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死に戻りは一度きり――「無才」の俺は禁忌の隠し職を手に入れ、クラスメイトの覚醒イベントを先回りする  作者: 夜守灯
王都祭壇編

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第29話 ドーンの目的――【無垢の涙】

「それで」


ドーンは壁へ背を預け、俺を見た。


「お前は何をしに、ここへ来た?」


俺は答えなかった。


血月教団の上使を装い、危険を冒してこの拠点へ潜入したのだ。


グレゴリーへ情報を届けるためだけに来たはずがないことくらい、ドーンにも分かっている。


だが、祭壇と【貪欲の口(どんよくのくち)】について、誰かに話すつもりはなかった。


少なくとも、今はまだ。


ドーンはしばらく待った。


俺が口を開かないと分かると、それ以上追及しなかった。


「まあ、いい」


「誰にだって、話せない事情の一つや二つはある」


意外ではなかった。


ドーンは闇市の商人にしか見えないが、他人へ無理に秘密を吐かせることは少ない。


彼が好むのは、観察することだ。


そして、自分で答えを導き出す。


一度目の人生において、ドーンは生涯をかけて旧神の痕跡を追い続けていた。


古代遺跡。


失われた祭壇。


教会が封印した第一次神戦の記録。


旧神に関係する場所なら、どこに彼が姿を現しても不思議ではなかった。


後には、それも公然の秘密となっている。


だが、ドーンが死ぬまで、俺は彼がそこまで執着する理由を知らなかった。


力のためか。


知識のためか。


それとも、旧神の遺物にしか解決できない問題を抱えていたのか。


理由が何であれ、今夜、この場所で目的のものを手に入れるのは難しいだろう。


この拠点で本当に旧神と関係しているのは、地下にある祭壇だけだ。


血月教団が長期間調査しても、起動方法さえ発見できていない。


ドーンが知っている可能性も低かった。


俺は、部屋の隅に倒れている黒衣の男へ目を向けた。


百指司教グレゴリー。


レベル49。


さらに、間もなくオルドラン教会がこの場所へ攻め込んでくる。


今夜のカラウ通りは、当初の予想より遥かに危険な場所になっていた。


影潜行(かげせんこう)】と数本のMP回復薬だけで祭壇へ入り、無傷で脱出できるという確信はない。


だが、ドーンが手を貸してくれるなら、話はまったく変わる。


レベル72の【夜行者(やこうしゃ)】。


彼が協力するなら、グレゴリーなど脅威にすらならない。


そしてドーンは、明らかに旧神に関係する何かを求めている。


俺が持つ情報は、取引材料として最適だった。


「地下の祭壇は、まだ使用できる」


俺は不意に言った。


ドーンの顔から、笑みが消えた。


「何だと?」


「機能を失ってはいない」


「血月教団の方法が間違っているから、何の反応も示さないだけだ」


ドーンは俺を凝視した。


俺は平静な口調で続ける。


「食淵教団が仕えていた【暴食(ぼうしょく)】は、すでに世界の外へ追放されている」


「それでも、祭壇そのものは今も動く」


室内が静まり返った。


ドーンの目から、先ほどまでの気怠さが完全に消えている。


「起動条件は?」


「血液と魂」


「それだけか?」


「それは最初の条件にすぎない」


俺は言った。


「残りは、今は教えられない」


ドーンは怒らなかった。


俺が祭壇を使用できると知っている。


それが食淵教団のものだと理解している。


さらに起動条件の一部まで把握している。


普通に調査した程度で得られる情報ではない。


最も可能性が高い情報源は、やはり教会内部だ。


「オルドラン教会は、そこまで調査を進めていたのか……」


ドーンが低く呟いた。


俺は訂正しなかった。


そう思わせておくほうが、こちらにとって都合がいい。


「次は、そちらの番だ」


俺は尋ねた。


「なぜ、ここへ来た?」


ドーンは、すぐには答えなかった。


俺を見つめたまま、この情報が自分の秘密を明かすだけの価値を持つか、見定めているようだった。


長い沈黙のあと。


ようやく、ゆっくりと口を開く。


「ある物を探している」


「何だ?」


「古代の記録にしか残っていない、解毒の道具だ」


ドーンはわずかに間を置いた。


「どのような毒であろうと、浄化できると言われている」


「錬金術で作られた毒薬」


「魔獣の猛毒」


「そして――神の力による侵蝕さえも」


俺はわずかに目を細めた。


神の力による侵蝕。


その言葉だけで、ドーンが解こうとしているものが、普通の毒ではないと分かる。


毒を受けているのがドーン本人なのか。


それとも、別の誰かなのか。


今の時点では判断できなかった。


俺も追及はしない。


ここまで自ら明かした時点で、十分な誠意を示している。


「その道具の名は?」


「【無垢の涙(むくのなみだ)】だ」



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