5話 圧が…
レニタス先輩と目が合ってしまった。
「アンナマリーさん…?」
驚いたように、先輩の紅茶色の瞳が見開かれている。
目が合ってしまった…
どうしよう、非常にまずいぞ。
リヴェラ、やばい、助けてと必死で目で訴えているのに、リヴェラは、ニコリといつもの微笑みを浮かべるだけだった。
リヴェラの薄情者〜!
先輩は般若のような顔をスッと引っ込めて、物凄く爽やかな笑顔を向けてくれた。
わぁ〜見事な表情管理だなぁ…
とりあえず、部屋から離れよう。そうしよう。
「すいません、お邪魔ですよね。失礼します。」
私が部屋から離れようと背を向けたとき、背中の方から名残惜しそうな声が聞こえた。
「えぇ〜、もう行っちゃうの?」
その瞬間、目の前の扉が開いて、女性にスッと手を引かれた。一瞬何か分からなかったが、少しして気づいた。私、今部屋の中に居る…と。
女性がまるで子犬のような表情でこちらを見ている。
女性は、先程は少し俯きがちだったから顔がよく分からなかったが、よくよく見るとキリリとした紅色の瞳は長いまつ毛に縁取られていて、唇はぷるんとしている。
つまり、絶世の美女だ。
しかし、レニタス先輩はそんな美女に向けてまた般若のような顔をしていた。
「団長?あまりアンナマリーさんを困らせないでくださいね。それにまだ話は終わってませんよ。」
先輩からとにかく圧が、圧が凄い。
何やってるんですか?馬鹿なんですか?という言葉が圧から伝わってくる。
「えー、まぁ自己紹介位はさせてよ。」
女性は、凄く嫌そうな顔を浮かべている。
なんで、この状況でそんな事できるんだろうか…?先輩の圧が凄いこの状況で。
しばらく考えた後、一つ頭の中で納得出来る案を見つけた。なんかよく分からないけど、きっと経験からくる騎士団長パワー的やつがあるのだろう。と。
なんて思っていると、女性は1歩後ろに下がり、私の正面で、綺麗な騎士の礼をとった。とても、威厳に満ちた礼だ。
脳筋とはいえ、流石騎士である。
「お初にお目にかかります。聖女様。
第二騎士団団長を務めています。ルプス・ミッシュと申します。」
その名前を聞いて、ハッとした。
ミッシュって、先代第一騎士団長も同じ名前だ。
そういえば昔、私より7.8才上に娘がいると言ってたな。
ルプス・ミッシュの父は、王族や国の重鎮の護衛を主とする第一騎士団の先代騎士団長だ。
まだ彼が騎士団長であった4年前、アンナマリーが12歳の頃何度か護衛をしてもらったことがある。
彼はよく、「挨拶は礼儀正しく」そう言っていた。
懐かしいな、なんて思いながら、背筋を伸ばして、私も挨拶を返した。
「初めまして、ミッシュ様。
サンディレラ王国第4代目聖女、アンナマリー・ラヴァートと申します。」
「ミッシュ様だなんて、堅苦しいなあ。
ルプスって呼んでよ。」
物凄く残念そうに、眉を下げていた。
そんなに残念そうに言われると、そう呼ぶしかない。
「分かりました。ルプス。是非、私の事もアンナマリーと呼んでください」
そう言うと、ルプスの顔がパァァァっと明るくなった。
「じゃあ、アンナマリー、早速親睦を深めに―」
「行かせませんよ?まだ話終わってないですよね、団長?」
レニタス先輩が、ルプスの肩に手を置いて再び般若のような顔になっている。
レニタス先輩は、それなりに身長が高いので、私よりも身長の高いルプスをも軽々と見下ろしている。
見下ろしているのも相まって凄い怖い。それに加えて私は、小柄なので更に圧を感じる。
つまり、スーパーめっちゃミラクルスーパー物凄く怖い。
「スーパーミラクル」とか「めっちゃミラクル」だとか、子供並みの語彙力の無い言葉が私の頭の中でグルグルと回っていた。
「駄目?」
そんな先輩に怯える事なく甘い声で、なんなら若干上目遣いでルプスが先輩にお願いのポーズを取っている。
ルプスの顔の良さも相まって物凄く、可愛いというか、美しい。
だが、絶対今じゃない。
「駄目に決まってんだろ」
先輩の、これまでにない程低い声だった。というか、もうブチ切れてる。
「アンナマリーさん、うちの団長がすみません。どうぞ気にせず。」
ルプスから目線は外さなかった。きっとこうやって逃げられた事があるのだろう。
ルプスは、そろそろヤバいと思ったのだろう、先程からずっと、子犬のような顔でこちらを見ている。
とりあえず、知ったこっちゃない!という意味を込めて聖女スマイルをしておいた。
よし、部屋に戻ろう。ルプスがどうなっても私、知ーらない。
部屋を出たあと、「アンナマリー!」とか聞こえた気がするけど、自業自得だ。
そう思い、私は用意された自室に戻り、眠りについた。
✽✽✽
その晩、私は目を覚ました。
誰かが、部屋にいる。
すぐさま、ベッドから飛び起きて、部屋の扉から一番遠い窓を背にするように立った。
これで、いきなり背後を取られる事はないだろう。
確認するように、部屋を見渡すと男性が2人、刃物を持っているのが目に入った。
「みんな、殺す」
「みんな、死んじゃえ」
不気味にケタケタと笑いながら、うわ言を繰り返している。
一体誰なの。それに、この人達のこの感じ、誰かに操られてる感じだ。
誰がこんな事を…
その瞬間、急に1人がこちらに走ってきた。走り方は、なんだがフラフラとしていて妙だ。けれど相変わらず、不気味にケタケタと笑いながら「死んじゃえ」と繰り返している。
目に、月の光を反射して光る物が見えた。
一瞬何か分からなかったが、すぐに分かった。男性は、笑いながら刃物を掲げているのだ。
「っ!?」
「殺す、死んじゃえ」
それは、明確な殺意が込められた言葉だ。
ヒュッという鋭い音ともに刃物が私を目がけて振り下ろされた。
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