められない。王族だろうが貴族だろうが、学ぶ立場であることに変わりはない」


 その言葉に、生徒たちは真剣な表情で耳を傾ける。


 しかし、ハロルドは途中で言葉を切った。


「その前に……セレス・ハワード」


「はい」


 名前を呼ばれたセレスは、静かに立ち上がった。


 ハロルドは彼女を睨みつける。


「この学園では生徒の身分は関係ない。当主の座に着いているからって、図に乗るなよ」


 教室が静まり返った。


 突然の言葉に、生徒たちは困惑した表情を浮かべる。


 セレスはまだ何もしていない。


 ただ、名前を呼ばれて立ち上がっただけだ。


 それなのに、なぜこのような言葉を向けられなければならないのか。


 しかし、セレスは表情を変えなかった。


「承知いたしました。皆様と一緒に精進して参りますわ」


 そう言って、丁寧に頭を下げる。


 その所作は、非の打ちどころのないものだった。


 ハロルドの眉間に皺が寄る。


「チッ! 座れ」


「はい。皆様もどうぞよろしくお願いいたしますわ」


 セレスは教室の生徒たちにも一礼し、静かに腰を下ろした。


 その姿を見ていた生徒たちの間に、小さな囁きが広がる。


「……今の、酷くありません?」


「セレス様、何も悪いことをしていないのに」


「それなのに、あんなに丁寧に……」


「やっぱり素敵な方ですわ」


 ハロルドは不機嫌そうに教壇を叩いた。


「静かにしろ! 説明を続けるぞ!」


 生徒たちは口を閉じたが、その視線はどこか冷ややかだった。


 一方のセレスは、何事もなかったかのように教師の説明を聞いている。


 ただ、その瞳には、ほんの僅かな愉悦が浮かんでいた。


(ふふ、随分とわかりやすい方ね)


 どうやら、学園生活は想像以上に面白くなりそうだった。


◇


 初日の説明が終わり、生徒たちが帰り支度を始めた頃。


「セレス様、大丈夫でした? ハロルド先生も言い方というものがあるでしょうに」


 一人の少女が心配そうに声をかけてきた。


「ありがとうございます、サラ様。私は大丈夫ですわ。その……お恥ずかしい話ではありますが、先生のあのような態度にも慣れておりますので」


「……あっ、ご家族の……」


「サラ」


 隣にいた少女が、静かに名前を呼んだ。


 サラははっとした表情になる。


「あ、も、申し訳ございません」


「いいのよ、サラ様がご心配してくださることが、何より嬉しいですわ」


 セレスが柔らかく微笑む。


「はぅ~、セレス様、素敵ですわ……」


 サラは頬を染め、うっとりとした声を漏らした。


「ふふ、ありがとうございます」


 すると、隣にいた少女が呆れたように肩をすくめる。


「私はステラよ。よろしくね、セレス様」


「ふふ、様はいりませんわよ、ステラ。話しにくいのでしょう? こちらこそよろしくね」


「あら、意外と話がわかるじゃない」


「ふふふ、私もこっちが素よ」


「へー、お高くとまったご令嬢かと思ってたわ」


「ちょっと、ステラ!」


 サラが慌てて友人を窘める。


 しかし、セレスは楽しそうに笑った。


「いいのよ。サラ様もサラと呼んでよろしいでしょうか? 私のこともセレスとお呼びください」


「……っ、せ、セレ……ス」


「ええ、サラ」


「…………っ、も、もう行こう、ステラ!」


「さ、サラ!? ちょっと!」


 真っ赤になったサラが、ステラの手を引いて教室から飛び出していく。


 取り残されたセレスは、しばらく二人の去った扉を眺めていた。


 そして、くすりと笑う。


「ふふ、可愛い子たちね」


 ミナも、サラも、ステラも。


 それぞれ違った個性を持つ、面白い少女たちだった。


 これから彼女たちと過ごす時間を思うと、自然と心が弾む。


 もちろん、学園に来た目的を忘れたわけではない。


 だが、目的のためだけに毎日を過ごす必要もないだろう。


 楽しいものは、楽しい。


 それでいい。


 セレスは鞄を手に取り、教室を後にした。


 廊下には、まだ多くの生徒たちの賑やかな声が響いている。


 その光景を眺めながら、セレスは小さく微笑んだ。


「ふふ、これからが楽しみだわ」


 こうして、セレス・ハワードの学園生活が始まった。


お読み頂き、ありがとうございます。

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