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死に戻りは一度きり――「無才」の俺は禁忌の隠し職を手に入れ、クラスメイトの覚醒イベントを先回りする  作者: 夜守灯
王都祭壇編

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第17話 目には目を、歯には歯を

辺りは、静まり返っていた。


先ほどまで(はや)し立てていた通行人たちは、誰一人として口を開かない。


神谷は、崩れ落ちた土壁のそばに倒れていた。


白い礼装(れいそう)には雷撃(らいげき)による焦げ跡が何本も走り、身体は今も小刻みに痙攣(けいれん)している。


小野寺は、自分の右手を見下ろした。


神谷を正面から吹き飛ばした感触が、まだ(てのひら)に残っている。


本当に勝った。


あの神谷玲司を、自分が倒した。


そのとき、耳元で低い声が再び響いた。


(われ)が今回、目覚めていられる時間も残りわずかだ」


小野寺は、はっと我に返った。


「待ってくれ! あなたは一体――」


「今夜、鐘が三度鳴るまでは眠るな」


俺は、小野寺の問いには答えなかった。


「その時、我は再び目覚める」


そこで、声を途切れさせた。


「おい?」


小野寺は心の中で呼びかけた。


返答はない。


「まだいるのか?」


やはり、何も聞こえなかった。


その頃には、俺はすでに人々の足元で重なり合う影を伝い、誰にも気づかれずに通りを離れていた。


小野寺は、あの声がどこから聞こえていたのか知らない。


分かっているのは、声の主がほんの短いあいだ目覚め、自分が神谷を倒すのを助けたことだけだった。


金を要求されなかった。


信仰も求められなかった。


何の代償も要求されていない。


これは間違いなく、自分だけに与えられた好機だ。


雷霆聖痕(らいていせいこん)】に宿る意思なのかもしれない。


天賦(てんぷ)の覚醒とともに目覚めた、古代の強者なのかもしれない。


相手の正体が何であろうと――。


それは、自分を選んだのだ。


小野寺はゆっくりと顔を上げた。


周囲にいる者たちの表情は、先ほどまでとは完全に変わっている。


嘲笑(ちょうしょう)していた通行人たちは、今では目を見開き、小野寺を凝視していた。


「やっぱり、S+って本当にすごいんだな……」


「さっきまでは、相手の様子を見ていただけだったのか?」


「最後の一撃なんて、相手は防御する暇もなかったぞ」


「最高評価は伊達(だて)じゃないってことか」


その言葉を聞くたび、小野寺の胸は熱くなっていった。


つい先ほどまで自分を笑っていた者たちが、今では目を合わせることすら避けている。


三枝拓真(さえぐさたくま)久世直哉(くぜなおや)も、その場で凍りついていた。


二人の表情は、周囲の通行人たちよりも見応えがあった。


ほんの数分前、三枝は小野寺を役立たずだと笑っていた。


久世もいつもどおり、その隣で何事も起きていないような顔をしていた。


今では、二人とも何も言えない。


たまらなく気分がよかった。


これまで自分を好き勝手に扱ってきた人間を、自分の力で倒した。


力を持つというのは、こういうことなのか。


小野寺は歩き出し、神谷の前まで来た。


神谷は、わずかに意識を取り戻したらしい。


歯を食いしばり、両腕で身体を起こそうとしている。


小野寺は片足を持ち上げ、神谷の胸を強く踏みつけた。


鈍い音が鳴る。


神谷の身体が、再び地面へ倒れ込んだ。


「小野寺……」


神谷が(かす)れた声を絞り出す。


「足をどけろ」


小野寺は動かなかった。


それどころか、ゆっくりと足へ体重をかけていく。


「さっきまで、随分と威勢がよかったよな?」


神谷を見下ろしながら、小野寺は言った。


「役立たず?」


「天賦だけは立派?」


「戦い方も知らない?」


「それで、今地面に転がってるのは誰なんだ?」


神谷は歯を強く噛みしめた。


小野寺を引き裂こうとするような目で睨みつけている。


だが、身体に残った雷が腕を何度も痙攣させ、起き上がることができない。


その姿を見て、小野寺の笑みはさらに深くなった。


これまで自分を踏みつけ、命令し、ゴミのように扱ってきた人間が、今は足元に横たわり、自分を睨むことしかできない。


「どうした?」


「Aランクは強いんじゃなかったのか?」


「立ってみろよ」


ついに、三枝拓真が黙っていられなくなった。


「お、おい小野寺。もうそのくらいでいいだろ?」


小野寺が振り返る。


それだけで、三枝の声は一段小さくなった。


「もう勝負はついたんだ。これ以上やったら、本当にまずいことになるぞ」


久世直哉も、半歩だけ前へ出た。


「みんな同じクラスなんだ。ここまでする必要はないだろ?」


「同じクラス?」


小野寺は、冗談でも聞いたように笑った。


「さっき神谷が俺の手を踏んでいたときは、どうして何も言わなかったんだ?」


三枝の顔が引きつった。


「あのときとは、状況が違うだろ」


「何が違うんだ?」


小野寺は右手を持ち上げた。


指先から、細い電弧(でんこ)が跳ねる。


「俺がやりすぎだと思うなら、止めてみろよ」


「俺と戦えばいい」


三枝は反射的に一歩後退した。


久世も、その場で足を止める。


二人の反応を見て、小野寺は思わず笑い声を漏らした。


以前なら、二人に睨まれただけで何も言えなくなっていた。


今は、ほんのわずかに雷を見せただけで、向こうが前へ出られない。


力。


