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断罪される令嬢は黙っている  作者: 九葉(くずは)


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7/10

第七話 執務室にて

終わらせてくれなかった理由を、わたしは父に訊きに行った。


公爵邸に戻って、外套も脱がずに執務室へ向かった。


扉の下から灯が漏れている。この時刻に、まだ火が入っていた。


叩くと、返事があった。


公爵ジェラールは机に向かっていた。書類の束は端に寄せてあり、手元には何もない。


顔を上げて、こちらを見た。


驚かなかった。


「閣下」


「座りなさい」


レティシアは立ったままでいた。


「わたくしは、いつ送られるのですか」


自分から何かを問うのは、久しぶりだった。声が思ったより低く出た。


公爵は椅子の背に体を預けた。


「どこへ」


「修道院へ」


しばらく、火の音だけがした。


「冬至の日取りは、五年前に押さえた」


公爵は机の抽斗を開け、綴じた書付を出して、机の上を滑らせた。


「王家との取り決めだ。婚礼のために空けてある」


書付の日付を見た。五年前の、初雪の日だった。


「告発の材料はあった。学院に出回った類のものだ」


「では──」


「三年前に調べさせ、事実無根と結論した。王家も同じ結論を出している」


「なぜ、わたくしに」


「議題ではないからだ」


言い切って、公爵は書付を引き戻した。


「議題でないものを、当主が娘に伝える必要はない」


────伝えて、くだされば。


伝えられていたら、どうしていたか。レティシアには分からなかった。


「荷は」


「王宮へ運ばせた」


麻布の箱が四つと、旅行鞄が二つ。数を確かめる家令の声を、玄関広間で聞いていた。


聞いていて、送り先を訊かなかった。


「支度、と仰いました」


「婚礼の支度だ」


公爵は立ち上がった。机を回って、こちらの正面に立つ。


外套を脱いでいないことに、今になって気づいた。


「レティシア」


「その日は、お前の終わりの日ではない。私が決めた婚礼の日だ。」


火が鳴った。


レティシアの手が、外套の前を掴んだまま、緩んだ。


言葉を探した。


探して、何もなかった。


否定するなら、証拠がいる。証拠は机の上にあって、日付は五年前だった。


反論するなら、相手がいる。目の前の人は、こちらを咎めていない。


────数えていた七十八日は、なんだったの。


その問いにも、答える者がいなかった。


公爵は手を伸ばしかけて、途中で止めた。


止めた手を下ろし、机へ戻る。


「今夜は休みなさい」


「はい」


「湯を用意させてある」


外套を脱ぐことすら忘れていた娘のために、湯の支度がしてあった。


そういうことが、五年前から続いていたのだと思った。思っただけで、その先へ進めなかった。


一礼して、扉へ向かった。


扉の外の廊下に、人の気配があった。


灯を持たずに立っている。式服のままの背丈で、こちらが出てくると、壁際へ半歩下がった。


アルベールだった。


目が合った。


何も言われなかった。言わせる言葉を、こちらも持っていなかった。


レティシアは会釈をして、その脇を通り抜けた。


三歩ほど行って、足が止まった。


止まっただけで、振り返らなかった。


自室の扉を閉めてから、鏡の前に立った。


映っている顔は、夜会のときと同じだった。左の口角が、まだ遅れている。


わたしは、返す言葉を持っていなかった。淑女の笑みだけが、まだ顔に残っていた。

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