↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に戻りは一度きり――「無才」の俺は禁忌の隠し職を手に入れ、クラスメイトの覚醒イベントを先回りする  作者: 夜守灯
王都祭壇編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/60

第48話 祭壇の真の起動条件

この瞬間になって、小野寺真也はようやく祭壇の全貌を目にした。


祭壇全体は、深い黒色の石材で造られている。


形状は歪な八角形。


直径は十メートル近くあった。


八つの角には、それぞれ低い石柱が立っている。


石柱の上部には、異なる図柄が刻まれていた。


歪んだ眼球。


自らの尾へ噛みつく長蛇。


牙に囲まれた掌。


そして、長い年月によって摩耗し、もはや原形を判別できない図像。


祭壇の中央にあるのは、巨大な石造りの口だった。


上下二列の歯が、内側へ向かって噛み合っている。


一本一本が、短剣のように鋭い。


石の口の中は、完全な闇に覆われていた。


どの角度から覗き込んでも、底を見ることはできない。


これが、祭壇本来の姿なのだろう。


だが現在。


黒い石面は、大量の血液で覆われていた。


人間や魔獣の切断された手足が、祭壇の周囲へ山のように積み上げられている。


部屋の各所から伸びる数十本の管は、薬品と混ざった血液を、石板の溝へ絶え間なく流し込んでいた。


祭壇の表面には、暗赤色の図形も無数に描き加えられている。


血月教団の生贄の符文。


錬金術師が用いる変換陣。


魔獣を召喚するための古代術式。


その中には、互いに効果が衝突するものまであった。


無理やり幾重にも重ねられ、祭壇本来の紋様の大半を覆い隠している。


セレスは長いあいだ、この祭壇を起動しようと実験を続けていたのだろう。


だが、永遠に成功することはない。


最初から、進む方向を間違えている。


どれほど実験を重ねても。


どれほど多くの生贄を捧げても。


正しい起動方法の代わりにはならない。


もっとも、朝倉悠真にとっては、セレスへ感謝するべきことでもあった。


彼が絶え間なく実験を続けていたおかげで。


祭壇の起動に必要な最初の条件は、すでに満たされている。


十分な血液。


十分な魂。


小野寺は祭壇の縁に立った。


興奮のあまり、胸が激しく上下している。


ついに辿り着いた。


教会の監視をかいくぐり。


隠された資料を見つけ。


邪教の拠点へ潜入し。


罠と魔獣が待ち受ける通路を突破した。


さらに、自分より遥かに強い中級職業者まで現れた。


それらを乗り越えた先に。


完全な雷霆の権能が、ついに手の届く場所まで来ている。


小野寺は、もう顔に浮かぶ興奮を隠せなかった。


「神様」


待ちきれない様子で、心の中から問いかける。


「次は、どうすればいいのですか?」


影の中から、朝倉悠真の声が響いた。


『焦るな』


『祭壇の八方に刻まれた図柄が見えるか?』


小野寺は周囲を見渡した。


「見えます」


「それから?」


『汝に最も近い図柄から始めよ』


『反時計回りの順に、雷魔法を撃ち込むのだ』


小野寺は一瞬、言葉を失った。


「この図柄を攻撃するのですか?」


『我の指示に従え』


朝倉悠真は告げた。


『我が「高」と言ったときは、より多くの魔力を込めよ』


『「低」と言ったときは、僅かな魔力だけを放つのだ』


小野寺には、まるで意味が分からなかった。


これは、いったい何の儀式だ?


血を捧げる必要もない。


祈祷文を唱える必要もない。


ただ、出力の異なる魔法で石柱を攻撃するだけ?


