10話 共闘しませんか
目を覚ますとそこは、遠征で来た館の自分の部屋だった。ゆっくりと体を起こして窓の方を見ると、太陽の光が眩しくて温かい。けれど、そんな太陽の光とは裏腹に、アンナマリーの心は怒りと疑問で一杯だった。
あの夜、師匠を殺したと言われてから、冷静では居られなかった。思い出すだけで腸が煮えくり返る。
(あの人は一体何者なの…?)
扉をノックする音が聞こえて、入ってきたのはリヴェラだった。リヴェラは、私を見ると一瞬目を見開いて固まってしまっていた。
「リヴェラ?」
「すみません。ちょっと驚いてしまって。2日間もお目覚めになられないものですから。
でも、お目覚めになられたのですね。良かったです」
(私、2日間も寝てたの?)
「体調は大丈夫ですか?」
「大丈夫。ありがとう」
その言葉を聞くとリヴェラは、安堵の表情を浮かべた。余程心配をかけてしまったのだろう。
リヴェラは、持っていた水差しをベッド横のサイドテーブルに置きながら口を開いた。
「そういえば、アテル様が目覚めて少ししたら話したい事があるから来るようにとおっしゃっておられました」
(多分襲撃された夜の事だ。アテルは何か知ってる)
アンナマリーの心は復讐に塗り固められている。それは消える事のないものだ。
「分かった。明日行くって伝えてくれる?」
「かしこまりました」
リヴェラは一礼すると部屋を出ていった。
✽✽✽
翌日、私はアテルの元を訪ねていた。
館の中のアテルの部屋に備え付けの応接間は、あまり人が来ることが無いからか、机と椅子が置いてあるだけのシンプルな作りだった。
アテルが人払いをしてくれたので、部屋には私とアテルだけだ。
正面に座るアテルは、いつにも無く重く真剣表情をしている。
「アンナマリー、呼んだのは襲撃された夜の権なんだが…。体調は大丈夫なのかよ?」
「大丈夫です。心配をかけてすみません。
それに、あの日の事については、私も聞きたい事が多すぎる。あの夜現れたあの人は一体誰なんですか?」
師匠を殺したのだ、と平然と言い放ったあの人。本当に師匠を殺したというのなら、許すことなんて出来ない。
誰だ、師匠を殺したのは。
「あいつの名前は、オニキス。古の魔王の配下、四天王と呼ばれるやつらの一人だ。そして、5年前の事件にも関わっている」
古の魔王。かつて初代聖女リリアマリーが討伐した災厄だ。その力は強大で、数多の国々を滅亡まで追い込み、多くの人を殺したと言い伝えられている存在。 魔王の配下である四天王については、4人のうち3人が二代目聖女アイリスマリーによって討伐されている。オニキスはきっと残りの一人だ。
そんな魔王の配下が、5年前の事件にも関わっていて、師匠を殺した。
「5年前の事件、ですか。」
私は、5年前に起きた事件について思い出した。
5年前、隣国との国境沿いにあったゼクルスという街が襲撃にあった。
襲撃したのは、野盗でも隣国でも無く、古の魔王を信仰する教団だったそうだ。そして、ゼクルスでは大人は全員殺されて、残った子供は教団の魔法の実験体にされた。
そこまでの被害が出ていたのにも関わらず、ぜクルス住人が誰一人として襲撃から逃れられなかった事や、教団の人物が変装魔法で役人や領主に化け、出入りの商人達を洗脳していた事で、ぜクルスの危機に気付くのが遅くなり、多くの被害を生み出した事件だった。
師匠は、その事件の解決に行って、帰ってこなかった。帰ってきた遠征部隊の中に、師匠の姿はなくて、死んだと言われても、しばらく信じられなかった。
なのに、そんな時に私に聖女としての力が発現してしまった。聖女は世界で2人といない。もちろん神聖術を使える力が発現するのも。あの時、その事が酷く苦しかった。
「俺はそん時あいつらの実験体にされてた。