力さえあれば、誰もが大人しくなる。


そのとき、人垣(ひとがき)の外側で騒ぎが起こった。


「道を空けろ!」


「教会の人間が来たぞ!」


野次馬たちは、すぐに左右へ分かれた。


近づいてくる教官の姿を見た瞬間、小野寺の笑みがわずかに固まる。


さすがに、教官の前で神谷を踏み続ける度胸まではなかった。


小野寺はすぐに足を引き、半歩後ろへ下がる。


それでも神谷のそばに立ったまま、謝罪する気配はまったく見せなかった。


教官は人垣の間を通り抜けた。


地面に散らばる石片。


黒く焦げた壁。


そして倒れている神谷を一瞥(いちべつ)する。


だが、すぐに誰かを問い詰めることはなかった。


まっすぐ神谷のそばへ向かい、片膝(かたひざ)をつく。


最初に呼吸を確認する。


次に首筋へ指を当て、(みゃく)を測る。


さらに胸部(きょうぶ)肋骨(ろっこつ)を順番に押し、傷の状態を調べた。


天城蓮(あまぎれん)も、足早に駆け寄ってきた。


まず目に入ったのは、神谷の胸元に残された鮮明な靴跡(くつあと)だった。


続いて、すぐそばに立つ小野寺を見る。


その顔が、たちまち険しくなった。


「小野寺」


天城は低い声で言った。


「玲司に謝れ」


小野寺は、聞き間違えたような顔をした。


「何だって?」


「戦いは、もう終わっていた」


天城は怒りを抑えながら続けた。


「玲司が意識を失ったあとも、お前は胸を踏みつけた。これだけ大勢の前で、さらに(はずかし)めた」


「それまでに何があったとしても、やりすぎだ」


「今すぐ、玲司に謝れ」


小野寺は、数秒間じっと天城を見つめた。


やがて、声を上げて笑った。


「お前は、やっぱり昔から何も変わってないな」


天城が眉をひそめる。


「どういう意味だ?」


「いつも、全部終わってから現れて、誰かに謝れって言う」


小野寺の笑みが、少しずつ消えていった。


「元の学校にいたときも、そうだった」


「神谷たちが俺をいじめていたとき、どうして神谷に謝らせなかった?」


「俺の教科書をゴミ箱へ捨てたときは?」


「俺を(ひざまず)かせて、散らばった物を拾わせたとき、お前はどこにいた?」


「連中が遊び飽きたあとになってから、『みんな同じクラスなんだから、あまりやりすぎるな』って言いに来ただけだろ」


「今は神谷が俺に負けた途端、すぐに出てきたな」


天城の表情が、わずかに揺れた。


「俺は、そんなことがあったとは知らなかった」


「知らなかった?」


小野寺の声が、急に大きくなる。


「お前、クラス委員だっただろ!」


「何でも見えていて、どんな問題でも解決できるような顔をするのが好きだったじゃないか!」


「それとも、いじめられてるのが俺なら、見えないふりをしてもよかったのか?」


周囲にいたクラスメイトたちは、誰も口を開かなかった。


三枝は視線を逸らす。


久世も何も言わない。


天城は拳を強く握りしめた。


「過去にそういうことがあったとしても、それは今、玲司を辱めていい理由にはならない」


「お前がいじめられていたからといって、今度は同じことをしていいわけじゃない」


「だから、謝れと言っている」


「正しい人間みたいな顔をするな!」


小野寺の全身から、雷光が弾けた。


「俺は昔から、お前のそういうところが大嫌いだった!」


「何にでも口を出して、自分だけが正しいみたいな顔をする!」


「神谷が俺をいじめていたときは、知らなかった!」


「今、俺が神谷に勝ったことは、全部見えているんだな!」


天城が一歩前へ出た。


「俺が今見ているのは、抵抗できない人間をお前が一方的に痛めつけていた姿だ」


「そんなものを、勝利とは呼ばない」


小野寺の顔が、一瞬で醜く歪んだ。


「黙れ!」


「同じS+なのに、どうしてお前ばかりが特別扱いされるんだよ!」


「神官たちはお前の周りに集まる!」


「教官も、最初にお前へ聖器(せいき)の使い方を教えようとする!」


「誰もが、お前こそ一番強いと思っている!」


小野寺は右手を持ち上げた。


青紫色の電弧が、五本の指の間で激しく跳ねる。


「そんなに俺を説教したいなら、お前も俺と戦え!」


「お前まで倒せば、全員に分からせられる」


小野寺の口元が吊り上がった。


「一番強いのは、俺だってな!」


天城の目つきも冷たくなった。


「戦わなければ冷静になれないというのなら――」


「いい加減にしろ」


教官の声は、決して大きくなかった。


それでも、小野寺と天城の身体は同時に固まった。


そこでようやく、二人は気づいた。


神谷のそばに跪いていた教官は、すでに傷の確認を終えている。


教官はゆっくりと立ち上がった。


右手を腰の剣へ添える。


親指で、(つば)をわずかに押し上げた。


澄んだ金属音が響く。


銀白色の刃が、(さや)からほんのわずかに姿を現した。


たったそれだけで、周囲の空気が凍りついたように重くなる。


小野寺を覆っていた雷光が、激しく揺れた。


意識よりも先に、身体が危険を察知したのだ。


教官の視線が、小野寺と天城を順番に射抜く。


「私を相手にしなければ、止まれないのか?」


小野寺の顔から、高揚が急速に消えていった。


目の前にいるのは、教会で基礎訓練を担当していた普通の神官ではない。


上級職(じょうきゅうしょく)――聖契裁判官(せいけいさいばんかん)


オースティン・レイヴン。


レベル――46。


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