11話 半ば突進
私がお礼を言おうと、ルプスのところに向かうと丁度訓練中だった。騎士達の迫力のある掛け声と木剣の打ち合う音が館に併設された訓練場に響いている。今は丁度実戦を模した訓練らしい。ルプスは、その中で忙しそうに動いていた。この様子だと、話しかけるのは無理だろう。ルプスには後で話しかけるとしよう。
それにしても、騎士団とは仕事を共にする頻度が高い事もあって、色々な騎士団が訓練しているところを見た事がある。最近は仕事が忙しかったので見るのは随分久しぶりだ。私は、興味本位で離れたところから少し見学する事にした。
こうして見てみると第二騎士団は迫力が他の団と比べてずば抜けている。アンナマリーは、全部で第一から第五まである騎士団を知っているが、この迫力は第二騎士団の職務故なのだろうと思う。
「全体、踏み込みが甘い!」
「はい!」
辺りをつんざく様なルプスの声が響いた。ルプスの迫力も然ることながら、それに答える団員達もまた迫力がある。迫力の凄さに気圧されつつも、その整然とした感じに惹かれてしまう。
(ルプスも凄いけど、他の人達も凄いな)
訓練に見入っていると、後ろから声をかけられた。
「アンナマリー、さん?」
振り向くと、レニタス先輩が立っていた。訓練に向かう途中だったのだろう、その手には訓練用の木剣が握られている。
「良かった。もう起き上がれるようになったんですね」
安堵したかのような声音で、そう言う先輩は、相変わらずの人の良い笑顔だ。いかにも優しそうな感じで、事実とても優しく、親しみやすい。この人の親しみやすさはこの笑顔からなのだろうと思う。そんな優しい人に、心配をかけてしまったという事実に胸が痛むと共に、感謝が尽きない。
話によると、かけつけたルプスとレニタス先輩、騎士達がこの館まで運んで、治療の手配をしてくれたのだという。街の人達は、魔物による被害でまともでは無かったから、隣町まで医師を呼びに行ってくれたそうだ。
「おかげさまで。随分と良くなりました。
それに、館まで運んで治療の手配までしてくださったみたいで。何から何までありがとうございました。」
「いえ、気にしないでください。元気になったならそれが何よりのお礼ですから」
何て良い人なんだろうか。後光がさして見える。気の所為ではないだろう。本当に後光がさしてるのだ。凄い。
人の良さに感心しつつ、先輩にお礼が言えたことに少し安堵した。ルプスにもお礼を言いたいのだが、このまま訓練が終わるまで見学している訳にもいかない。休憩時間などがあればその時に話しかけようとしていたのだが、レニタス先輩にせっかく会えたのだ。いつ話せそうか聞いておいた方がいいだろう。
「ありがとうございます。ところで―」
「アンナマリー!!!」
驚いて、声の方を見るとルプスが走ってきていた。いや、走ってきているというよりもまるで突しn―
次の瞬間、ルプスに凄まじい勢いで抱きつかれ(ほぼ突進)治りたてホヤホヤの私の体が一瞬悲鳴をあげた。
「っ…」
「アンナマリー!アンナマリー!良かった元気になったんだね!」
「はい…」
か細い声でそう答えるのが精一杯だった。想像してみてほしい。いくら女性とはいえ騎士団長である。まず、筋肉があるのだ。そして筋肉があるということは力が強い。そんな人に半ば突進の状態で抱きつかれたら誰でもこうなるだろう。
「団長、アンナマリーさんをそろそろ離してください?元気になったとはいえ、まだ本調子じゃない事くらい分かりますよね?」
流石先輩だ、私が言いたいことを全て言ってくれた。
ルプスは、ハッとすると、腕を離してくれた。先程まで笑顔で明るかった顔はみるみるうちに、しょんぼりとしていく。
切れ長の紅色の瞳と外に出ているはずなのに日焼けを知らぬかのような肌を持つ騎士団長は、何もしなければ魔性の女なのだ。そう、何もしなければだ。
そんなルプスは、しょんぼりとしたまま、子どものように言った。
「ごめん、アンナマリー。元気になったの、嬉しくて…」
「大丈夫です。ルプスも悪気があった訳じゃ無いでしょう?」
「うん…」
「私は大丈夫ですから。
それにルプス、あの日助けてくれてありがとうございました。きっとルプスが居なかったら私はここに居ないと思います。」
ルプスはきょとんとしてから、笑顔を浮かべた。そして、胸を叩いてはっきりと言った。
「友達を助けるのは当たり前だよ。いつでも頼って」
その言葉が嬉しいと思った。
思えば、誰かに頼ってと言われるのは久しぶりかもしれない。素直に頼れたのは師匠と亡くなった両親位だったから。
「ありがとうございます」
「もちろん、自分の事も頼ってくれていいですからね?」
「そうだよ、アンナマリー!あたしもレニタスも皆助け合い、頼り合いだよ」
「団長は自分に頼りすぎですけどね」
「えぇ〜」
そのやり取りがなんだか面白くて、私は自然と笑ってしまっていた。
✽✽✽
―数日後―
遠征から戻ってきた私は、とある方のもとを訪ねていた。その方は華美ではないが、見る人が見れば一級品であると分かる上等な服を身に纏っている。
艶めかしい蜂蜜のような色をしたブロンドの髪。国随一の美貌を持つとされ、この国で知らぬ者は居ない人物。その人物が持つ朝焼け色の瞳は、王家直系の証である。
私の目の前で、優雅に紅茶を嗜み、したたかな笑顔を私に向けている。
「久しぶりだね、アンナマリー。僕と話したい事があるだなんて。ようやく王家に連なる事にしたのかい?」
「殿下。その話は何度もお断りさせていただいております。」
聖女だから、と。何度も王家から婚約の打診が来ているのだ。歴代の聖女には王家の方と結婚をした者もいる。
もっともそれも、初代のみの話だが。聖女だから、という理由も理解はしているが、元々が平民なのだ。運よく先代聖女に拾ってもらえただけ。それなのに王家だなんて、務まる訳もない。
聖女が国の危機にだけ現れるという事実から、王家も強くは出られない。その事を良いことに私は断り続けているのだ。
「殿下だなんて、堅苦しいなあ。セレーヌスと、名前で呼んでいいと前々から言っているのに」
ティーカップをソーサーにもどすと、カチャリと音が鳴った。私を見つめてくる朝焼け色の瞳は、確かに真っ直ぐだ。
けれど―
(相変わらず、何を考えているのか分からない)
「御冗談はお辞めください。いくら殿下にそうおっしゃっていただけても、私の身には余ります」
「つれないなぁ。アンナマリーは」
クツクツと笑っているが、それが心からの物ではない事など分かってしまう。本当に何を考えているのか分からないのだ。
そこが私がこの人、サンディレラ王国王太子であるセレーヌス・サンディレラの苦手なところなのだ。
「それで、今日は何の用件はなんだい?」
そういってまた、何を考えているのか分からない微笑みを向けるこの人の事がつくづく苦手だと思った。
読んでくれてありがとうございました!
良ければブックマーク登録や感想などよろしくお願いします。




