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死に戻りは一度きり――「無才」の俺は禁忌の隠し職を手に入れ、クラスメイトの覚醒イベントを先回りする  作者: 夜守灯
王都祭壇編

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第37話 オースティンの決断

教官室には、誰もいなかった。


天城蓮が何度か扉を叩いたものの、返事はない。


通りかかった神官によれば、オースティンは作戦会議に出席しており、いつ終わるかは分からないらしい。


四人は、そのまま扉の前で待つしかなかった。


三十分が過ぎた。


小野寺真也は壁へ背を預け、次第に不機嫌そうな顔になっていく。


「あと、どれくらい待つんだ?」


「もう少し待とう」


天城が答えた。


「それ、もう三回聞いた」


「でも、待つしかないだろ」


小野寺は舌打ちした。


こんなことになると分かっていれば、最初から天城など頼らなかった。


今この瞬間にも、祭壇では何かが起こっているかもしれない。


それなのに自分たちは、馬鹿みたいに廊下へ立ち尽くして時間を無駄にしている。


椎名綾音は長椅子へ腰掛け、閲覧室から持ってきた本を読み続けていた。


相沢美咲も、その隣に静かに座っている。


彼女は、ほとんど一言も話さなかった。


さらにしばらく経った頃。


廊下の向こうから、ようやく足音が聞こえてきた。


オースティンが、早足でこちらへ歩いてくる。


会議を終えたばかりらしく、手には教会の印章が押された書類を何枚か持っていた。


教官室の前で待っている四人を見ると、明らかに意外そうな顔をした。


「お前たち、なぜここにいる?」


天城がすぐに背筋を伸ばした。


「教官。重要な報告があります」


オースティンは四人を見渡した。


最後に、小野寺へ視線を止める。


「中で聞く」


教官室の扉が開かれた。


オースティンは書類を机へ置いた。


自分は椅子に座らず、机の向こう側に立ったまま四人を見る。


「話せ」


天城が、事情を簡潔に説明した。


カラウ通りにある廃業した酒場の話まで来ると、小野寺へ目を向ける。


「詳しいことを見たのは、小野寺です」


小野寺は心の中で悪態をついた。


だが、ここまで来てしまった以上、先ほど作った話をもう一度繰り返すしかない。


怪しい外套姿の男。


廃業した酒場の裏口。


赤い月と、喉を切り裂かれた鹿の紋章。


オースティンは黙って最後まで聞いた。


表情には、ほとんど変化がない。


だが、内心ではすでに判断を下していた。


小野寺は、おそらく嘘をついている。


血月教団が、紋章を見せるだけで拠点へ入れるはずがない。


あまりにも隠密性が低すぎる。


紋章を紛失するか、偽造されれば、誰でも簡単に内部へ潜り込めてしまう。


本物の地下教団が使うのは、合言葉。


決められた動作。


あるいは、頻繁に変更される身分確認の方法だ。


まして、ここは王都内部にある拠点。


他の場所以上に警戒しているはずだった。


ただし、小野寺がカラウ通りに血月教団の拠点があると知っていることは事実だ。


廃業した酒場の位置まで、正確に言い当てている。


そのこと自体が、彼の嘘よりも重要だった。


どこで情報を手に入れた?


なぜ、その入手経路を隠す?


