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死に戻りは一度きり――「無才」の俺は禁忌の隠し職を手に入れ、クラスメイトの覚醒イベントを先回りする  作者: 夜守灯
王都祭壇編

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第50話 スキル ——【詐欺】

小野寺真也の身体が、祭壇の上へ重く倒れた。


彼のHPは、もともと半分を下回っていた。


地下第一層からここへ至るまで戦闘を続け。


何度も雷魔法を使用し。


さらに祭壇を起動するため、数十回にわたって精密な魔力出力を繰り返した。


体力も魔力も、すでに限界へ近づいていた。


そこへ【雷霆聖痕(らいていせいこん)】の強制剥離。


続けて、背後から胸を貫いた短剣。


二つの損傷がほぼ同時に発生し、小野寺のHPを一気に一桁まで削り取った。


即死には至っていない。


だが、残っているのは最後の一息だけだった。


今も小野寺の体内から、青白い光が溢れ続けている。


細長い雷光へ変わり、すべてがグラトニーの腹部にある巨口へ呑み込まれていった。


「やめ……」


小野寺が手を伸ばす。


だが、腕を持ち上げることすらできなかった。


【雷霆聖痕】を失った瞬間。


自分の中から、何かを丸ごと抉り取られたように感じた。


それまで明瞭に感じられていた空気中の雷元素も、急速にぼやけていく。


胸へ突き刺さっていた短剣が、ゆっくりと引き抜かれた。


傷口から血が溢れ出す。


小野寺は苦しみながら、背後へ顔を向けた。


彼の影が蠢いている。


漆黒の外套を纏った人影が、その中からゆっくりと浮かび上がった。


灰白色の仮面が顔全体を覆っている。


外套は祭壇周辺の暗闇と溶け合い、輪郭さえ曖昧だった。


その手に握られているのは、暗影を纏った短剣。


刃には、小野寺の血が残っている。


小野寺の瞳孔が一気に収縮した。


この声。


影から現れる、この姿。


ようやく、すべてを理解した。


「お前……」


「ずっと俺の影で喋っていたのは……」


仮面の人物は答えなかった。


ただ、倒れている小野寺を見下ろしている。


その顔に浮かんでいた驚愕は、すぐに激しい憎悪へ変わった。


「お前は……雷霆神なんかじゃない……」


「権能も……」


「全部、俺を騙すための嘘だったのか……」


俺は、何も答えなかった。


意識は、先ほど表示された戦闘記録へ向けている。


【対象は攻撃者の存在を認識していません】


【スキル【暗殺(あんさつ)】が発動しました】


【最終ダメージ倍率:2.6倍】


【対象へ42ダメージを与えました】


一撃で仕留めきれなかった。


連戦で消耗し、天賦まで失ったにもかかわらず。


小野寺には、まだ50近いHPが残っていたらしい。


俺が予想していたより、小野寺の基礎能力は高かった。


だが、結果は変わらない。


胸を貫かれ。


天賦を剥ぎ取られた。


今の状態から、再び立ち上がることは不可能だ。


俺は床に倒れた小野寺を見つめた。


それでも、勝利の喜びはほとんど湧いてこなかった。


正直に言えば。


俺自身、ここまで計画が順調に進むとは思っていなかった。


小野寺は確かに衝動的だ。


傲慢で。


力を渇望している。


だが、本当に愚かな人間というわけではない。


通常なら、グラトニーの虚像を見た時点で、もっと強く疑うはずだった。


少なくとも質問を続ける。


交換条件を確認する。


あるいは、完全な権能とやらを先に見せろと要求する可能性もあった。


それなのに、小野寺は数秒迷っただけで、自ら献祭を完了させた。


原因は、おそらく少し前に獲得した新しいスキル。


【詐欺 Lv.1】


効果:


