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死に戻りは一度きり――「無才」の俺は禁忌の隠し職を手に入れ、クラスメイトの覚醒イベントを先回りする  作者: 夜守灯
王都祭壇編

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第45話 様子のおかしい小野寺

小野寺真也は、最後の石段を踏み下りた。


地下第三層は、想像していたよりも遥かに広い。


基本的な造りは、上の二層とそれほど変わらなかった。


灰黒色の石壁。


薄暗い魔法灯。


複数の方向へ延びる、細長い通路。


だが、ここにはさらに多くの部屋があり、分岐も複雑だった。


入口に立っただけで、三つの異なる通路が見える。


壁には何の目印もない。


空気には、湿り気を帯びた血の臭いが漂っていた。


第二突入隊が、素早く内部へ入る。


二人の盾兵が先頭を固めた。


神官たちは、床と壁に残る魔力の痕跡を調べ始める。


残りの隊員も周囲へ展開し、近くの部屋を順番に捜索していった。


「互いの視界から外れるな」


第二突入隊を指揮する執行官が、低い声で命じる。


「各部屋は、まず錠と魔力反応を確認しろ」


「異常を発見した場合は、ただちに報告。勝手に中へ入るな」


天城蓮たちは、隊列の中央にいた。


椎名綾音の腹部の傷は、すでにほとんど塞がっている。


だが、顔にはまだ血の気が戻っていなかった。


相沢美咲は一歩も離れず、その隣を守っている。


神谷玲司は短杖を握り、左右に並ぶ閉ざされた扉へ何度も視線を向けていた。


小野寺だけが、次第に焦りを募らせていく。


祭壇はどこだ?


地下第三層へ入れば、すぐに見つかると思っていた。


だが、見渡してもあるのは、似たような通路ばかり。


ここは、いったいどれほど広い?


一部屋ずつ捜索していれば、祭壇へ辿り着く頃には教会が内部を制圧してしまう。


そうなれば、自分はどうやって雷霆神の完全な権能を受け取ればいい?


小野寺は剣の柄を強く握った。


「神様」


心の中で、小さく呼びかける。


「聞こえていますか?」


返事はなかった。


前方では、一人の神官が右側の扉を開いた。


中にあるのは、何も置かれていない木棚が数列だけ。


一行は、そのまま先へ進む。


小野寺の焦燥は、さらに強くなった。


そのとき。


ようやく、聞き慣れた声が再び響いた。


『感じるぞ』


小野寺の目が輝いた。


「神様!」


『我が権能の一部が、この近くにある』


声は低く、弱々しかった。


『左へ進め』


小野寺は、ためらうことなく走り出した。


「小野寺!」


天城が即座に呼び止める。


「待て! まだ捜索が終わっていない!」


小野寺は振り返らなかった。


完全な雷霆の権能が、この先にある。


昼間の戦いでは、あの声の指導を受けて、ようやく神谷とルードに勝つことができた。


それでも、邪教徒を一人殺しただけで。


雷霆聖痕(らいていせいこん)】は敏捷を1上昇させた。


雷霆への親和性まで高めた。


あれは、まだ欠けた権能にすぎない。


太古の雷霆神を完全に目覚めさせれば、自分はどれほど強くなる?


レベル20?


レベル30?


それとも、一気に伝説の英雄の領域へ踏み込めるのか?


もう待ってはいられなかった。


「何か見つけた!」


適当な言葉だけを残し、左側の通路へ飛び込んだ。


「何を見つけたんだ?」


天城もあとを追う。


小野寺は答えなかった。


自分の頭の中に雷霆神が住んでいるなど、言えるはずがない。


「クソが」


神谷が舌打ちする。


小野寺の勝手な行動に付き合う気など、まったくない。


だが、天城と椎名はすでに追いかけている。


見知らぬ地下拠点で、一人だけ残るほうが危険だった。


結局、短杖を握り締め、最後尾からついていく。


「相沢さん、私たちも行こう」


椎名が相沢の手を取った。


五人は、あっという間に第二突入隊から離れていった。


「全員戻れ!」


背後から執行官の怒声が飛ぶ。


だが、追いかけようとした瞬間。


右側の部屋から、鈍い音が響いた。


ドンッ!