だが、ここへ辿り着くまで。


あの声の指示が間違っていたことは、一度もない。


小野寺は、それ以上尋ねなかった。


右手を持ち上げ、最も近くにある一本目の石柱へ向ける。


掌の上で、青白い雷光が跳ねた。


「準備できました」


『低』


弱い電弧が放たれた。


パチッ。


雷光は石柱の図柄へ当たったが、何の反応も起こらない。


『高』


小野寺は魔力出力を高めた。


眩い雷が、石柱へ激突する。


『低』


『低』


『低』


『高』


『高』


『高』


合計八回。


低、高、低、低、低、高、高、高。


最後の雷光が消えた。


それでも石柱には、何の変化も見えなかった。


小野寺が眉を寄せる。


「神様、これはいったい何の――」


ブゥン。


言葉を終える前に。


石柱に刻まれた図柄が、突如として光を放った。


摩耗した刻み目の奥から、暗赤色の光が浮かび上がる。


光は石柱を伝って下へ流れ、祭壇の縁に刻まれた溝へと注ぎ込まれた。


小野寺が目を見開く。


「本当に光った……」


影の中に潜んでいる俺も、密かに息を吐いた。


よかった。


計算は間違っていなかった。


石柱に刻まれた図柄は、宗教的な意味を持つ祭祀符文ではない。


これは鍵だ。


魔力出力の高低によって入力する、暗号錠。


『高』と『低』は、二種類の入力を意味する。


高は一。


低は零。


八回の入力によって、一つの文字を作る。


そして祭壇の八つの角は、八文字からなる一つの完全な暗号に対応していた。


この上古の施設には、真理協会(しんりきょうかい)が開発した技術が大量に使われている。


食淵教団は【暴食(ぼうしょく)】へ仕えていた。


だが、このように複雑な施設を独力で建造できるほどの技術力は持っていなかった。


そして、一般信徒が頻繁に利用する祭壇だ。


暗号も、必要以上に複雑なものには設定されていない。


答えは一つしかない。


彼らが仕える神の名。


暴食――【Gluttony】。


魔力の高低が数字を示すことも。


その数字が古代文字へ対応していることも知らなければ。


数年調べた程度では決して答えへ辿り着けない。


たとえセレスへ数百年の時間を与えたとしても。


無秩序な実験だけで、この祭壇を起動することは不可能だ。


『続けよ』


朝倉悠真が告げた。


『二つ目の図柄だ』


小野寺はすぐに、反時計回りで隣の石柱へ移動した。


再び雷光が灯る。


朝倉悠真の指示どおりに入力を続けると、二本目の石柱も間もなく起動した。


続いて三本目。


四本目。


祭壇の縁に、暗赤色の光が一筋ずつ増えていく。


小野寺の表情には、ますます強い興奮が浮かんでいた。


五本目。


六本目。


七本目。


数十回に及ぶ精密な魔力操作によって。


小野寺の呼吸は荒くなり、額から汗も流れ始めていた。


それでも、一度も手を止めない。


最後に。


第八の石柱の前へ立った。


『これが最後だ』


朝倉悠真が告げる。


小野寺は右手を掲げた。


雷光が次々と石柱へ落ちる。


八回目の入力が終わった瞬間。


祭壇は、短い静寂に包まれた。


次の瞬間――


轟音。


祭壇の深部から、低い振動が伝わってきた。


最後の図柄が、突如として光を放つ。


八本の石柱すべてから、暗赤色の光が立ち上った。


光は祭壇の縁に沿って急速に走る。


互いへ繋がり。


最後には、完全な八角形を形作った。


祭壇を覆っていた血液が、突然逆流を始める。


血は溝から抜け出し、重力へ逆らうように黒い石板を上っていった。


それまで何の関係もないように見えた眼球。


長蛇。


掌。


牙。


すべての図像が、血によって一つずつ結ばれていく。


やがて。


祭壇の上空に、巨大な図像が浮かび上がった。


上古の伝承にしか存在しない、異形の獣。


八本の歪んだ肢体。


全身の至るところで開いている無数の眼。


腹部には、万物を呑み込むほど巨大な口が生えている。


無数の腕が、人間を。


獣を。


太陽を。


月を掴み。


休むことなく、その口の中へ押し込んでいた。


小野寺は、血によって描き出された巨大な姿を仰ぎ見た。


その目には、驚愕と狂信的な熱が満ちている。


「これが……」


「雷霆の神?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。