第12話 【影法師】か、【影渡り】か?
俺は【影渡り】の職業名へ触れた。
淡い青緑色のパネルが、左右へ広がっていく。
【影渡り】
位階:初級職
職業説明:
正面戦闘能力を捨て、肉体、知覚、魔力を影の中での行動へ特化させた職業。
潜入、偵察、追跡、暗殺を得意とする。
【転職時能力補正予測】
筋力 STR:-5~-4
敏捷 DEX:+6~+9
体質 CON:-4~-3
知力 INT:+3~+5
精神 WIS:+5~+8
魅力 CHA:+1
俺の視線は、上に並んだ二つの負の数値で止まった。
「……能力値が下がるのか?」
転職が、必ずしもすべての能力を強化するとは限らない。
一部の上位職や、種族そのものの変化を伴う特殊職には、特定の能力値を犠牲にする代わりに、別の能力を大幅に強化するものも存在する。
だが、そうした変化が起きるのは、普通なら中級職以降だ。
最初の転職で基礎能力を二つも削られるなど、極めて珍しい。
しかも、減少量があまりにも大きい。
今の俺の筋力は、わずか7。
転職後、最悪の場合は2まで落ちる。
体質も同じく7しかない。
こちらも、最低なら3まで低下する。
つまり、今後は正面から戦うことが、ほぼ不可能になるということだ。
筋力が低いこと自体は、まだ受け入れられる。
知力が上昇する以上、攻撃手段は魔法で補える。
武器も、短剣やショートソードのように、筋力をあまり必要としないものを選べばいい。
本当に厄介なのは、体質だ。
体質が影響するのは、持久力だけではない。
HP。
負傷への耐性。
毒に対する抵抗力。
さらには、肉体の回復速度まで体質によって左右される。
体質が3、あるいは4。
同じレベルの攻撃を受けても、他人なら重傷で済むかもしれない。
だが、俺ならその一撃で死ぬ可能性がある。
俺は眉をひそめた。
【影渡り】は、単に正面戦闘を不得意とする職業ではない。
正面から戦う能力そのものを、根本から切り捨てる職業だ。
潜入に失敗した場合。
敵の攻撃を一度でも受けた場合。
最初の一撃で相手を仕留めきれなかった場合――。
職業に就いていない今よりも、脆弱になりかねない。
その代わり、敏捷、知力、精神への補正は異常なほど高かった。
すべて下限の補正しか得られなかったとしても、敏捷は16から22へ上昇する。
精神も、28から33になる。
仮に上限を引き当てれば――。
敏捷25。
精神36。
初めての転職を終えたばかりのレベル1が持つ数値としては、すでに怪物と呼んでいい。
俺は、もう一度補正値を計算した。
すべての範囲から中間値を取った場合、【影渡り】の能力補正の合計は、一般的な初級職より二、三ポイント高い程度だった。
職業間の均衡を完全に壊すほど、総合的に優れているわけではない。
異常なのは、その配分だ。
極端なまでに、特定の能力へ偏っている。
俺は表示を閉じ、当初選ぶ予定だった職業を開いた。
【影法師】
位階:初級職
職業説明:
影系魔法を用いて、隠密、偵察、妨害、拘束を行う魔法職。
【転職時能力補正予測】
筋力 STR:+0
敏捷 DEX:+1
体質 CON:+1
知力 INT:+3~+4
精神 WIS:+2~+3
魅力 CHA:+0
【初期スキル】
・初級影魔法習熟
こちらは、ごく標準的な職業補正だった。
知力と精神を中心に強化しながら、敏捷と体質も一ポイントずつ補ってくれる。
予想外の利点はない。
だが、目立った危険もなかった。
【影法師】を選べば、知力は最低でも19に達する。
精神も30を超える。
何より、体質が下がらない。
仮に潜行へ失敗しても、影魔法で敵の動きを制限し、撤退する機会を作ることができる。
安定している。
安全性も高い。
そして、俺が当初立てていた計画にも完全に合致していた。
俺は続けて、【盗賊】と【詐欺師】の項目も開いた。
【盗賊】は敏捷を中心に、筋力と体質もわずかに上昇する。
解錠、罠の解除、近距離からの奇襲に適した職業だ。
一方の【詐欺師】は、知力、精神、魅力に補正が入る。
変装、交渉、誘導を得意とし、戦闘能力は四つの中で最も低い。
その代わり、身分を隠して行動するには極めて有用だった。
どちらにも価値はある。
だが、今の俺の主職業として選ぶなら、【影法師】には及ばない。
比較するべき職業は、二つだけだ。
影法師。
影渡り。
一つは、すでに持っている長所を安定して伸ばしながら、わずかに弱点も補ってくれる。
もう一つは、正面戦闘を完全に捨て、俺を影の中でしか生きられないような、極端な職業者へ作り変える。
筋力は、最低なら2。
体質は、最低なら3。
俺はすでに一度死んでいる。
三度目の命はない。
そう考えれば、自ら身体をさらに脆くすることが、賢明な選択には思えなかった。
【影法師】
【影渡り】
堅実な道。
そして、たった一度の失敗さえ許されない道。
俺はいつまでも、選択へ手を伸ばせずにいた。




