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断罪される令嬢は黙っている  作者: 九葉(くずは)


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4/10

第四話 訊かないでオレール

少ないほどいいと思っていた荷物が、弟に見つかった。


初冬の午後だった。自室の扉を開けたままにしていたのが迂闊だったのだと、あとで思った。


オレールは敷居のところで足を止めていた。


視線は書棚に向いている。


三段のうち、上二段が空だった。残っているのは辞書と、寄贈の札を貼っていない数冊だけ。


床には麻布をかけた箱が四つ。


「姉上」


「どうかしましたか」


レティシアは箱の脇へ回った。麻布の端が浮いていたので、押さえて直す。


「学院の図書室に寄贈するのです。持っていても、読み返すことがありませんから」


「装身具も、ですか」


二つ目の箱の蓋が、わずかに開いていた。


────閉めておけばよかった。


オレールが部屋に入ってきた。


この一年で、目の高さがあまり変わらなくなった。


「どうして、少しずつ減らしているのですか」


「片づけているだけです」


「片づけは、増えたときにするものでしょう」


言い返す言葉がなかった。


弟は箱を見ていない。こちらの手を見ていた。


膝の横で、指が動いていた。親指から順に折って、また開く。残り三十。三十を三つに割れば、ちょうどになる。


レティシアは指をほどいた。


「姉上、数えるのはやめて」


薪の音も、外の物音もない部屋だった。


やめてください、ではなかった。命令の形にもなっていない。ただ、そう言った。


────数えるのをやめたら、あと何をすればいいの。


「何のことでしょう」


淑女の笑みは、まだ形を保っていた。


オレールは何も言わなかった。


しばらく立っていて、それから空の書棚の上段に触れ、指についた埃を払って、部屋を出ていった。


その日の夕刻に、ミレイユ・ダンヴィエが訪ねてきた。


前触れのない訪問だった。応接間で待たせるのも失礼なので、温室へ通した。


男爵令嬢は、鉢の並びを一つずつ見てから、こちらを向いた。


「レティシア様。わたくし、あの噂を止めて回っておりますの」


「噂、と申しますと」


「ご存じでしょう。冬至の夜会で、殿下が何かを公にされるという」


聞いていた。学院の東棟では、もう賭けの対象になっているとも。


「わたくし、あちこちで違うと申し上げております。しつこいと嫌がられておりますけれど」


ミレイユは眉を寄せて、それから笑った。


熱心な人だと思った。


殿下の周りで動くには、こちらの評判を整えておくほうが都合がいい。順番どおりの子だ。


「ご親切に、痛み入ります」


「そんなことは」


「ミレイユ様。無理をなさらないでくださいませ」


言ってから、レティシアは鉢の縁に指を置いた。素焼きは冷たかった。


指先から冷えていく。


ミレイユは何か言いたそうにして、結局、鉢の話に戻った。


冬に咲く花の育て方を、ずいぶん詳しく知っている人だった。


九日後、王宮の回廊で二度目に会った。


書庫からの帰りだという。付き添いは柱の陰に控え、こちらとの間に十歩ほどの距離を空けていた。


アルベールは並んで歩いた。歩幅を合わせてくる。


「残りの日数を、数えているそうですね」


足が止まりかけて、止まらなかった。


「弟が何か申しましたか」


「いいえ」


それきり、その話はしなかった。


回廊の窓は西を向いていて、光が床に長く伸びている。


その光の切れ目で、アルベールが立ち止まった。


「手を」


差し出された手に、考える前に指を乗せていた。


温かかった。


外の風は冷たかったのに、この人の手は温かくて、乗せた指の先から、それが上ってくる。


────このまま。


上ってくるものを、レティシアは途中で止めた。


温かいものを受け取れば、失うときに一つ増える。増やさないと決めていた。


指を引いた。


アルベールは追わなかった。手を下ろし、それだけのことのように歩き出す。


回廊の残りを、二人とも黙って歩いた。


あと二十一日。手袋を嵌めていれば、こんなに冷たくはなかっただろうか。

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