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魔王転生、今世は世界を血に染める  作者: 涙目
第三章 立案

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第四話 目的達成には計画をたてる必要がある

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 執事が机の上に紙と筆記具を用意すると、セレスは紅茶を片手に、その様子を眺めていた。


 窓から差し込む陽光が室内を照らし、庭からは小鳥のさえずりが聞こえてくる。


 実に穏やかな昼下がりだった。


 もっとも、これから二人が話し合おうとしている内容は、穏やかとは程遠いものだったが。


「さて、どこから始めましょうか」


「まずは、最終的な目的を明確にするべきかと存じます」


「あら、私の復讐よ?」


「承知しております。しかし、復讐を果たすために、どのような手段を用いるのか。それによって必要な準備も変わってまいります」


「ふふ、そうね」


 セレスはカップを置き、机の上に広げられた紙へと視線を向けた。


「私が欲しいのは、単なる破壊ではないわ。国を滅ぼしてしまったら、利用できるものまで失ってしまうでしょう?」


「では、王家を排除し、国家の機能そのものは維持なさるおつもりで?」


「ええ。人も、お金も、土地も、組織も。使えるものは全部使うわ」


「なるほど。国を落とすとは、そういう意味でございましたか」


「ふふ、力任せに王宮を壊すだけなら、わざわざ計画なんて立てないもの」


 執事は静かに頷き、紙にいくつかの項目を書き込んだ。


「それでは、実行時期はいかがなさいますか?」


「実行は学園卒業後、私が当主として国に認められた後ね」


「……随分と先のお話になりますね」


「急いで失敗するくらいなら、時間をかけて確実に進める方がいいでしょう?」


「仰るとおりでございます」


 執事は一度筆を止め、何やら考え込むように目を伏せた。


「どうしたの?」


「いえ……」


 執事は静かに顔を上げる。


「…………国を落とす反逆者を自ら貴族として召し上げることになる王家に、同情を禁じえません」


 セレスは一瞬目を丸くした。


 そして、楽しそうに笑い始める。


「ふふ、面白いじゃない」


「王家にとっては、少々笑えない冗談かと存じますが」


「あら、今から教えて差し上げるわけにもいかないでしょう?」


「それはもちろんでございます」


「なら、仕方ないわね」


 セレスは何でもないことのように肩をすくめた。


 執事もそれ以上は何も言わず、再び筆を走らせる。


 こうして、二人の国家転覆計画は具体的な形を取り始めた。


◇


「計画をおさらいしましょう。まずは」


「経済圏の掌握ですね」


「ええ、流通網を掌握して、経済的に私を裏切れないようにするわ」


 セレスは机に広げられた王国の地図を指さした。


 街道が各地を結び、その先には大小さまざまな都市や町が存在している。


「人間も魔族も、食べなければ生きていけないでしょう? 衣服も必要だし、家を建てるには資材もいるわ。どれだけ偉そうな貴族でも、それらが手に入らなければ困るもの」


「確かに、そのとおりでございます」


「だから、まずは物の流れを押さえるの。私と敵対すれば、自分たちの生活が苦しくなる。そういう関係を作ってしまえばいいわ」


「……恐ろしいお考えですね」


「あら、そうかしら?」


「はい。武力で従わせるよりも、はるかに厄介でございます」


「ふふ、褒め言葉として受け取っておくわ」


 セレスは満足そうに微笑んだ。


 前世では、人間と魔族の双方が手を取り合えるように尽力した。


 互いを理解し、信頼を築き、争う必要のない関係を作ろうとした。


 しかし、その結果は裏切りだった。


 だから、今度は違う。


 相手が自分を好きである必要などない。


 信頼してくれなくても構わない。


 ただ、裏切ることで失うものがあればいい。


 それだけで、人は簡単には動けなくなる。


「……まだ当家は商会すらございませんが」


 執事が現実的な問題を指摘した。


「そこはなんとかするわ。やりようはいくらでもあるもの」


「末恐ろしい限りです」


「あら、貴方も共犯者じゃない」


 セレスが楽しそうに笑う。


 すると、執事も口元を緩めた。


「……ふふふ、心躍ります」


「頼もしいわね」


 その返答に、セレスは満足そうに頷いた。


 まだ商会すら存在しない。


 流通網も、商人とのつながりも、これから作らなければならない。


 だが、だからこそ面白い。


 何もないところから、自分の望む仕組みを作り上げていく。


 セレスにとって、それは決して苦痛な作業ではなかった。


「それに、経済圏を掌握するだけでは足りないわね」


「と、申されますと?」


「人よ。どれだけお金があっても、それを動かす人間がいなければ意味がないもの」


「なるほど。人材の確保でございますね」


「ええ。もっとも、今すぐ大勢集める必要はないわ。まずは商会を作って、事業を軌道に乗せることが先ね」


「かしこまりました。では、学園入学までの二年間を、経済基盤の構築に充てるということでよろしいでしょうか」


「そうね。学園に入ってからは、別の仕事が増えるもの」


