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死に戻りは一度きり――「無才」の俺は禁忌の隠し職を手に入れ、クラスメイトの覚醒イベントを先回りする  作者: 夜守灯
王都祭壇編

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第30話 真理の代価

無垢の涙(むくのなみだ)】。


もちろん、俺はそれが何なのか知っている。


伝承によれば、それは世界で最初の聖女が、死の間際に流した涙だという。


その涙は大地へ落ちることなく、神の光の中で結晶へ変わった。


そして、この世に存在するあらゆる穢れを洗い清める。


猛毒。


呪い。


病。


さらには、神によって刻まれた侵蝕さえも。


吟遊詩人も教会の聖典も、そうした表現を好んで使う。


だが、それは幾度となく改変され、現代まで伝わった物語にすぎない。


【無垢の涙】は、聖女の涙などではなかった。


真理協会(しんりきょうかい)が生み出した、最高位の実験成果の一つだ。


真理協会。


第一次神戦よりも以前から存在していた、古代の組織。


食淵教団や血月教団とは異なり、彼らはいかなる神も信仰しなかった。


神へ祈らない。


神託を受け入れない。


世界に存在するすべてが、神々の恩恵によるものだとも考えない。


彼らが信奉していたものは、ただ一つ。


真理(しんり)】。


真理協会にとって、神とは、より高次の知識と力を手にした生命体にすぎなかった。


神術は解析できる。


権能は複製できる。


魂は分解できる。


神そのものさえ、まだ研究が完了していない実験対象の一つでしかない。


そんな思想が、知識と星図を司る神オルドランの怒りを買わないはずがなかった。


第一次神戦が終わったあと、真理協会は徹底的に破壊された。


その名は歴史から消された。


研究施設は教会によって焼き払われ、生き残った構成員たちも、数十年にわたって追跡された。


もっとも、真理協会も、伝説で語られるほど無実の組織ではない。


現代に存在する危険な魔獣の多くは、もともと彼らの研究施設から生まれたものだ。


複数の魔獣の特徴を融合させた合成獣(キメラ)


魂を持たずとも自律して動く魔像(ゴーレム)


生きた人間の血肉を材料として作られた人工生命。


現在では自然災害の一種として扱われている異常種族の中にも、最初は実験に失敗し、施設から逃げ出しただけの個体が存在する。


【無垢の涙】も、彼らが生み出したものだった。


単なる解毒薬ではない。


生命体に入り込んだ『異物』を識別し、分離することのできる、最高位の錬金術生成物。


毒素。


呪い。


体内へ侵入した神力。


それが本来の生命に属さないものだと判断されれば、強制的に切り離される。


真理協会が存在していた時代でさえ、【無垢の涙】は極めて希少な宝だった。


現代で一つ見つけるなど、ほとんど不可能だ。


一年後を待たない限りは。


第一次神戦で消滅したはずの真理協会が、再び姿を現すその時まで。


もちろん、俺はこれらすべてをドーンへ教えるつもりはなかった。


「ここに【無垢の涙】はない」


俺は端的に告げた。


ドーンが、わずかに目を見開く。


「なぜだ?」


「食淵教団のものではないからだ」


俺は彼を見た。


「【無垢の涙】は、真理協会が作った宝だ」


「現存しているかどうかはともかく、【暴食】に仕える祭壇へ保管されているはずがない」


ドーンの表情が、初めて完全に固まった。


祭壇の起動条件を聞いたときも驚いてはいた。


それでも、最低限の冷静さは保っていた。


だが今回は、長いあいだ俺を凝視したまま動かなかった。


「確かなのか?」


「確かだ」


俺は少しも迷わず答えた。


ドーンが目を細める。


「証拠は?」


「錬金術師が使う入門書を調べればいい」


「そのほとんどに、伝説上の錬金道具――【賢者の石(けんじゃのいし)】について記されている」


ドーンは何も言わなかった。


俺は続ける。


「現代の錬金術師は、物質を変換し、寿命を延ばし、あらゆる毒を浄化する万能の結晶だと説明している」


「だが第一次神戦以前、それは【無垢の涙】と呼ばれていた」


「現代の錬金術体系も、何もないところから突然生まれたわけではない」


「最初期の錬金工房を設立したのは、真理協会から分かれた残存勢力だ」


「錬金術師協会とは、真理協会が分裂し、名を変え、自ら牙を抜いた末に残った後継組織にすぎない」


ドーンの顔から、笑みが完全に消えた。


すぐには反論しなかった。


彼自身の調査で得た手がかりと一致していたからだ。


真理協会の存在を、ドーンが確認したのも最近のことだった。


関係する記録を探すため、彼は錬金術師協会の本部へ潜入した。


七重の結界を突破。


二人の高位錬金術師を避け、地下の金庫を三晩にわたって調べ続けた。


そして最後に、一冊の古代写本から『真理協会』という名称を発見した。


その写本が証明していたのは、現代錬金術と、ある古代組織とのあいだに繋がりがあるということだけ。


【無垢の涙】が真理協会の所有物だったのかどうかまでは、明確に記されていなかった。


ドーンは何年も調査を続け、それでも推測することしかできなかった。


だが、目の前の少年は断言した。


迷いもない。


こちらの反応を探る様子もない。


まるで、歴史の闇に埋められた秘密ではなく、誰もが知る当然の常識であるかのように。


当然、ドーンも数言聞いただけで、すべてを信じたわけではない。


それでも、真理協会の名を知っている。


錬金術師協会との関係まで理解している。


それだけで、一つの事実は十分に証明された。


もはや朝倉悠真を、転職したばかりのレベル1初心者として扱うことはできない。


レベルや戦闘力だけでは、この少年が持つ本当の価値を測れない。


情報の取引において、他人が知らない秘密を握っていること自体が力となる。


ドーンは目の前の少年を見つめた。


そして初めて、俺を自分と対等な位置へ置いた。


一瞬、別の考えが浮かばなかったわけではない。


捕らえる。


灰煙へ連れ帰る。


薬物、幻術、拷問。


使える手段をすべて使い、この少年が知る秘密を吐き出させる。


レベル72の【夜行者(やこうしゃ)】にとって、レベル1の職業者を制圧することなど容易い。


だが、その考えは一瞬で消えた。


ドーンの直感が告げていた。


目の前の人間は、痛みや死への恐怖で口を開くような人間ではない。


強引に審問したところで、何も得られない可能性が高い。


それどころか、貴重な情報源を自ら壊すことになる。


今のところ、二人の関係も悪くない。


朝倉悠真の実力は弱い。


だが、その成長速度は異常だった。


数個の情報を奪うために今ここで完全に敵対するより、取引関係を維持したほうがいい。


十分な代価さえ払えば、いつか少年の口から、さらに多くの秘密を買えるはずだ。


ドーンは突然笑った。


「まったく、情けない話だ」


「これほど長く情報を商ってきたというのに」


首を横へ振る。


「最後には、十七歳の小僧より物を知らないときた」


「年齢と、持っている情報の量に必然的な関係はない」


「それもそうだな」


ドーンは再び顔を上げた。


その目からは、先ほどまでの探るような色が消えていた。


残っているのは、貴重な商品を前にした商人の真剣さだけ。


「値をつけろ」


「お前が知っている真理協会の情報を、すべて俺に売れ」


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