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死に戻りは一度きり――「無才」の俺は禁忌の隠し職を手に入れ、クラスメイトの覚醒イベントを先回りする  作者: 夜守灯
王都祭壇編

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第14話 跳ね上がる成長適性!

転職(てんしょく)は、一瞬で完了した。


特別な現象は何も起こらなかった。


痛みすら感じない。


心臓から冷たい気配が広がり、血管に沿って四肢(しし)の隅々まで流れていく。


そして最後には、足元の影へ静かに沈んだ。


直後、身体が突然軽くなった。


弱くなったわけではない。


むしろ、その逆だった。


関節。


筋肉。


一度一度の呼吸さえも、今までにないほど滑らかに動く。


これまでは意識して制御しなければならなかった動作も、今では思っただけで身体が自然についてきた。


この感覚は、一度目の人生で戦士(せんし)へ転職したときとは、まるで違う。


あのときは、転職直後から一晩中、高熱に苦しめられた。


骨を一度ばらばらにして、無理やり組み直されたようだった。


全身の筋肉が何度も痙攣(けいれん)し、翌朝には腕を持ち上げることすらできなかった。


教官は、肉体が戦士の力へ適応しているのだと説明した。


だが、今にして思えば、あれは適応などではなかった。


俺の身体が、最初から戦士という職業に向いていなかっただけだ。


影渡り(かげわたり)】は違う。


この職業は、俺を無理やり別の人間へ作り変えようとはしなかった。


必要のない部分を削ぎ落とし、残ったすべてを、俺に最も適した方向へ導いただけだ。


淡い青緑色の文字が、目の前に浮かび上がった。


【転職が完了しました】


主職業(しゅしょくぎょう):【影渡り】】


成長適性(せいちょうてきせい):4→13】


俺の呼吸が、一瞬止まった。


十三。


一度の転職で、九ポイントも上昇している。


職業によって成長適性が変化すること自体は珍しくない。


だが、初級職(しょきゅうしょく)への転職で上昇するのは、通常なら一から三ポイント程度だ。


一度目の人生で戦士になったとき、俺の成長適性は4から6へ上がった。


たった二ポイント。


それでも、一般的な冒険者の成長速度へ追いつくまで、長い時間が必要だった。


だが今回は、一気に13まで上昇した。


天城蓮(あまぎれん)の48や、小野寺真也(おのでらしんや)の42には遠く及ばない。


それでも、一般的な冒険者の大半を上回る数値だ。


少なくとも今日からは、数十回練習しても他人の一回分にすら及ばない、あの出来損ないではなくなる。


俺は、その下へ視線を移した。


転職時能力補正結果てんしょくじのうりょくほせいけっか


筋力(きんりょく) STR:7→3

敏捷(びんしょう) DEX:16→24

体質(たいしつ) CON:7→4

知力(ちりょく) INT:16→21

精神(せいしん) WIS:28→35

魅力(みりょく) CHA:5→6


【習得済みスキル】


・【暗影初級習熟あんえいしょきゅうしゅうじゅく】Lv.1

・【暗殺(あんさつ)】Lv.1


筋力3。


体質4。


覚悟していたとはいえ、実際にその数字を目にすると、俺の目元がわずかに引きつった。


この身体では、同レベルの戦士から正面攻撃を受ければ、二撃目を待つまでもなく死ぬ可能性が高い。


だが、その一方で――。


敏捷24。


知力21。


精神35。


俺は手を握り、何度か開いた。


筋力は大幅に下がったはずなのに、弱くなった感覚はない。


むしろ、二年間も着込み続けていた重い鎧を、ようやく脱ぎ捨てたようだった。


袖が皮膚を擦る感触。


遠くで車輪が石畳を踏む音。


壁際の影が、灯火の揺れに合わせて形を変える、ほんのわずかな動き。


そのすべてが、恐ろしいほど鮮明に感じ取れた。


俺は横へ一歩移動した。


身体は、わずかにも余計な揺れを見せない。


足裏が地面へ触れたときも、ほとんど音がしなかった。


俺は足元へ目を落とした。


これまでは、ただ曖昧に存在しているだけだった自分の影が、今では身体の一部のように感じられる。


目を閉じる必要もない。


意識を集中させる必要すらない。


近くにある、いくつかのつながった暗がりを自然に捉えられた。


壁の根元。


屋根の(ひさし)の下。


路地の入口に積まれた木箱の裏側。


望みさえすれば、いつでもその中へ沈むことができる。


精神35。


そして【暗影初級習熟】。


その二つがもたらした変化だった。


それだけではない。


暗影魔力(あんえいまりょく)の性質についても、以前よりはるかにはっきりと理解できる。


魔法とは、何もない場所から現象を生み出す力ではない。


火魔法(ひまほう)なら、熱を集める。