・発言を相手に信じさせやすくなる


・魅力が高いほど効果が増加する


・対象がその言葉を信じたいと望むほど、影響が強くなる


このスキルが現れたこと自体は、何の前触れもない出来事ではない。


回帰してから、俺が騙してきた相手は普通の人間ではなかった。


レベル72。


英雄級以上の職業【夜行者(やこうしゃ)】を持つドーン。


レベル49の【血月狩殺者(けつげつしゅさつしゃ)】グレゴリー。


それに、オルドラン教会と血月教団の構成員たち。


自分を遥かに上回る職業者たちと渡り合い。


俺が作り出した身分や情報を、繰り返し信じ込ませてきた。


【詐欺】を獲得するのは、時間の問題だったのだろう。


だが、その効果は俺の予想を上回っていた。


小野寺は最初から、あの声が本物の神であってほしいと願っていた。


教会が真実を隠していると信じたかった。


自分には天城以上の可能性があると思いたかった。


あまりにも、信じたがっていた。


【詐欺】がほんの少し背中を押しただけで。


小野寺は、すべての不自然な点に自分から理由をつけてくれた。


さらに、今の俺は魅力も低くない。


基礎魅力は7。


無貌者の残面(むぼうしゃのざんめん)】によって4上昇。


ドーンの暗影外套ドーンのあんえいがいとう】からは、さらに割合補正を得ている。


装備補正を含めた実質的な魅力は、12前後。


レベル3の職業者としては、異常に高い数値だった。


欲望。


信頼。


認知の歪み。


そこへスキルと魅力による影響が加わった。


その結果。


小野寺は自らの手で【雷霆聖痕】を祭壇へ差し出した。


俺は改めてグラトニーへ目を向ける。


腹部の巨口は、すでに閉じていた。


S+ランク天賦【雷霆聖痕】から生まれた青い光が、虚像の体内で激しく渦巻いている。


祭壇は、最初の天賦を受け取った。


本来、俺が献祭するつもりだったのは。


自分の【終焉回帰(しゅうえんかいき)】だ。


【終焉回帰】は、すでに使用されている。


状態は永久ロック。


二度目の発動は不可能。


今となっては天賦欄を占有しているだけで、何の効果ももたらさないS+ランクの抜け殻だ。


これを、正常に使える天賦と交換できるのなら。


たとえ祭壇から与えられるものがAランクであっても、俺は受け入れるつもりだった。


祭壇は、等価交換などしてくれない。


一つの宝物を捧げても。


返されるものの価値は、元の品を遥かに下回ることが多い。


役目を失ったS+を。


正常に使えるAへ交換できる。


それだけでも、十分に幸運な結果だ。


だが【詐欺】を獲得してから。


俺は、小野寺が予想以上に操りやすいことに気づいた。


そこで、当初の計画を変更した。


機能を失ったS+だけでは、真に貴重な報酬を得るのは難しい。


だが、そこへもう一つ。


完全な状態で。


今後も成長できるS+ランク天賦を加えれば――


話はまったく変わってくる。


献祭儀式では通常、供物を差し出した者へ報酬が与えられる。


小野寺は【雷霆聖痕】を献祭した。


本来なら、彼にも報酬を受け取る資格がある。


だが、この祭壇には一つの特殊な規則が存在した。


複数の献祭者が同時に儀式へ参加し。


そのうち一人が、報酬が降りる前に死亡した場合。


死者の受領資格は剥奪される。


献祭物は返還されない。


報酬だけが、残った献祭者へ移される。


だから。


小野寺には死んでもらう必要がある。


俺はゆっくりと、小野寺へ視線を戻した。


「待て……」


小野寺も何かに気づいたのか。


声色が突然変わった。


激しい憎悪が、急速に恐怖へ塗り替えられていく。


「俺はもう、天賦を捧げた……」


「そうだろ?」


「なら、それで十分だ……」


「俺は何もいらない」


俺は一歩、前へ進んだ。


小野寺の身体が震える。


血に濡れた手で石床を掻き、後ろへ逃れようとした。


「殺さないでくれ……」


「今日のことは、誰にも言わない」


「俺はお前が誰なのかも知らない」


「見逃してくれたら、何も喋らない!」


俺は答えない。


小野寺には、仮面の下の表情が見えない。


目を見ても。


俺が何を考えているのか、読み取ることはできない。


その沈黙は、どんな脅しよりも恐ろしかったのだろう。


「俺は役に立つ!」


「外には教官がいる!」


「そうだ、オースティン教官だ! あの人は強い! お前じゃ絶対に勝てない!」


「俺が騙して、ここから遠ざけてやる!」


「ここで起きたことは全部、邪教徒がやったと証言してもいい!」


「これからは、何でも言うことを聞く!」


「だから、殺さないでくれ……」


血に濡れた手を伸ばし。


俺の靴を掴もうとした。


だが、その腕は僅かに持ち上がっただけで。


力なく石板へ落ちた。


俺は、小野寺の目の前で足を止めた。


その表情が、再び歪む。


「この……詐欺師が……」


「お前は、ろくな死に方をしない……」


「俺は絶対に――」


短剣を持ち上げた。


小野寺の言葉が途切れる。


顔に浮かんでいた怨恨が、再び恐怖へ変わった。


「やめろ……」


刃を振り下ろす。


祭壇に、再び静寂が戻った。


小野寺が伸ばしていた手は。


血溜まりの中へ、力なく垂れ落ちた。


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