それに、お前の師匠が殺されるところも、見てた」
「っ!」
「アンナ、必ず帰ってくるからね。いい子にしてるのよ」
出発前の師匠の言葉が、今でも頭の中に鮮明に残ってる。最後の師匠の言葉。
「師匠の、最後は…」
「神聖術がオニキスに封じられて、防御も攻撃もままならなかった。為すすべが無いまま、殺された」
俯いているアテルのアメジストの目は前髪に隠されて見えない。それで良いと思った。私の視界は涙でぼやけてる。泣くつもりなんて、無かったのに。聖女が泣いているところなんて見せられない。泣けない。
私は、ハンカチを取り出して涙を拭った。
「アテル、提案があります」
「なんだ」
「共闘しませんか。一緒にオニキスを討ちましょう」
私は、師匠を殺したオニキスを許す事なんて出来ない。アテルも、自分を実験体にしたオニキスを許せないだろう。私達は同じだ。許せないという復讐の思いに駆られている。
だから
―2人でオニキスを殺す。
「!」
アテルが、息を呑んだのが分かった。それもそのはずだ。
アテルは顔を上げて苦しそうなけれども、嬉しそうな言うのだ
「もちろんだ」と。
それを聞いた時、私の心の中に安堵に似た、けれど安堵とも呼べないような感情が現れたのを感じた。
「オニキスを討つにあたって、もしかしたら使える物があるかもしれません。
二代目聖女、アイリスマリーは魔王の四天王を3人討っています。そして、伝承によればアイリスマリーは、自身が発見した未知の神聖術で、四天王を討伐したそうです」
アイリスマリーは、神聖術と魔法の開発、研究に長けていたとされる。つまり、天才だったのだ。
だけど、アイリスマリーの開発した神聖術には、秘匿されているものが多い。そして、四天王を討った神聖術も例外ではない。
「なるほどなぁ。アイリスマリーが使ったその神聖術で倒すっていう事か」
「はい。けれど、困ったことにその神聖術は現代の聖女には継承されていないのです」
「継承されてないっていうならどうするんだ?」
「探します。聖女が作った神聖術を記した物まで消失するなんてあり得ない。そんな事国が許さない」
聖女は国を守るものだ。そして、神聖術は聖女しか使えない。当然、新しい神聖術を発見するなんて聖女にしかできない。国を守るための貴重な技術である神聖術を、国がその存在事消してしまうなんてあり得ない。
「目星はついてんのか?」
「残念ながら伝承の中の話なので。ただ、王族の方であれば知っている方も居るのでは…と」
国が秘匿しているのであれば、その存在を知っているのは王族位のものだろう。
「なるほどなぁ。俺のほうで探り入れる。そっちも何か分かったら知らせろ」
「分かりました」
私は、王宮に戻ったら聖女アイリスマリーについて調べる事に決めた。
それと、会いたくないあの人にも会おうと決意した。本当に会いたくないが、しょうが無い。私は若干その事に気が重くなった。
「それと、騎士団の団長と副団長が心配してたぜ。特に、団長の方が」
「ルプスとレニタス先輩が?」
あの日ルプスが駆けつけてくれたから生きているようなものだ。後でお礼に行かなければ。
「体調大丈夫なんだったら、顔見せてやってくれ。
このままだと俺が詰められちまう」
アテルは若干疲れ気味な顔で肩をすくめている。
(ルプスが何かしたんだろうな…)
「分かりました。後で顔を見せに行こうと思います」
「そうしてやってくれ。あと、諸々の片付けがそろそろ済みそうなんだ。明後日の明け方に出発する」
「分かりました」
そして私は部屋を出て、ルプスとレニタス先輩のところに向かったのだった。
読んでくれてありがとうございました!
まだ少しだけ第1章続きます。良ければブックマーク登録や感想などよろしくお願いします。