水魔法(みずまほう)なら、液体を操る。


暗影魔法(あんえいまほう)が扱うのは、魔力と光、そして影の境界だ。


一度目の人生で、俺は魔法を習得できなかった。


だが、術式(じゅつしき)について何も知らなかったわけではない。


異端審問庁(いたんしんもんちょう)記録官(きろくかん)をしていた頃、審問官が部屋を離れた隙に、拘束されている邪教徒たちと密かに言葉を交わすことがあった。


一口の水と引き換えに、魔力制御(まりょくせいぎょ)の方法を教えた者がいた。


明日まで生きられないと思ったのか、仕える神へ捧げる祈祷文(きとうぶん)や術式を、(せき)を切ったように語った者もいた。


影は、実体を持つ物質ではない。


魔法使いが本当に操るものは、光が届かないことで生まれた「欠落」だ。


当時の俺は精神が3しかなく、彼らが語る感覚を一切捉えることができなかった。


ただの役に立たない雑談として、頭の中へ記憶していただけだ。


まさか二年後、その知識が俺の強みになるとは思わなかった。


一度目の人生で、審問官の目を盗んで邪教徒たちと話していなければ。


たとえ【影渡り】を得たとしても、これほど早く暗影魔法の構造を理解することはできなかっただろう。


俺は右手を持ち上げた。


壁際に落ちていた小さな影が、わずかに揺れる。


引き寄せられるように、俺の指先へ向かって集まり始めた。


だが、半呼吸ほどしか維持できなかった。


形を保てなくなった影は、すぐに崩れ、元の場所へ戻っていく。


まだ安定していない。


だが、方向は間違っていなかった。


一度目の人生で覚えた基礎術式。


そして今の知力21と精神35がもたらす魔力制御。


この二つがあれば、夜の鐘が九度鳴るまでに、最も単純な攻撃系の影魔法を一つ習得できるはずだ。


威力は大したものにならないだろう。


それでも、今夜の行動で使える手札(てふだ)が一枚増える。


俺はパネルを閉じ、路地から外へ出た。


礼拝堂までは、もう遠くない。


天賦開示(てんぷかいじ)の儀式がまだ終わっていなかったとしても、教会はすでに俺の失踪(しっそう)に気づいているはずだ。


天賦なし。


成長適性4。


そんな人間を、教会が重視していないのは事実だ。


だが、異界人(いかいじん)は教会が莫大(ばくだい)な代償を払って召喚した財産でもある。


一人いなくなれば、さすがに捜索隊(そうさくたい)くらいは出すだろう。


どう説明するべきか。


その理由を考えながら歩いていると、前方から言い争う声が聞こえてきた。


「東側を探せと言っただけだろ。そんな簡単なことも理解できないのか?」


気だるげで、苛立ちを隠そうともしない声。


神谷玲司(かみやれいじ)だ。


俺は即座に足を止めた。


路地の外へは出ない。


反射的に一歩下がり、壁際に積み上げられた木箱の裏へ身を寄せる。


庇から伸びた影が、ちょうどその場所を覆っていた。


俺はわずかに姿勢を低くし、呼吸を遅くする。


ただそれだけで、気配が自然と沈んでいった。


転職する前なら、足音を消せと意識して自分へ言い聞かせなければならなかった。


今は、思考するよりも早く、身体が隠れるための動きを選んでいる。


ほどなくして、別の声が聞こえてきた。


「なんでお前に命令されなきゃならないんだよ!」


小野寺真也の声だった。


いつも肩を縮め、口を開く前に周囲の顔色をうかがっていた小野寺とは違う。


今の声は甲高く、大きかった。


「教官は手分けして朝倉を捜せって言っただけだ! お前が指揮しろなんて、一言も言ってないだろ!」


「何が違う?」


神谷玲司が鼻で笑った。


三枝(さえぐさ)久世(くぜ)は北側。お前は東。俺はこっちを探す」


「それが一番早い」


「それとも、S+の天賦に目覚めた途端、道の歩き方まで分からなくなったのか?」


短い沈黙が落ちた。


やがて、小野寺の声が再び響く。


「少なくとも、俺はS+だ」


「お前は?」


「たかがAランクのくせに、なんで俺の前でそんな態度を取れるんだよ?」


路地の外が、一瞬で静まり返った。


直後、三枝拓真(さえぐさたくま)が息を呑む音が聞こえた。


「お、おい小野寺。お前、ちょっと調子に乗りすぎじゃねえか?」


久世直哉(くぜなおや)も慌てて割って入る。


「みんな朝倉を捜しに来ただけなんだから、こんなことで揉める必要は――」


「黙れ」


神谷玲司が、その言葉を遮った。


声からは、先ほどまで残っていた気だるさが完全に消えている。


「もう一度言ってみろ」


木箱の陰に隠れたまま、俺は姿を見せなかった。


路地の入口に落ちる影の中へ半歩だけ移動し、壁際の隙間から外を覗く。


小野寺真也は、両拳を強く握りしめていた。


その指の隙間から、青紫色の電弧(でんこ)が少しずつ浮かび上がっていた。


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