第13話 スキル――【暗殺】!
能力値の補正から分かるのは、その職業がどの方向に特化しているかだけだ。
職業の本当の価値を決めるのは、やはりスキルだった。
俺はもう一度、【影渡り】の項目を開いた。
【初期スキル】
【暗影初級習熟】
効果:
・暗影系スキルのMP消費量を20%軽減
・暗影系スキルの熟練度獲得量を20%上昇
【暗殺】
効果:
自身の存在を認識していない対象へ攻撃した際、攻撃部位、双方の敏捷差、スキルの完成度に応じて、その攻撃が与えるダメージを最低1.5倍、最大3倍にする。
俺はまず、【暗影初級習熟】へ目を向けた。
複雑な説明はない。
二つの効果は、どちらも驚くほど単純で、露骨なまでに強力だった。
暗影系スキルのMP消費を、二十パーセント軽減する。
しかも、影法師が持つ【影魔法初級習熟】とは違う。
対象となるのは影魔法だけではない。
闇属性や呪詛系を含め、暗影に属するすべての術が、この恩恵を受けられる。
俺は先ほど、【影潜行】を実際に使用した。
現在のMPは59。
素早く移動せず、強い光にも晒されない状態であれば、維持できるのは長くても一分ほどだろう。
一分と聞けば、短くないようにも思える。
だが、実際に建物へ潜入するなら、一分では廊下一本を抜けることすらできないかもしれない。
目標を探す。
巡回を避ける。
目的を果たし、来た道を引き返す。
そこまで考えれば、あまりにも短い。
転職を終えれば、精神は大幅に上昇する。
精神の上昇は、そのままMP上限の増加につながる。
さらに、二十パーセントの消費軽減が加われば――。
今は一分しか維持できない【影潜行】も、二分近くまで延びる可能性がある。
ほとんど倍だ。
一分なら、巡回部隊を一つやり過ごすだけで終わる。
だが二分あれば、潜入し、目標を確認し、安全に離脱するところまで完了できるかもしれない。
影の中で行動する職業にとって、これは単に数十秒が増えるという話ではない。
一度の行動を、最初から最後まで完遂できる可能性が生まれるということだ。
二つ目の効果も重要だった。
暗影系スキルの熟練度獲得量が、二十パーセント上昇する。
俺の成長適性は、わずか4。
同じスキルを十回練習すれば身につけられる人間がいたとしても、俺は数十回繰り返さなければならない。
二十パーセント程度では、その差を完全に埋めることはできない。
それでも、必要な時間を確実に減らすことはできる。
第三次神戦が始まるまで、残り四百二十日。
今の俺に不足しているのは、方法ではない。
時間だ。
成長効率を高められる能力は、単純に能力値が数ポイント増えることよりも、俺にとってはるかに価値がある。
俺は、さらに下へ視線を移した。
【暗殺】。
最低一・五倍。
最大三倍。
数字だけを見れば、理解できないほど異常な効果には思えない。
だが、邪教徒たちと数えきれないほど戦ってきた俺は知っている。
本当に危険なのは、一つの倍率ではない。
複数の倍率が重なったときだ。
一度目の人生で、俺は闇に紛れて行動する邪教の刺客と何度も戦った。
奴らの筋力は、それほど高くなかった。
中には、同じレベルの戦士と比べて、筋力が半分ほどしかない者もいた。
それでも、事前に身を隠し、最適な角度から攻撃させれば、重装甲を貫き、自分より高レベルの敵さえ一撃で殺せるほどの威力を生み出した。
その理由こそ、ダメージ倍率の重複だ。
まず【暗殺】によって、攻撃の威力が一・五倍から、最大三倍まで引き上げられる。
その後、【弱点攻撃】を習得したとする。
心臓。
頸動脈。
脊椎。
防具の継ぎ目。
そうした急所を正確に貫けば、ダメージはさらに増加する。
武器に毒、炎、雷などの属性効果が付与されていれば、そこへもう一段、追加ダメージが重なる。
さらに、武器の切れ味。
攻撃速度。
双方の敏捷差。
対象が体勢を崩しているかどうか。
