第43話 一気に二レベルアップ!
【自身より高レベルの敵を撃破しました】
【経験値を獲得しました】
【レベルが上昇しました】
【Lv.1→Lv.2】
【敏捷 DEX+1】
【知力 INT+1】
【精神 WIS+1】
【レベルが上昇しました】
【Lv.2→Lv.3】
【敏捷 DEX+1】
【知力 INT+1】
【魅力 CHA+1】
二度続けて、レベルアップの表示が目の前へ現れた。
敏捷が2。
知力が2。
精神と魅力が、それぞれ1。
合計で六つの能力値が上昇している。
レベルアップ時に得られる能力値は、職業者が自由に割り振れるものではない。
職業。
戦闘方法。
普段、最も多く使っている能力。
そうした要素を基準に、システムが適した方向へ自動的に振り分ける。
一度のレベルアップで得られる能力値の総数も、固定ではなかった。
運が悪ければ、一つも上がらないことがある。
逆に運が良ければ、一度で5上昇する場合もある。
二レベルで合計6。
平均的な結果だ。
ただ、振り分けられた方向は悪くない。
【影渡り】にとって、敏捷と知力はどちらも中核となる能力値だ。
俺はすぐに変化を確認した。
【敏捷 DEX:24→26】
【知力 INT:21→23】
【精神 WIS:35→36】
【魅力 CHA:6→7】
外套と仮面による装備補正は、基礎能力値には含まれていない。
敏捷と魅力が上昇すれば、割合補正によって得られる数値も一緒に増えていく。
俺は床に倒れた死体へ視線を移した。
バートは牢の端に、うつ伏せで倒れている。
動きと肉体強度から判断すれば、レベルは14から15前後だろう。
まともに戦えば、今の俺では絶対に殺せない。
基礎能力値。
HP。
戦闘経験。
どれも差が大きすぎる。
最初の一撃で仕留め損ねれば、次に死ぬのは俺だ。
今回成功したのは、天城がバートを重傷に追い込んでいたからにすぎない。
俺は、直前の戦闘記録を呼び出した。
【対象は攻撃者の存在を認識していません】
【スキル【暗殺】が発動しました】
【最終ダメージ倍率:2.4倍】
【対象へ37ダメージを与えました】
37。
自分より十レベル以上も高い職業者に、これほどのダメージを与えられた。
かなり異常な数字だ。
バートの最大HPは、おそらく120から150程度。
天城の最後の一撃は急所を避けていたが、それでも大量のHPを奪っていた。
それ以前の戦闘で蓄積した傷もある。
先ほどのバートに残っていたHPは、20前後だったはずだ。
37ダメージなら、完全に殺し切るには十分だった。
もっとも、瀕死の相手へ止めを刺しただけだ。
戦闘全体に対する俺の貢献度は低いと判定され、獲得経験値も大きく減少している。
十レベル以上も格上を倒したにもかかわらず、上昇したのは二レベルだけだった。
俺は当初、せいぜい一レベル上がれば良いと考えていた。
だが、ここ数日の反復訓練。
スキルの習得。
実戦形式の戦闘。
それらでも、少しずつ経験値を得ていたことを忘れていた。
今回の撃破によって、残っていた差分がちょうど埋まったのだろう。
俺は短剣を引き抜いた。
バートの死体が、わずかに痙攣する。
すぐに完全な静止を取り戻した。
天城がバートを倒しながら、止めを刺さなかったのを見た瞬間。
俺は分かっていた。
天城はまた、一度目の人生と同じ過ちを犯した。
甘い。
長年、邪教徒と戦ってきた者にとって。
敵の死亡を確認することは、戦闘における最重要事項の一つだ。
邪教徒は死んだふりをする。
命乞いをする。
四肢を失っても、敵の喉へ噛みつく。
毒針。
爆発の巻物。
生贄の術式。
そうしたものを体内へ隠し、相手が警戒を解く瞬間を待つこともある。
敵を生け捕りにするのは、強者だけに許された行為だ。
圧倒的な力もないのに止めを刺さないのは、自分の背中を敵へ差し出すことと変わらない。
だから俺は、小野寺の影から離れた。
牢の鉄格子と人間の身体が作る影を伝い、音もなくバートの真下へ移動した。
そして、最後の一撃を突き刺した。
反対側では、ルードも地面へ倒れている。
背中から小野寺の長剣に貫かれ、心臓は完全に停止していた。
バートとルードが倒れたことで、牢付近の戦闘はほぼ終わった。
残っているのは、先ほど天城に吹き飛ばされた血月教徒だけだ。
神谷玲司は三種類の元素魔法を使える。
だが、狭い場所では十分な距離を確保できない。
相沢美咲も、負傷した椎名綾音を守る必要があり、全力で援護できなかった。
二人は、どうにか敵を食い止めるだけで精一杯だった。
そこへ天城と小野寺が加わった瞬間、形勢は逆転した。
天城が正面から血月教徒を押し戻す。
小野寺は相手の重心が崩れた隙を突き、側面から腹部へ剣を突き刺した。
血月教徒が膝をつく。
手にしていた折れた鋸刃も、床へ落ちた。
「もういい」
天城が言った。
「そいつは、もう抵抗できない」
「教会へ引き渡す」
小野寺は天城を一度見た。
それから長剣を持ち上げる。
「おい!」
剣先が振り下ろされた。
ズブッ。
血月教徒の首が、真上から貫かれた。
身体が数度痙攣し、血溜まりの中へ倒れる。
周囲が一瞬、静まり返った。
