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死に戻りは一度きり――「無才」の俺は禁忌の隠し職を手に入れ、クラスメイトの覚醒イベントを先回りする  作者: 夜守灯
王都祭壇編

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第55話 【???の導き】

「何者だ?」


祭壇の外から、オースティンの声が響いた。


それと、ほぼ同時に。


俺の右側から、別の声が聞こえた。


「おいおい、人間の小僧」


「運が悪かったな」


「レベル47の教会職業者が来たぞ」


「ははっ、お前、死んだな」


俺は一瞬、沈黙した。


灰白色の仮面が、表情を覆い隠している。


そうでなければ。


オースティンは、俺が盛大に顔を引きつらせているところを目にしていただろう。


右肩のそばでは、掌ほどの大きさしかない虚像が、俺の周囲をぐるぐると飛び回っていた。


どうやら、あれは俺にしか見えていないらしい。


妖精に近い外見をしているくせに。


口から出てくる言葉は、まるで妖精らしくない。


オースティンが現れたことに気づいてからは、その声に明らかな愉悦まで混じっていた。


時間は、数分前へ遡る。


小野寺が死んだあと。


祭壇に残っていたのは、俺一人だけだった。


グラトニーの虚像は、黒い石の口の上空へ浮かんでいる。


無数の眼に覆われた身体は、すでに【雷霆聖痕(らいていせいこん)】を呑み込んでいた。


青白い雷光が、腹部の中を絶え間なく流れている。


俺は胸元へ手を当てた。


覚悟はできていた。


天賦を献祭する以上、何の代償もないとは考えていない。


小野寺は【雷霆聖痕】を失った直後、全身からほとんど力を失っていた。


俺が捧げようとしている【終焉回帰(しゅうえんかいき)】は、すでに二度と発動できない。


それでも、魂へ結びついた天賦であることに変わりはない。


少なくとも、剥離される過程で一時的に弱体化する可能性は高かった。


だからこそ、小野寺を先に殺す必要があった。


互いに力を失った状態になれば。


最後に生き残るのが、俺とは限らない。


俺はグラトニーを見据えた。


「グラトニー」


「俺は、自らの天賦を捧げる」


最後の言葉を口にした瞬間。


グラトニーの全身にある眼球が、一斉に動いた。


腹部の巨口が、ゆっくりと開かれる。


抗いがたい吸引力が、俺の身体を包み込んだ。


同時に。


胸の奥から、引き裂かれるような激痛が走る。


来た。


俺の身体が、わずかに揺れた。


純白の光が一本。


胸元から、ゆっくりと浮かび上がる。


小野寺から抜け出した、雷を纏う青い光とは違う。


この光には、何の属性もなかった。


強烈な魔力も感じられない。


どこにでもありそうな、ただの白い糸。


グラトニーは巨口を広げ、それを一息に呑み込んだ。


急速に力が失われていく。


両脚が震え始めた。


視界も一瞬、ぼやける。


予想していたとおりだ。


だが、次の瞬間――


グラトニーに異変が起きた。


それまで、虚像は頭を高く掲げていた。


全身の眼には、常に傲慢さが宿っているように見えた。


小野寺も。


俺も。


自ら口元へ運ばれてくる餌にすぎない。


そう考えているかのように。


だが、白い光を呑み込んだ瞬間。


すべての眼球が、一斉に固まった。


続けて。


傲慢さが消えた。


代わりに浮かび上がったのは――恐怖。


グラトニーの腹部にある巨口が、突然大きく開かれた。


たった今呑み込んだはずの白い光が。


その口から、再び溢れ出した。


だが、俺の胸には戻ってこない。


一本の縄のように、俺とグラトニーを繋いだ。


そして――


逆流を始めた。


グラトニーが持つ力が、白い光を伝って俺の中へ流れ込んでくる。


「何だ……?」


俺は初めて、驚きを隠せなかった。


グラトニーが狂ったように暴れ始める。


八本の歪な肢体が、激しく振り回された。


腹部の巨口を閉じようとする。


白い光を断ち切ろうとする。


さらには、祭壇の内部へ逃げ戻ろうとした。


だが。


どれも意味を成さない。


グラトニーよりも遥かに強硬な何かが、すでにその存在を掴んでいた。


古く、邪悪な魔力が。


無理やり身体から引き剥がされていく。


一筋。


十筋。


数百筋。


黒赤色の魔力が、次々と俺の体内へ流れ込んだ。