オースティンは、すぐには指摘しなかった。


作戦開始は目前だ。


今は、小野寺を問い詰める時間ではない。


任務が終わってから、ゆっくり調べればいい。


「分かった」


オースティンが言った。


「重要な情報だ」


小野寺は、胸の内で安堵した。


どうやら、誤魔化せたらしい。


だが、天城はそれで終わらせなかった。


一歩前へ出る。


「教官」


「まだ何かあるのか?」


天城は短く迷ったあと、口を開いた。


「その場所の調査を、俺たちに任せてもらえませんか?」


教官室が静まり返った。


小野寺が勢いよく天城を見る。


その目に、初めて露骨な驚きが浮かんだ。


こいつは、ついさっきまで勝手に動くことへ反対していた。


それなのに今度は、自分から任務を引き受けたいと言い出した。


オースティンも、わずかに意外そうな顔をした。


「理由は?」


「俺たちには、実戦経験が必要です」


天城は真剣な表情で答えた。


「このところ、ずっと訓練を続けてきました」


「教会が用意した魔獣と戦ったこともあります」


「でも、その戦闘には必ず神官や騎士が付き添っていました」


「少しでも危険になれば、訓練はすぐに止められます」


天城は拳を握った。


「俺たちがこの世界へ来て、もうすぐ三か月です」


「それなのに、レベルは思ったほど上がっていません」


「このままでは教会を出たあとも、王国から与えられた役目を本当に果たせないと思います」


椎名が天城を見た。


彼女も、天城が自分からそんなことを言い出すとは思っていなかったようだ。


天城は続けた。


「今すぐ俺たちだけで中へ突入させてほしい、という意味ではありません」


「でも、せめて調査には参加させてください」


「あるいは、教会の監督下で、任務の一部を担当させてもらえませんか」


「俺たちは、本物の敵と向き合い始める必要があります」


オースティンは、すぐには答えなかった。


目の前にいる生徒たちを見ながら、考える。


カラウ通りの拠点は、すでに教会が確認している。


先ほどの会議で話し合っていたのも、今夜の掃討作戦についてだった。


そして、作戦の指揮官はオースティン自身だ。


当初の計画に、異界人を参加させる予定はなかった。


彼らの訓練は、まだ終わっていない。


だが、天城の言葉によって、一つの事実を思い出した。


あと三日。


三か月にわたる集中訓練は、それで終了する。


その後、召喚された生徒たちは王都を離れることになる。


辺境へ送られる者。


教会や冒険者ギルドへ所属する者。


貴族の部隊へ加わり、王国各地で任務を行う者。


彼らは、間もなく本当の意味でこの世界へ足を踏み入れる。


率直に言えば、オースティンは不安だった。


異界人の教官を務めるのは、今回が初めてではない。


異界人は、総じて高い天賦を持つ。


成長速度も、一般的な職業者を大きく上回る。


だが、共通する問題があった。


あまりにも甘い。


魔獣とは戦ったことがある。


だが、人間と本気で殺し合ったことはない。


魔獣は本能に従って動く。


人間は嘘をつく。


待ち伏せをする。


命乞いをする。


裏切る。


仲間の背後へ隠れる。


老人や子供を盾として使う。


武器を捨てたあと、相手が油断した瞬間に喉を切り裂く。


人間こそ、この世界で最も狡猾で、残酷な生き物だ。


過去の異界人たちも、多くは強大な敵に殺されたわけではなかった。


他人を信じすぎて死んだ。


迷って死んだ。


最後の瞬間まで、他者を傷つける覚悟を持てずに死んだ。


どれほど高い天賦があっても、この欠点を補うことはできない。


カラウ通りの標的は、事前調査によれば第二級拠点【祈祷所(きとうしょ)】にすぎない。


少数の責任者を除けば、一般信徒のレベルは10前後。


生徒たちの現在のレベルと、それほど大きな差はない。


だが、血月教団の信徒は、訓練のように手加減などしてくれない。


間違いなく危険な任務だ。


しかし同時に、最初の実戦訓練としては最適かもしれない。


何より――


今回の作戦を指揮するのは自分だ。


あらかじめ生徒たちの配置を決め、接触する敵を制限しておけば、危険が制御できなくなる前に介入できる。


オースティンは天城を見た。


続いて、小野寺、椎名、相沢へ視線を移す。


そして最後に、わずかに笑った。


「実は、カラウ通りの場所については、すでに確認が取れている」


四人が同時に固まった。


「あそこには、実際に血月教団の拠点が存在する」


オースティンは続けた。


「そして、教会は間もなく掃討作戦を開始する」


天城は呆然とした。


小野寺の表情も固まっている。


自分たちがあれこれ相談していたというのに。


教会は、とっくに知っていた?


小野寺は、力いっぱい拳を振ったのに空を切ったような気分になった。


天城は、明らかに肩の力を抜いた。


「もう見つけていたんですね……」


「ああ」


オースティンは机の上に置いた作戦書類を手に取った。


「だから、調査任務をお前たちへ任せることはできない」


天城は俯いた。


「分かりました」


次の瞬間。


オースティンは言葉を続けた。


「ただし――」


四人が、もう一度彼女を見る。


「お前たちも、掃討作戦へ参加するか?」


天城は一瞬、言葉を失った。


すぐに、その目が輝く。


「参加します!」


ほとんど迷うことなく答えた。


オースティンは、その興奮した表情を見て、口元をわずかに持ち上げた。


「よし」


「なら、準備をしてこい」


「今夜が、お前たちにとって本当の意味での初実戦になる」


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