閉ざされていた木製扉が、内側から一気に吹き飛ぶ。


背中へ何本もの人間の腕を縫いつけられた魔獣が飛び出し、先頭の盾兵を地面へ叩き倒した。


「敵襲!」


「左側にも魔力反応!」


さらに多くの扉が同時に開いた。


暗闇の中から、次々と咆哮が響く。


部屋に潜んでいた改造魔獣が、隊列へ襲いかかった。


通路の両側にも、暗赤色の術式が浮かび上がる。


毒針。


炎。


血色の鎖。


それらが一瞬で通路全体を覆った。


第二突入隊は、その場で足を止めざるを得ない。


盾兵が防衛線を形成する。


神官たちは結界を展開した。


指揮官にも、勝手に離脱した異界人たちを追う余裕はなくなった。


小野寺は、背後で何が起きたのか知らなかった。


知っていたとしても、止まらなかっただろう。


『前方を右へ』


声が再び指示した。


小野寺は即座に右側の通路へ曲がる。


『二つ目の分岐を左だ』


『そのまま進め』


『前方の部屋には近づくな』


指示は、すべて正確だった。


小野寺は一度も罠へ触れない。


部屋に潜んでいた魔獣とも遭遇しなかった。


通路の隅に暗赤色の紋様が現れることもあった。


だが、小野寺が近づくより早く、声が別の道へ誘導した。


後ろを走る天城は、次第に驚きを隠せなくなっていた。


「小野寺」


「どうして進む方向が分かるんだ?」


「勘だ」


小野寺は前を向いたまま答えた。


神谷が冷笑する。


「お前、いつからそんな便利な勘を持つようになったんだ?」


「黙れ」


今の小野寺に、神谷を相手にする余裕はない。


天城は左右の壁へ視線を向けた。


ここまでで、少なくとも七つの分岐を通過している。


それなのに、小野寺は一度も迷わなかった。


さらに奇妙なのは。


別の方向からは、魔法の爆発音や魔獣の咆哮が何度も聞こえている。


だが、彼らが進む経路だけは異様なほど静かだった。


まるで小野寺が、危険な場所をすべて事前に知っているかのように。


椎名も同じ違和感を抱いたらしい。


「小野寺君、ここへ来たことがあるの?」


「あるわけないだろ」


「それなら、どうして――」


「勘だと言っているだろ」


小野寺は苛立った声で遮った。


そのとき、影の中から声が響く。


『止まれ』


小野寺は即座に足を止めた。


天城が危うく背中へぶつかりそうになる。


「どうした?」


小野寺は答えない。


前方には、もう道がなかった。


通路の突き当たりを、切れ目のない石壁が塞いでいる。


左右にも扉はない。


「神様」


小野寺は心の中で焦ったように尋ねた。


「行き止まりです」


『祭壇は、この先だ』


『右から三つ目の石煉瓦』


小野寺は壁の右側へ目を向けた。


『それを押し込み、上にある鉄輪を左へ回せ』


壁には確かに、錆びついた鉄輪が掛けられている。


松明を固定するための、ただの装飾にしか見えなかった。


小野寺は指示どおり、右から三つ目の煉瓦を押した。


カチリ。


石が奥へ沈み込む。


続いて鉄輪を掴み、力を込めて左へ回した。


直後。


壁の内部から、歯車が動く音が響き始める。


ゴゴゴゴゴ――


正面の石壁が、ゆっくりと左右へ分かれていった。


その奥から、隠された通路が姿を現す。


天城たちは、全員その場で固まった。


神谷が信じられないものを見るように、小野寺を見つめる。


「これも勘か?」


小野寺の口元が、わずかに持ち上がった。


「何か問題でもあるか?」


最初に暗門の中へ入る。


天城は眉を寄せた。


目の前で起きていることは、明らかに不自然だ。


だが、小野寺はすでに中へ入っている。


一人だけ置き去りにするわけにもいかなかった。


「ついていこう」


長剣を握り直し、二番目に通路へ入る。


椎名。


相沢。


神谷。


三人も順番にあとへ続いた。


最後の一人が通過すると。


背後の石扉が、すぐに閉じ始める。


ゴゴゴッ。


外側の通路が、少しずつ遮断されていった。


隠し通路には明かりがない。


神谷が短杖を掲げ、弱い火球を一つ浮かべる。


通路そのものは、それほど長くなかった。


奥は、さらに広い部屋へ繋がっているように見える。


小野寺が最初の一歩を踏み出した瞬間。


声が鋭く叫んだ。


『下がれ!』


小野寺は即座に後方へ跳んだ。


ヒュンッ!


銀色の閃きが胸元を通過する。


鋭い刃が服を裂き、革鎧の表面に深い傷を刻んだ。


あと半歩遅ければ。


刃は心臓を貫いていた。


天城がすぐに剣を抜き、前へ立つ。


「誰だ!」


火球の光が、通路の奥を照らした。


「ほう?」


「初級職業者が、私の攻撃を避けたのか?」


白い研究外衣を着た男が、ゆっくりと暗闇から姿を現す。


外衣には、まだ乾いていない血が付着していた。


胸元に下げられているのは、異なる三種の魔獣の牙。


手には細長い手術刀を握っている。


地下第二層の研究区画を管理していた男。


セレスだった。


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