一つ一つを切り離して見れば、どれも常識外れというほどではない。
だが、刺客が事前に対象を観察し、攻撃位置を選び、すべての条件を同時に揃えたなら――。
最終的な威力は、単純な三倍などでは済まない。
筋力に優れていない邪教の刺客たちが、あれほど恐ろしい一撃を放てた理由が、それだった。
そして【影渡り】が与える敏捷補正は、六から九。
転職後、俺の敏捷は最低でも22になる。
上限なら25だ。
そこへ【影潜行】と、最大三倍の【暗殺】が加わる。
事前に影へ潜り込む。
相手の本当の弱点を見極める。
武器に、何らかの属性ダメージを付与する。
すべてを揃えられれば――。
俺は、同じレベルの職業者なら、誰であろうと一撃で殺せるかもしれない。
倒すのではない。
相手が何が起きたのか理解する前に、命を奪う。
胸の奥で、心臓が強く脈打った。
こんなにも純粋な高揚を感じたのは、久しぶりだった。
一度目の人生で、俺は戦士として最前線に立っていた。
十回剣を振っても、天才が放つ一撃に届かないことさえあった。
だが今回は、十回も振る必要がないかもしれない。
必要なのは、たった一撃。
正しい瞬間に。
正しい場所へ。
ただ一度、刃を届かせればいい。
それが、【影渡り】という職業だった。
あらゆる能力を均等に高めるわけではない。
それどころか、俺にわずかに残されている正面戦闘能力すら奪っていく。
その代わり、すべての力を一つの目的へ注ぎ込む。
身を隠す。
近づく。
そして、対象を殺す。
俺は再び、【影法師】の項目を開いた。
【初期スキル】
【影魔法初級習熟】
効果:
・影系魔法の威力を10%上昇
・影系魔法の拘束・妨害効果を20%上昇
こちらも、極めて実用的なスキルだった。
あらゆる影系魔法を、安定して強化できる。
攻撃。
拘束。
妨害。
どの用途であっても、確実に恩恵を受けられる。
【影法師】を選べば、失敗を許容できる余地は大きくなる。
最初の奇襲で敵を仕留められなくても、影縛りで動きを封じられる。
影幕で視界を遮り、逃げる機会を作ることもできる。
まともな道だ。
安定している。
だが――それは、あくまで普通の道でもあった。
俺の成長適性は、たった4。
一度目の人生で得た知識や経験があるとはいえ、誰もが歩ける安定した道を選んで、本物の天才たちに一年以内で追いつけるとは思えない。
天城蓮の成長適性は48。
小野寺真也は42。
あいつらは、教会が用意した道を歩くだけで、自然と強くなっていく。
俺には、そんな資格はない。
あいつらへ追いつきたいのなら、同じ道を選んではいけない。
もっと偏った道。
もっと危険な道。
常識では説明できないような道を、選ばなければならない。
体質の低下が危険であることは間違いない。
転職を終えれば、一度目の人生よりも慎重に行動する必要がある。
包囲されてはならない。
敵の最初の攻撃を、身体へ届かせてはならない。
負傷したあとでも逃げられる、などという前提で計画を立ててはならない。
潜入する前には、必ず退路を用意する。
戦闘を始めるなら、最初から自分が優位に立てる状況を作る。
【影渡り】は、失敗を許さない。
だが、考えてみれば――。
俺にはもともと、失敗に使える二つ目の命など残されていない。
少しずつ、眉間に入っていた力が抜けていった。
一度目の人生では、自分に適していない戦士という職業を押しつけられた。
今回は少なくとも、自分が進む道を自分自身で決められる。
俺はもう一度、【影渡り】を開いた。
パネルの最下部へ、新たな文字が浮かび上がる。
【隠し初級職――【影渡り】を選択しますか?】
【警告:一度選択した職業は変更できません】
俺は最後に一度だけ、【影法師】の名を見た。
そして、視線を外した。
「【影渡り】を選択する」
手を伸ばす。
指先が、確認の項目へ触れた。