 セレスは地図から視線を上げた。


「学園入学までが勝負ね」


◇


「入学後は子息令嬢を取り込み、勢力の拡大、そして、卒業後には」


「若い世代を取り立てて、王家を転覆させる」


 セレスが執事の言葉を引き継いだ。


 執事は小さく頷き、紙に新たな項目を書き加える。


「学園に通う方々は、いずれ各家を継ぐ立場になる者も多いでしょう。確かに、今のうちから関係を築いておけば、将来的に大きな力となります」


「ええ。それに、若い世代なら、まだ考え方が固まりきっていないでしょう?」


「既存の権力者よりも、取り込みやすいということでございますか」


「それもあるけれど、何より、これからの国を動かすのは彼らだもの」


 セレスは紅茶を一口飲んだ。


「今の王家に忠誠を誓っている者を、無理に寝返らせる必要なんてないわ。次の世代が私の側に立ってくれれば、それで十分よ」


「……なるほど」


「もちろん、全員を味方にする必要もないわ。私の考えに賛同する者もいれば、利益を求める者もいるでしょう。理由なんて、それぞれで構わないの」


「お嬢様に従うことで、利益が得られる状況を作るわけですね」


「ええ。反対する理由がなくなれば、それが一番楽でしょう?」


 セレスは微笑んだ。


 人を動かす方法はいくらでもある。


 恐怖、利益、憧れ、信頼。


 そのどれが正しいというわけでもない。


 大切なのは、相手が何を求めているのかを知ることだ。


 そして、それを利用すること。


 かつての魔王は、人々の願いを叶えるために、その力を使っていた。


 今のセレスは、自分の目的を叶えるために、人々の願いを利用しようとしている。


「もっとも、学園に入ってから考えればいいことも多いわね。今から誰が味方になるかなんて、わからないもの」


「仰るとおりでございます」


「だから、今は経済基盤を整えることに集中しましょう。人脈を広げるにも、お金があった方が便利でしょう?」


「確かに、資金は多いに越したことはございません」


「ふふ、でしょう?」


 セレスは満足そうに頷いた。


 執事は紙に書き込んだ内容を確認し、静かに口を開く。


「それでは、現時点での計画は三段階でございますね。学園入学前に経済圏を掌握し、在学中に勢力を拡大。そして卒業後、正式に当主となられた段階で王家を転覆させる」


「ええ。それでいいわ」


「承知いたしました」


 執事は筆を置いた。


 しばらく、室内に沈黙が流れる。


 セレスが紅茶を飲んでいると、執事がぽつりと呟いた。


「…………血が流れますね」


 セレスはカップを止めた。


「嫌なの?」


「いえ」


 執事は静かに首を横に振った。


「見てみたいと思っている自分に驚いています」


「…………」


 セレスは執事を見つめた。


 そして、口元を緩める。


「ふっ、あははは! やっぱり貴方面白いわ」


「光栄でございます」


「普通は止めるところでしょうに」


「お止めしたところで、お嬢様のお考えが変わるとは思えませんので」


「あら、それだけ?」


「……いえ」


 執事はわずかに微笑んだ。


「お嬢様がどのような国をお作りになるのか、興味がございます」


 セレスは一瞬だけ目を細めた。


 そして、楽しそうに笑う。


「ふふ、それは私にもわからないわね」


「左様でございますか」


「だって、まだ始まってもいないもの。何が起こるかなんて、やってみなければわからないでしょう?」


「確かに、そのとおりでございます」


「でも、一つだけ約束できるわ」


「何でございましょうか」


「退屈はさせないわよ」


 執事は深々と頭を下げた。


「それは、実に楽しみでございます」


 セレスは満足そうに微笑んだ。


 机の上には、二人で書き上げた計画が置かれている。


 経済圏の掌握。


 学園での勢力拡大。


 そして、王家の転覆。


 どれも簡単なことではない。


 ましてや、現在のセレスは八歳の少女にすぎない。


 商会もなければ、独自の軍勢もない。


 政治的な権力も、まだ手にしていない。


 それでも、セレスには何の不安もなかった。


 時間はある。


 力もある。


 そして、ようやく自分の目的を理解してくれる協力者も得た。


 あとは、一つずつ進めていくだけだ。


 セレスは椅子から立ち上がり、窓際へと歩み寄った。


 窓の向こうには、穏やかな王国の風景が広がっている。


 人々は今日も、何も知らずに日々を過ごしているのだろう。


 その平穏がいつまで続くのか。


 それは、これからの自分次第だった。


 セレスはゆっくりと振り返る。


 そして、執事へ向けて微笑んだ。


「それでは始めましょうか、私の復讐のために」


 その瞳には、かつての魔王が抱いていた慈愛の色はなかった。


 ただ、静かに燃える復讐の炎だけが宿っていた。


「ふふふ、せいぜい覚悟しておいて欲しいわね。自分達の行いの結果に」


 執事は何も言わず、深く頭を下げた。


 穏やかな午後の屋敷で、二人だけの国家転覆計画が動き始めた。


 かつて世界の平和を願った魔王は、今度こそ自分のために世界を変えようとしている。


 その先に何が待ち受けているのか。


 まだ、誰も知らなかった。


お読み頂き、ありがとうございます。

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