それに反比例するように、グラトニーの虚像は薄くなっていく。


全身の眼球が激しく回転していた。


まるで、声にならない悲鳴を上げているかのように。


俺は身体を動かせなかった。


ただ。


旧神の投影が、少しずつ呑み込まれていく光景を見ていることしかできない。


まるで【終焉回帰】を呑み込んだことで。


グラトニー自身が、逆に供物へ変えられたかのようだった。


最後の一筋となった黒赤色の魔力が、虚像から抜け落ちる。


グラトニーの身体は完全に透き通った。


そして、消滅した。


地下拠点全体を覆っていた邪悪な魔力も。


同じ瞬間。


すべて俺の身体へ収束した。


祭壇に静寂が戻る。


俺はその場に立ったまま。


長いあいだ、動けなかった。


何が起きた?


【終焉回帰】は献祭されなかった。


それどころか、グラトニーの投影を逆に呑み込んだ?


相手は、世界の外側から来た旧神の力だ。


たとえ完全な自我も権能も持たない投影であっても。


一度使用済みとなった天賦に、容易く喰われるような存在ではないはずだ。


俺は即座にステータスを開いた。


【天賦】


【終焉回帰 S+】


【状態:使用可能】


呼吸が止まった。


使用可能?


俺は、その文字を凝視した。


次の瞬間。


表示が明滅する。


【状態:永久ロック】


そして、再び変わった。


【状態:使用可能】


【状態:永久ロック】


【状態:使用可能】


【状態:永久ロック】


正反対の状態が、交互に切り替わり続ける。


点滅する速度は、次第に速くなっていった。


俺の鼓動も、それに合わせるように強まる。


【終焉回帰】は、本当にただのS+天賦なのか?


一度だけ、死から回帰する。


発動後は永久にロックされる。


それが、この天賦について俺が理解していたすべてだった。


だが今。


【終焉回帰】は祭壇による献祭へ抵抗した。


それどころか、旧神の投影を逆に呑み込んだ。


一時的とはいえ。


再び使用可能な状態へ戻りさえした。


普通のS+天賦に。


本当に、そんなことができるのか?


状態欄の点滅は、十数秒にわたって続いた。


そして最後に。


表示が止まる。


【終焉回帰 S+】


【状態:永久ロック】


やはり、使用することはできない。


俺はゆっくりと息を吐いた。


少なくとも、表面上は何も変わっていない。


だが、天賦欄が完全に安定したあと。


【終焉回帰】の下に、見覚えのない一文が追加されていた。


【???の導き】


俺は眉を寄せた。


ステータス欄に疑問符が表示されたのは、初めてだ。


あまりにも異常だった。


意識を、その一文へ集中させる。


内容を正確に読み取った瞬間――


頭の中へ、突然声が響いた。


「うぅん……」


俺は勢いよく顔を上げた。


「んん……」


近い。


祭壇から聞こえた声ではない。


隠し広間のどこかに、誰かが潜んでいるわけでもない。


直接、俺の意識へ流れ込んできている。


次の瞬間。


右側の空間へ、弱い黒色の光が浮かび上がった。


最初は、拳ほどの大きさ。


それが少しずつ縦へ伸び。


人の形へ凝縮されていく。


現れたのは、掌ほどの背丈しかない少女の姿だった。


細い身体が、宙へ浮かんでいる。


漆黒の長髪は足首近くまで伸び、風のない空間でゆっくりと揺れていた。


肌は、血の気を一切感じさせないほど白い。


頭には、短く湾曲した一対の黒い角。


背中にあるものも、妖精のような透明な翅ではなかった。


腰の後ろからは、細長い尾が伸びている。


先端は、鋭い逆三角形。


身体を覆う短い衣服も、黒い魔力によって形作られていた。


妖精というより――


無数に縮小された悪魔に近い。


ただし今は、両目を閉じたまま。


身体を小さく丸めている。


まだ完全には目覚めていないようだった。


俺は突然現れた虚像を凝視した。


右手が、ゆっくりと短剣の柄を握る。


少女の瞼が、わずかに動いた。


そして、開かれる。


暗金色の瞳。


少女は最初、ぼんやりと祭壇を見回した。


次に。


床へ倒れた小野寺の死体を見下ろす。


最後に。


灰白色の仮面をつけた俺へ視線を止めた。


「目が覚めた……」


小さく欠伸をする。


口元から、二本の尖った牙が覗いた。


「ここ、どこだ?」


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