神谷玲司は少し離れた場所に立っている。
手にした短杖には、まだ消え切っていない魔法光が残っていた。
床の死体を見る。
続いて小野寺へ視線を向ける。
その顔に、恐怖や嫌悪はない。
ただ、わずかに目を細めただけだった。
相沢美咲は円盾を抱え、椎名の前に立っている。
刃が肉へ刺さる音を聞いた瞬間、肩が明らかに震えた。
視線が死体へ向かう。
だが、すぐに逸らした。
何も言わない。
ただ、盾を握る手へさらに力を込めていた。
椎名は壁へ背を預けている。
腹部の傷からは、今も淡い緑色の光が漏れていた。
青ざめた顔には、痛みの跡が残っている。
小野寺が剣を引き抜く姿を見ながら、唇をわずかに動かした。
何かを言おうとしたのだろう。
だが、自分の腹へ突き刺さった短剣を思い出したのか。
結局、声を出すことはなかった。
天城の顔が険しくなる。
「止めろと言っただろ」
小野寺は長剣を引き抜き、付着した血を振り払った。
「お前、まだそんなに甘いのかよ」
天城の背後へ視線を向ける。
「教官の話を、全部忘れたのか?」
天城は拳を握り締めた。
「だが、もう降伏していた」
「だから何だ?」
小野寺は鼻で笑った。
「降伏したと言えば、それで十分なのか?」
「演技だったらどうする」
「急に攻撃してきたらどうする」
「それとも、自分が勝ったから、相手を生かすか殺すかまで決められると思ってるのか?」
「お前――」
天城は口を開いた。
だが、それ以上反論しなかった。
小野寺も構う気はないらしく、牢の外に広がる戦場へ向き直った。
影の中にいる俺は、天城を嘲笑わなかった。
小野寺の選択は間違っていない。
だが、天城の考え方にも意味はある。
敵を生け捕りにすれば、情報を得られる。
捕虜を救えば、犠牲を減らせる。
十分な力があるのなら、どちらもより良い選択だ。
俺が以前から考えているとおり――
捕縛と救助は、強者だけに許された権利だ。
天城が選ぼうとしているのは、まさにその道だった。
仲間を守りながら。
敵に対しても、最低限の一線を残す。
そのために、より多くの危険を背負うことになったとしても。
俺に、それを笑う資格はない。
俺と天城は。
最初から、違う道を歩むことになるだけだ。
◇
牢の外では、地下第二層の戦闘が激しさを増していた。
魔法が何度も壁へ衝突する。
砕けた石材と炎が、狭い通路を埋め尽くしている。
血月教団は、明らかに事前から迎撃準備を整えていた。
壁の内部に仕込まれた弩矢。
床へ埋め込まれた起動式の毒霧。
切断された手足を浸していたガラス容器の中にさえ、生者へ襲いかかる錬金生物が潜んでいた。
正面から戦えば、一般信徒ではオースティンの一撃に耐えられない。
だが、彼らは決して正面から戦おうとしなかった。
部屋へ隠れ、魔法道具を操作する者。
死体の下へ潜み、奇襲を待つ者。
撤退中の研究員へ紛れ、神官が近づいた瞬間に自爆する者。
オースティンは常に背後の隊員を守らなければならない。
そのため、本来の速度と力を完全には発揮できずにいた。
前方。
血色の長衣を纏った邪教徒が、石台の陰から飛び出した。
手には、黒く輝く水晶を握っている。
オースティンは一目で見抜いた。
周囲にある血液を爆発させる、祭祀用の魔法道具だ。
付近には、負傷した教会の執行官が数人いる。
水晶を起動されれば、甚大な被害が出る。
邪教徒が黒い水晶を掲げた。
だが、魔力の逆流を受けたのか。
その身体が一瞬だけ硬直する。
隙。
オースティンが床を踏み込んだ。
佩剣を覆う銀白色の光が、一気に強まる。
一撃。
水晶が発動するより早く、腕を切り落とせる。
彼女が飛び出そうとした、その瞬間――
カチリ。
背後の床が突然割れた。
周囲とまったく同じ外見をしていた石板が、下向きに反転する。
暗闇の中から。
すでに弦を引き絞られていた弩矢が、瞬時に射出された。
距離が近い。
速すぎる。
矢尻には、ほとんど見えない血色の光まで纏わりついていた。
オースティンの瞳孔が縮む。
身体が反射的に右へ傾いた。
ズブッ!
背中の中心を狙っていた弩矢が軌道を外れ、左肩を貫通した。
強烈な衝撃により、オースティンの身体が半歩前へよろめく。
佩剣から放たれるはずだった銀白色の斬光も、狙いを逸らした。
黒い水晶を持つ邪教徒は、その隙に部屋の奥へ退避する。
開いた床の下から、黒い手袋をした手が縁を掴んだ。
続けて。
大柄な人影が、隠し通路からゆっくりと姿を現す。
暗赤色の長衣が、床まで垂れている。
胸元には、指の骨で作られた首飾り。
百本を超える、異なる強者たちの指骨。
歩くたびに互いへぶつかり、細かく耳障りな音を立てた。
グレゴリー・バルクは手にしていた弩を捨てた。
肩を射抜かれたオースティンを見つめ、満足げな笑みを浮かべる。
「さすがは教会の【聖契裁判官】」
「この距離からでも、急所を外すとは」
「実に鋭い」
オースティンは肩に刺さった弩矢を掴んだ。
すぐには引き抜かない。
ゆっくりと振り返る。
混乱した戦場を越え。
その視線が、指骨の首飾りへ止まった。
「グレゴリー」
【百指司教】は、両腕を大きく広げた。
待ち望んでいた獲物を迎え入れるかのように。




