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死に戻りは一度きり――「無才」の俺は禁忌の隠し職を手に入れ、クラスメイトの覚醒イベントを先回りする  作者: 夜守灯
王都祭壇編

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第31話 ドーンとの取引

ドーンの言葉を聞き、俺はわずかに安堵した。


やはり、頭の切れる人間との会話は楽だ。


遠回しに探り合う必要もない。


情報にどれほどの価値があるのか、一から説明する必要もない。


十分な根拠さえ示せば、相手は自ら取引の席へ着く。


正直に言えば、俺も先ほどまでは気が気ではなかった。


目の前にいるのは、レベル72の【夜行者(やこうしゃ)】だ。


俺とドーンの実力差は、策略や不意打ちで埋められるようなものではない。


その気になれば、俺が【影潜行(かげせんこう)】を発動するより早く、簡単に取り押さえられる。


宝を持つ者は、それだけで災いを招く。


知りすぎていること自体が、一つの危険なのだ。


それでも俺が真理協会の情報を明かしたのは、一度目の人生でドーンの人間性を知っていたからだった。


彼は貴族や闇市の商人から、価値のある魔法道具を盗む。


その一方で、金を払えない貧しい者へ、それらをただ同然の値段で売ることも多かった。


灰煙には、ドーンが流した解毒薬や治療の巻物によって助かった者が少なくない。


その多くは、自分を救った人間が誰なのかさえ知らなかった。


何より、俺が見せたのは情報だ。


今すぐ奪い取れる宝物ではない。


俺を殺しても、頭の中にある秘密が自動的にドーンへ移るわけではない。


どうやら。


賭けには勝った。


「俺が知っていることは、あなたが考えているほど多くない」


俺は言った。


ドーンは口を挟まなかった。


「ただ、北方の辺境都市セグランにある錬金術師協会を調べてみるといい」


「セグラン?」


ドーンがわずかに眉を寄せる。


「あそこの錬金術師協会は、ただの地方支部だろう」


「表向きはな」


俺は答えた。


「第一次神戦のあと、北方の辺境へ逃れた錬金術師たちがいた」


「セグランが建設されたのも、ちょうどそのあとの時代だ」


「真理協会が何かを残しているとすれば、王都本部より、セグラン支部の地下倉庫のほうが価値を持っている可能性がある」


俺は、そこで言葉を止めた。


セグランは、もともと俺が次に目指す場所でもある。


今後数か月のうちに、あの辺境一帯では複数の迷宮暴走が立て続けに発生する。


そのうちの一つ、灰骨迷宮(はいこつめいきゅう)には、職業者の運命を変えるほどの秘密が隠されていた。


一度目の人生で、神谷玲司が一気に頭角を現したのも、あの場所だ。


だが、それをドーンへ教える必要はまだない。


一つの方向を示すだけで、最初の取引材料としては十分だった。


ドーンは俺を見たまま、すぐには口を開かなかった。


数十年にわたって情報を扱ってきた商人だ。


今の言葉が何を意味するのか、理解できないはずがない。


俺が知っているのは、これだけではない。


それでも続きを語らなかった。


自分から値段を提示することもない。


まず価値のある手がかりを一つだけ取引の卓上へ置き、その対価をドーン自身に判断させる。


一見すれば、気前よく情報を差し出したようにも見える。


だが実際には、取引の主導権を俺が握っていた。


ここでドーンが意味を理解していないふりをして、金貨を数枚だけ投げ渡すか、そのまま立ち去るのなら。


今後、真理協会に関する情報は一つたりとも手に入らない。


そもそも、セグランについて語った情報がどこまで完全なのかも、ドーンの態度次第だった。


ドーンは堪えきれないように笑った。


「本当に狡猾な小僧だ」


俺は否定しなかった。


「一つの方向を示しただけだ」


「ああ、そうだな」


ドーンは頷いた。


「その方向が、どれだけの価値を持つのかは、わざと教えずにな」


彼は怒っていなかった。


むしろ、どこか嬉しそうですらある。


ドーンは肩に掛けていた外套へ手を伸ばした。


濃い色をした、丈の短い外套。


表面には何の模様も見えない。


だが薄暗い室内では、周囲の光を自ら吸い込んでいるかのように見えた。


ドーンはそれを外し、俺へ放り投げた。


俺は手を伸ばさなかった。


外套は二人のあいだの床へ落ちる。


「報酬はいらない」


高位の装備には、たいてい最低レベルや能力値、場合によっては職業の条件まで設定されている。


今の俺では、ドーンが差し出せる本当に価値のある道具の大半を使えないだろう。


装備できたとしても、魔力が足りず、本来の性能を引き出せない可能性が高い。


金貨も適切ではなかった。


俺は今も、教会の監視下にある異界人だ。


短期間で出所不明の大金を手に入れれば、間違いなく調査される。


安全に使えない金など、路傍の石と変わらない。


そして、何より重要なのは――


十分な価値を持つ報酬を受け取れば、この取引はそれで清算される。


ドーン本人との繋がりは、一つの装備や金貨の袋などより、遥かに価値がある。


目先の利益と引き換えに、今後も協力できる可能性を捨てるつもりはなかった。


ドーンは、床に落ちた外套へ目を向けた。


「誰が報酬だと言った?」


「では、何だ?」


「投資だ」


ドーンは笑った。


「効果くらい、先に確かめてみたらどうだ?」


俺は、それでも動かなかった。


ドーンも、俺が外套を拾うのを待たなかった。


次の瞬間、その身体が闇へ沈む。


気配が一瞬で消失した。


部屋に残されたのは、床に落ちた外套と、壁際で気絶している血月教団の信徒だけ。


背後の影から、ドーンの声が響いた。


「小僧。お前が今夜、何をするつもりなのかは知らん」


「だが今夜に限り、俺がお前の後ろを守ってやる」


俺の目が、わずかに動いた。


「ただし、手を出すのは、お前が死にかけたときの一度だけだ」


「覚えておけ」


影が完全な静けさを取り戻す。


ドーンの最後の言葉も、それとともに消えていった。


「一度だけだ」



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